第22回廣田隆一助教

バイオのつぶやき第22回 廣田隆一助教「4月に思うこと」
廣田 隆一 助教
廣田 隆一 助教

2017年4月28日

 卒業生が研究室を巣立って、彼らのデータ整理や年度末の学会などを終えると、今年もあっという間に4月になった。新たな4年生がメンバーとして加わり、研究室がまた慌ただしくなった。このサイクルを繰り返すようになって、もう10年ほどになる。これだけ繰り返していると、年々自分の心持ちも変化してきているのを感じる。気持ち新たになるこの時期に思うことをつぶやかせて頂く。

 毎年のことであるが、卒論・修論を前にすると、これまでなかなかエンジンのかからなかった学生も、目を見張る勢いで実験し、なんとかデータを揃えてくる。昨年度の学生も最後のがんばりが実を結び、皆良い発表をして卒業していった。三食をレンジでチンするパスタだけで過ごし、発表直前まで実験をしていた学生もいた。追い込み時の爆発力も時には必要だとは思うけれども、見ていてひやひやするし、このがんばりをもう少しコンスタントに発揮できれば、どれほど研究がすすんだろうかと思う。

 こうして学生が卒業していくと、ほっとすると同時に、ようやく一人前になったかなと思う学生が研究室を去って行くことに、なんとも残念なうらめしいような気持ちになることがよくあった。もう少し研究室にいて実験してくれれば、論文になりそうなのに、とか、新しい展開が期待できそうなのに...、など。一方、会社や研究機関などでは、多少の入れ替わりはあるだろうが、基本的には同じメンバーで一緒に仕事をし、目標を共有し、共に経験を積み重ねながら成長できる。そのような環境をうらやましく思うこともあった。そんなことを、ある会社の研究所の方に話したところ、全く意外なことを言われた。「いや、大学の方こそうらやましいですよ。毎年必ず新しい人(学生)が入ってくるじゃないですか。」と。一般の研究所では、大学の研究室のように短期間で人が入れ替わることはあまりなく、ともすれば雰囲気がマンネリ化するようなこともあるそうだ。そうなると部署内の活性化のためにも工夫が必要らしい。その点、たしかに大学の研究室は学生が入れ替わることで、いやでも気持ち新たに仕事に取りかかる。新しい研究テーマを立ち上げるときなどはなおさらだ。それなりのエネルギーは必要だし、毎年同じ実験を一から教えるのも億劫に感じるときもあるけれども、少なくとも自分にとってはマンネリ化を防ぎ、研究のモチベーションの一部としてプラスに影響しているところはあるだろう。

 学生の側からするとどうだろうか。修士課程まで進めば、研究室で過ごす期間は3年間である。配属されたばかりの4年生にとっては、3年後なんてはるか先のことのように思うかもしれない。与えられたテーマを理解するのにも時間がかかるし、研究室や実験に慣れてきても、思うような結果が出ずスランプみたいなこともあるだろう。その間にも大学院入試、卒論修論、学会、就職活動もある。しかし、研究は時間のかかるものなので、我々スタッフの時間軸からすると、わりとあっという間にすぎる。自分の学生時代を思い返すと、今は実験技術が進歩し、研究の進め方も一昔前とはずいぶん変わり、短い期間で理解するにはたいへんな内容になってきている。自分の卒業論文はバクテリアの数キロベースの遺伝子をクローニングし、サンガー法で塩基配列決定をやっただけだったが、いまや次世代シークエンサーであっという間に全ゲノムを決定できる。さらに、遺伝子発現解析、タンパク質発現など当然のことのようにやらねばならない。

 今は平和な世の中ではあるが、科学的にも社会的にも歴史的に見れば大きな変動点だといわれる。バイオの世界も様々な発見や技術革新が相次ぎ、同様に大きな変動点にあると思う。そういう意味ではこの時代に研究に飛び込んでくる学生は大変ではあるかもしれないけれども、逆に考えると色んな事を学べて、その変化を身をもって体験できる時期と場所にいるラッキーな人たちかもしれない。さらにもしかすると、その変動を自分の手で生み出すことができるかもしれない。研究の醍醐味は、研究者自身が発見の現場に、誰よりも早く立ち会えることにあると思う。今年の4年生も、まだ右も左もほとんど分からない状態で入ってきて、5月の連休でようやく一息といったところだろう。この時期はバタバタと落ち着かないけれども、最近はフレッシュな期待感のようなものを感じるようになってきた。今年度もその期待感を(良い)驚きや楽しみに変えられるよう研究に取り組んでいこうと思う。

休日の研究室

休日の研究室。いつもは人がいます。


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