第17回 上野勝准教授

バイオのつぶやき第17回
上野勝准教授

(2016年10月26日)

 がんは加齢によってリスクが増大するので、高齢化が進んでいる日本では、今後さらにがんが増えることが予想される。がんは遺伝子制御の変化によって起こると考えられている。DNAの複製エラーやDNA損傷修復のエラーによる突然変異はある一定の頻度で起こるので、長く生きれば生きるほどDNAの突然変異の可能性も増大し、がんのリスクが増大する。

 加齢以外にもがんが増える要因はあると考えられる。1)質の悪い食事(脂っこいものや塩分の濃いものなど)、2)運動不足、3)精神的ストレス、4)免疫力の低下、5)喫煙、6)飲酒、7)肥満などが、がんのリスクを高めると考えられている。今後はこれらの要因がどのような重みでがんのリスクを増大させるのかについての定量的評価法の開発が期待される。

 がんは、切除可能な場合は切除することで完治が期待できるが、切除の時点でがんが転移している場合や、大きな転移はなくても目に見えないがんが、体に残っている場合がある。この目に見えないがん細胞が別の場所で大きくなるのを防ぐために、術後の補助薬化学療法(抗がん剤投与)や放射線治療が広く行われており、目に見えないがん細胞が別の場所に転移して大きくなるリスクの軽減に貢献している。ただ、抗がん剤は多くの場合、正常細胞のDNAも傷つけるので、補助薬化学療法による二次的ながんの発生のリスクについても考える必要がある。がんの10年生存率はステージが進むにつれて下がる傾向があるので、がんの早期発見率の向上が強く期待される。

 最後に、現在のがんの最も大きな残された課題について、つぶやきたい。それはがんの転移の予防である。がんが切除可能で、それが他の場所に転移しなければ、完治が期待できる。しかし、血流やリンパの流れにがん細胞がのってしまうと、全身に転移する可能性が出てくる。例えば、がん患者の40%に脳転移が生じると言われている。また、どのがんにも骨へ転移する可能性があるとされている。これまで、がんの転移を完全に防ぐ方法は開発されていない。今後は、血流やリンパでの微小がんの検出や、それらを選択的に死滅させる方法の開発、さらには、たとえ血流やリンパにがんがのってしまったとしても、脳や骨など別の場所で大きくなるのを防ぐ方法の開発が、強く期待される。

ニュージーランドから来た共同研究者Justin OSullivan博士と宮島で撮影 2015年6月

ニュージーランドから来た共同研究者Justin OSullivan博士と宮島で撮影 2015年6月


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