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草原和博教授(広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」拠点リーダー)は,2021年度から,東広島市教育委員会と連携して,市内複数の小学校をオンラインで結んだ広域交流型オンライン社会科地域学習を開始しました(プロジェクトリーダー:草原教授)。GIGAスクール構想の推進によって実現した子どもたちの「1人1台」端末と学校のICT環境を活用して,市内各地からの中継を交えながら,東広島市の地理・歴史・政治・経済・文化などについて対話的・双方向的に学びます。さらに,この学びを広島大学の教員と大学院生がコーディネートします。
本年度は,2021年6月の試行に基づいて,毎月1回2時間,テーマを決めて授業を行います。この企画が実現することで,小規模校と大規模校の子どもが,年間を通して,各地域のようすを比較したり交流したりしながら学びを深められるように工夫しています。
2022年1月19日,プロジェクトリーダー草原教授と永田良太教授,広島大学の学生・大学院生らは,東広島市内小学校6校13学級(三ツ城,原,板城,中黒瀬,高美が丘,豊栄)の4年生(416名)が参加した,「外国人市民」をテーマとするオンライン授業を実施しました。
1時間目の導入は,東広島市の外国人市民の人数と人口割合を予想するクイズから始まりました。子どもたちはタブレットを使って回答しました。東広島市に在住する外国人市民は約7,000人です。多くの児童は,広島県で最も外国人市民の割合が多い市を「広島市」と予想しました。しかし実際は3.6%の「東広島市」でした。この数字は,他の市町村に比べても突出して多いことが,統計から確認されました。
1時間目の中心的な課題は,「なれない土地には,どんな「くらしやすさ」や「くらしにくさ」があるのだろう?」でした。事前に自分が外国に行って生活をするときには,どんなことで困りそうかを予想をしました。「言葉が読めない、話せない」「お知らせの文章が分からない」「学校の勉強が分からない」などのお困りがあがりました。そこで,家族の仕事の都合でドイツで生活をした吉田さん兄妹(小学生)へのインタビュー動画を視聴しました。授業についていけないなどの「くらしにくさ」はあるものの,サッカーを通して地元の友達と遊んだり,迷子になったときに優しく教えてもらえる「くらしやすさ」があることを聞きました。また結婚してアイスランドに移住した西田さんからは,物価が高いことや天候が不順なこと,アイスランド語がわからないという「くらしにくさ」がある一方で,外国人への差別は少ないこと,大学や高校の入試がないことなどの「くらしやすさ」があることを,LIVE中継で聞きました。
次に,東広島に住んでいる外国人市民はどこから来ているのかをクイズ形式で確認しました。グラフを見て,最多は中国であることを確認しました。その後,東広島の「くらしやすいさ」と「くらしにくさ」について,留学生に直接尋ねる活動を展開しました。中国から来た孫さん,インドネシアからきたムティアさん,タイからきたスィダラーさんに東広島が「くらしやすいか」「くらしにくいか」を○×カードで回答していただき,なぜそう思ったかを話してもらいました。自然が豊かなこと,差別がないこと,イスラム教徒のためのハラルショップがあることなどが「くらしやすい」と評価される一方,ヒジャブをつけていると仕事(アルバイト)が見つからない,スマホ決済できるお店が少ない,ハラルの外食が難しいなどの「くらしにくさ」が指摘されました。
2時間目では,「外国から来た人にとって,東広島を「くらしやすいところ」にするにはどうしたら良いか」を考えました。まず各クラスで改善したい「くらしにくさ」を選び,問題の解決策を考えました。解決策を考えるにあたっては,「私でもできること(心がけ)」と「市こそするべきこと(しくみ)」の2つの側面から解決策を構想しました。また「市こそするべきこと」については,市役所や市議会の人に直接伝えることになりました。「私にでもできること」としては,ジャスチャーで伝えることや見た目で差別しないことなどが挙げられました。「市こそするべきこと(しくみ)」としては,看板やメニュー表を多言語で表示すること,翻訳アプリを開発すること,日本語教室を開催すること,キャッシュレス決済対応のお店を増やすことなどが挙げられました。
この指摘を受けて東広島市の生活環境部市民生活課の松井さんは,市では複数の言語で対応できる相談所を置いていること,話せるレベルに応じた日本語教室が開催されていること,市役所に英語・中国語・日本語を話すことができる職員がいることを教えてくださいました。東広島市議会員の北林議員は,看板を複数の言語で書くという児童の提案を取り上げ,電車やバスの案内を多言語にしていくこと,外国人に優しくしていくことが大切と述べました。鈴木議員は,病院で自分の体調を伝えるカードやホワイトボードを作るという児童の提案を取り上げ,病院だけでなく他の場所でも使える提案はないかなと問いかけました。子どもからは,自己紹介カードをつくったり,案内にピクトグラムを取り入れたりしてはどうかと回答がありました。鈴木議員は素晴らしい提案だと述べ,お褒めの言葉をいただきました。
最後に日本語教育を専門にする広島大学の永田教授からお話を伺いました。日本人が当たり前にしていることの中にも外国人にとっては困ることがたくさん眠っていること,隣の人が何か困っているのではないかと考える思いやりの気持ちを忘れないこと,積極的にコミュニケーションをとること,優しい日本語で話しかけること,外国人にとって住みやすいまちは,私たちにとっても住みやすいまちであること,などが話されました。
2時間を通して,「くらしやすさ・くらしにくさ」を視点に,外国人市民にとっての生活とその課題を引き出し(第1時),課題の解決策を構想し,「くらしやすさ」のために直接市役所や市議会に政策提言していく(第2時)社会科らしい学習となりました。
豊栄小学校にて授業をする様子(草原先生)
投票の理由について発表する児童の様子
吉田くんのドイツでの暮らしの様子
アイスランドにいる西田さんの話を聞く様子
留学生(孫さん・ムティアさん・スィダラーさん)と永田先生
市でこそ解決することのまとめの様子
市役所からの中継の様子
市議会からの中継の様子
EVRIは,引き続きICTを活用した新しい地域学習のヴィジョンを提案し,それを教育関係機関と連携しながら企画・実施してまいります。
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広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室