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【開催報告】【2021.03.07】広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は第73回定例オンラインセミナー「教師教育者のためのセルフスタディー研究の歴史・思想から実際まで-(4)」を開催しました

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2021年3月7日(日)に,第73回定例オンラインセミナー「教師教育者のためのセルフスタディー研究の歴史・思想から実際までー(4)」を開催しました。

「教師教育者のためのセルフスタディ」シリーズは,国際的な研究方法論として広がりをみせるセルフスタディについて,広く深く参加者とともに学んでいくセミナーです。様々な専門職の職能発展において活用できる可能性を持つセルフスタディですが,本シリーズでは,特に教師教育者に焦点をあてます。日本における教師教育者のセルフスタディの受容と発展について,その歴史や思想,そして海外事例を含む実践の諸側面から検討していきます。

本シリーズは,最終的にシリーズタイトルと同名の書籍の出版を目指しています。この研究/出版プロジェクトは,齋藤眞宏氏(旭川大学),草原和博教授,渡邉巧准教授,大坂遊氏(徳山大学・EVRI教育研究推進員)の共同研究です。シリーズ企画は,科学研究費助成事業の一環「「先生の先生」をいかにして育てるか-教師教育者の専門性開発-」及び「駆け出し社会科教師の専門性開発研究:「理論的根拠」の形成支援に注目して」としても実施されています。

シリーズ第2回からは,シリーズの帯企画として「海外セルフスタディ研究の紹介」と「日本のセルフスタディ事例紹介」の企画の2本立てで進めてきました。前者は,海外の特筆すべきセルフスタディ研究事例を取り上げ,その研究の方法論的な特質や,研究の意義について示す企画です。後者は,日本における大学ベースの教師教育者が行ったセルフスタディ研究の実例を示す企画です。

シリーズ第1回の開催報告はこちら
シリーズ第2回の開催報告はこちら
シリーズ第3回の開催報告はこちら

セミナー前半の「海外セルフスタディ研究の紹介」企画では,西田めぐみ氏(アイスランド大学大学院)から,アイスランドにおける西田氏ご自身のセルフスタディ実践が報告されました。西田氏は,まずアイスランドに移住して幼稚園教諭として働き始めたことや,その中でセルフスタディを始めることになった経緯などを紹介しながら,セルフスタディにおける手法のひとつであるメタファー(比喩)を通じて,自身の経験を分析・省察するようになったことを説明しました。西田氏は,「船をつくる」というメタファーを用いることによって,クリティカルフレンドと一緒に葛藤や成長を振り返りながら言語化し,ナラティブを使った「ストーリー」として表現できるようになったこと,経験から得た「知恵」をもとに船を造り替え,持ち前の「勇気(根性)」を持って自らの力で新しい場所を目指し,「理論」を羅針盤として航海を続けていくというアイデンティティを持つことができるようになったこと,などの成果が得られたことを紹介されました。

大坂氏

西田氏

セミナー後半の「日本のセルフスタディ事例紹介」企画では,「『多文化保育・教育』がわかる保育者を養成する教員には何が必要かを考え“続ける”」と題して,内田千春氏(東洋大学)と齋藤氏によるセルフスタディが報告されました。当初のリサーチクエスチョンは「なぜ学生たちの変わり続ける力・自分を相対化する力を大事にしているのか,そのためのペダゴジーは何か」というものでした。しかし約1年間にわたり,対話を積み重ねていくうちに「2人の専門分野や興味・関心の近さゆえの共感的対話から何が生み出されたのか,そしてクリティカルフレンドの役割について」がテーマになっていきました。その結果,以下の成果が報告されました。
① 学生たちは簡単には変われないし自己を相対化できない。将来の学生の変容のための基盤づくり(耕す・種を撒く)のが授業における基本方針であり,そのために「待ち(be it, but)のペダゴジー」が大事になる。
② 教師教育者もまた簡単には変われない。自分を常に変革可能な状態に保つために「時々」同等の立場の対話的他者を必要とする。 クリティカルフレンドの齋藤氏からは「学生と学生たちが将来関わる子どもたちのために,より良い授業を行いたいという思い」「教師教育者としてのあり方への共感」がクリティカルフレンドの前提であるという視点も提示されました。

内田氏

齋藤氏

お二人の発表に対し,指定討論者でもある西田氏からは,内田氏の経験やセルフスタディの経緯に「私が通ってきた道だ!」と共感しながらも,①内田氏の場合はどのような方法で教師教育者としてのアイデンティティを獲得した(あるいはしようとしている)のか,②リサーチクエスチョンが定まらない状態では不安な面が大きかったか,それとも好奇心が勝っていたか,③セルフスタディを通して見出された「待ちのペダゴジー」や「種まき」という考え方について,の3点が質問として出され,内田氏・齋藤氏とディスカッションがなされました。

同じく指定討論者である米沢崇准教授からは,まず西田氏が用いたメタファーという方法について質問がなされました。メタファーを用いることが自分の実際の経験と結びついていくことで,知識や技能の獲得や成長につながるという教師教育的な意義を確認した上で,そのようなメタファーを用いるプロセスが,長いスパンをかけて行われるセルフスタディの中でどのような意味を持つのかが問われました。また,内田氏らの発表に対しては,ご自身のセルフスタディがどのように組織や社会の中でつながっていくのか,個人と社会・組織の間に起こる相互作用についてどのように考えているのか,について質問がなされ,登壇者全員でディスカッションが行われました。

米沢准教授

ディスカッションの様子

ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では,「メタファーを用いたナラティブは同僚の先生方やクリティカルフレンドの専門性開発にどのように寄与したのか」「学校教員はどのようにしてクリティカルフレンドを見つければよいのか」「セルフスタディを進める際の阻害要因や促進要因は何だったのか」といった質問や,「セルフスタディを行う主体はともすると自己の実践や信念の正当化に繋がりかねず,それを検証・省察する存在がクリティカルフレンドなのではないか」といった意見も出されました。セミナー終了後も,残った登壇者と参加者の間で,Q&Aにも多く登場した「待ちのペダゴジー」の具体や教師教育的意義について,自身の経験や見聞きした知見を共有するといった形で活発に議論が続けられました。ディスカッションを通して,シリーズを重ねる中で参加者の関心が「セルフスタディとは何か」「セルフスタディはどのように行うのか」といった概念理解や方法論の理解から,「セルフスタディは何のために行うのか」という目的論の探究へとフェーズが移りつつあるように感じられました。

2020年度のセミナーはこれで終了となりますが,2021年5月にはシリーズの最終回が待っています。本シリーズでは,引き続きセルフスタディを通じた日本の教師教育の発展を考えてまいります。

当日の様子はこちらをご覧ください。

セミナーシリーズについてはこちらをご覧ください。

 

【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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