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【開催報告】【2021.02.06】広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」が第68回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(4):評価と試験」を開催しました

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2021年2月6日(土)、第68回定例オンラインセミナー「主権者教育の改革を考える(4):評価と試験」を開催しました。

「主権者教育を考える」シリーズは、科学研究費助成事業(国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「オーストリア政治教育の挑戦-教室空間で政治問題をいかに教えるか-」)の成果発信と実践者との対話を目的としています。本科研では、草原和博教授を代表者に、日本体育大学の池野範男氏、広島大学の川口広美准教授、渡邉巧准教授、金鍾成助教を研究分担者として、オーストリアのグラーツ大学およびウィーン大学の研究者と共同研究を進めてきました。文部科学省の調査によると、多くの学校で主権者教育は実施されていると報告されてはいるものの、その内容は選挙制度の理解や模擬選挙の体験に留まり、子どもがナマの社会の論点や課題にふれる機会は稀です。そこで16歳から選挙権を付与し、学校のなかで社会の論点や課題を積極的に扱ってきたオーストリアの取組に注目し、主権者教育の「実質化」、そして社会科教育の「再政治化」のための戦略を考察していきます。

特に今回は、オーストリアを中心とする欧州の教育事情に詳しく、『変動する大学入試ー資格か選抜か、ヨーロッパと日本』を出版されたばかりの伊藤実歩子氏(立教大学)をお招きし、「オーストリアのマトゥーラ改革と 歴史・社会・政治科の評価」についてご講演をいただきました。

伊藤氏のお話では、①オーストリアでは2000年代にはPISAショックに由来する教育改革が加速した、マトゥーラ(中等教育資格修了試験)の改革もその流れに位置づくこと、②マトゥーラは、学校単位で実施される課題論文と、同一日時同一内容で試験される記述試験(外・数・独)、そして口述試験の3本柱があること、③記述試験が統一化・中央化される一方で、コンピテンシーと高大接続を意識した課題論文が必修化され、伝統的な口述試験が残るという対照的な動きが見られること、④口述試験は、各教科の内容と方法の組み合わせで作成され、事前に準備された問題からランダムに出題されること(教育的な介入や配慮の余地が低減したこと)、⑤都市部でのマトゥーラの大衆化が進んでいること、などが報告されました。

同発表に対して、指定討論者の池野氏、川口准教授、渡邉准教授、金助教より多面的な質問が提起されました。具体的には、マトゥーラにおいて期待されている(日本とは異なる)「公正さ」とは何か、記述試験の内容にオーストリアの標準的な政治規範や民族性が投影されることはないのか(移民等のオーストリア化の装置になってはいないか)、立ち振る舞いや言葉使いを含みこむ口述試験は階級の再生産につながらないのか、マトゥーラの評価方法が3つに分かれたことの意味とは何か、などの論点をめぐって意見が交わされました。

最後に司会の草原教授より、東アジアと欧州の試験をとりまく制度的文脈の違い、中等教育資格試験だからこそ評価主体としての教師への信頼とそれを裏付ける専門性と自律性が依然として残っていること、また資格試験ゆえに問題がプールされ、それを社会の誰もが参照できるシステムが構築されていることの意味についてコメントがありました。

報告者と指定討論者との対話を通して、市民性を多面的なアプローチで評価していくことの意義が確認されました。本シリーズでは、引き続き「日本の主権者教育の改革を考える」指針を考えてまいります。

趣旨説明をする草原和博教授(左)と金鍾成助教(右)

マトゥーラ試験の改革について述べる伊藤実歩子氏(立教大学)

主権者像・市民像について質問する川口広美准教授

教師への支援・教師教育について質問する渡邉巧准教授

ヨーロッパの文脈について質問する池野範男氏(日本体育大学)

指定討論における質問のまとめ(金助教)

当日の様子はこちらをご覧ください。
セミナーシリーズについてはこちらをご覧ください。

 

【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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