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広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2021年1月30日(土)に、第66回定例オンラインセミナー「広島叡智学園 未来創造科プロジェクト(3)―平和をいかに定義するか―」を開催しました。
広島叡智学園プロジェクトシリーズでは、Peace Makerの育成をねらいとするGlobal Justiceの単元デザインと子どもの学びに注目し、ヒロシマ発・HiGA発の平和教育のあり方を提案しています。第3回の最終回は、Global Justiceの第2単元「概念プロジェクト-専門家の考えを学び、使いこなそう」(以下、本単元)の成果をめぐって意見交換を行いました。
第1パートでは、広島大学の草原和博教授が本プロジェクトの歴史的経緯を紹介するとともに、本単元のカリキュラム上の位置づけを解説しました。
第2パートでは、本プロジェクトを構想し実践した広島大学の大学院生が、本単元の指導を記録映像を交えて紹介しました。具体的には、①米国のIDMモデルを参照したカリキュラムデザイン、②直接的暴力から構造的・文化的暴力まで多様な非平和な状態を捉える社会諸科学の概念をベースとした単元構成、③概念を活用して、子どもの外部世界に広がる非日常的な非平和から子どもの生活に埋め込まれた日常的な非平和な構造までを順次捉えなおしていく単元展開、④概念と対応した社会現象をリアルに再現する教材の選定、⑤概念を適用した一次資料の読解、あるいは自己の評価・行動をめぐって意見表明する場面づくりなど、単元構成の基本原則が語られました。
第3パートでは、学習成果物を手がかりとして、概念を活用した「平和」の意味の捉えなおしの実態について報告が行われました。分析結果を踏まえて、両者の関係は必ずしも単線的の進行するわけではなく、概念学習を契機に平和観の省察を促進させることは容易ではないこと、また、平和は「どれも大切」といった相対化志向や「平和なんてムリ」いった諦観志向も確認できることが報告されました。
第4パートでは、広島県立広島叡智中高等学校の徳田敬氏と草原教授が1年間の協働実践を振り返りました。徳田氏は、今回のデータには必ずしも表れていないが、子どもには普段の学校生活の中で概念に影響を受けた発言や行動が認められること、直ぐには言語化できないが平和をめぐる深い思索と逡巡の跡が認められること、平和というテーマを継続的螺旋的に学ぶ機会を作っていく必要性などが報告されました。最後に原爆文学を研究する川口隆行教授と教育哲学を専門とする丸山恭司教授よりコメントをいただきました。参加者との質疑を通して、教育のもたらす意味を、学校の各教科の時間内だけでみとることの限界、そして生活や社会との関わりの中で学校での学びをいかに意味づけ、活かしているかを捉えていく可能性が確認されました。
本セミナーは、平和教育を共通テーマに異なる分野の専門家が語り合い、記憶と表象の視点から平和教育の新たな展開を考える貴重な機会となりました。3回のシリーズを通してご参加いただいた方々に御礼を申し上げます。
趣旨説明をする草原和博教授
単元全体のデザイン原理(大学院生)
考察を踏まえた、成果と課題(大学院生)
HiGAによる1年間の振り返りを述べる徳田敬氏(広島県立広島叡智中高等学校)
教師の平和観の問い直しをコメントする川口隆行教授
平和を自分事として考えるとコメントする丸山恭司教授
広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室