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【2022.02.20】第107回定例オンラインセミナー「IBに学ぶ探究的な歴史学習」を開催しました

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,2022年2月20日(日)に,第107回定例オンラインセミナー「IBに学ぶ探究的な歴史学習」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に68名の皆様にご参加いただきました。
はじめに,棚橋健治教授(広島大学)より,本セミナーの趣旨が説明されました。
歴史の学びには史資料の活用は不可欠です。しかし,多くの場合,史資料は教科書記述や教師の発言の裏付けとしてのみ働き,教科書執筆者や教師の思考の結果として形成された知識を正当化し,その暗記に疑いを抱かせない力となっているのではないでしょうか。これでは授業は探究的な学びの場とはなりづらいでしょう。史資料の活用とは,歴史研究者がそれによって歴史的事象についての知識を形成するプロセスそのものであり,歴史の探究的な学びは,生徒が歴史研究者と同じように史資料に向き合うことによって,知識を形成していくものなのではないでしょうか。

歴史家は,なぜ,どのようにしてこのような歴史像を作り上げているのでしょうか。自分はそれに賛同できるのでしょうか。賛同できるとしたら,あるいは賛同できないとしたら,それはなぜなのでしょうか。新たな事象に対して,自分は,どのようにしてその事象を解釈して歴史像を造るでしょうか。IBの歴史授業は,「批判的思考のスキルを養い,歴史に複数の解釈があることを理解する『過去の批判的研究』を行う」ものとなっており,そこでは,史資料は常に批判的検討の対象となっています。

このような探究的な歴史の学びを実現するものとして,私たちの共同研究グループ(広島大学「IBの理念を踏まえたカリキュラム・授業・評価の開発的研究」チーム歴史教育研究グループ)はIB教育に学び,IB認定校,一条校を問わず実施したいレッスンプランを提案することで,これまで社会科の本質的問題点として指摘されてきた,でき上がった知識を所与のものとして,その暗記に終始することが多いという事態へのひとつの対応策を検討の俎上に載せました。

以上のような説明により,本セミナーの問題意識・論点等がセミナー参加者との間で確認されました。

 

次に,玉井慎也さん(広島大学院生)から「レッスンプラン「東アジアにおける日本の拡張政策」の説明」と題して発表が行われました。まず,IBDP「歴史」の構造の概略と,そこにおける本日のレッスンプランの位置づけなどが説明され,それに続いて,IBの評価目標と評価問題から具体的に求められる力が描き出され,それに基づいたレッスンプランが紹介されました。また,IBで実際に使用された評価問題の分析から,重点的に育成することが意図されているスキルを4点に整理しました。すなわち,「資料から情報を抽出し,推測する“理解”スキル」「資料の意義と不足を分析する“価値・限界”スキル」「資料の類似と相違を整理する“比較・対比”スキル」「資料と既有知を関連付ける“評価”スキル」です。

本セミナーでは,単元の第2次に当たる4時間分のレッスンプランを紹介しました。第2次の目標は,4つのスキルの「獲得」であり,各スキルを統合的に用いるようにレッスンプランを構成しています。東アジアにおける日本の拡張政策の要因について,日本の政治経済,中国の政情不安に関する歴史学者の主張に対して,一連の流れで各スキルを使用しながら,史資料を批判的に分析し,論証するパフォーマンス課題に取り組み,各スキルの獲得を目指します。

趣旨を説明する棚橋教授

IBの評価項目について説明する玉井さん

以上の発表を受けて,春木武志氏(広島県立安芸府中高等学校)からは,IB校以外の一般の高等学校での活用という視点から,新しい科目である「歴史総合」を念頭に,本セミナーから得られる示唆を抽出・整理頂きました。春木氏によると,IBDP「歴史」のねらいと「歴史総合」のねらいには,明確な対応関係があるわけではないが,共通点が多いとされます。

「歴史総合」では冒頭の大項目「歴史の扉」で,「資料に基づいて歴史が叙述されていることを理解すること」「複数の資料の関係や異同に着目して,資料から読み取った情報の意味や意義,特色などを考察し,表現すること」が求められていることが取り上げられ, 「歴史叙述には,資料の種類,特性,作成の時期,場所,主体,目的,脈絡等を踏まえた批判的な読み取りと吟味が重要」であることに生徒が気づく学習が求められていると指摘されました。

そして,レッスンプランで提案された育成するべき4つのスキルについて,「理解」「比較・対比」は,多くの授業の史資料活用で行われている(育成が図られている)といえるが,「価値・限界」「評価」は,これまで授業の史資料活用場面であまり行われていない(育成が図られていない)とし,「歴史総合」ではこの4つのスキル全てが必要となる点で,本レッスンプランは示唆に富むとの見解を示されました。

 

IBDP「歴史」と「歴史総合」の共通点について語る春木氏

 

さらに,ウェビナーのQ&A機能を活用して質疑応答や意見交換が行われました。いただいたご質問の中からいくつか紹介しましょう。

・史資料の批判的読解に対する動機付け・意欲付けほどのように行うのか。

・史資料の批判的検討を行う授業では,歴史学的なスキルの獲得を通して,歴史を探究できる一方で,生徒に対する学習の必要性を感じにくい(実生活・実社会と離れた)部分があるのではないか。どのような工夫があれば,生徒が史資料の批判的検討に取り組みやすくなるのか。

・史資料読解を行わせるためには,提示する史資料の『質』が極めて重要である。資料1~18はどのような視点・方法で収集されたものなのか。

また,いただいたご意見の中からいくつか紹介しましょう。

・(IBDP以前の小中学校での歴史授業が,欧米では)史料批判など『歴史家のように』学ぶ授業の在り方が一般的なイメージがある。 中学校までの日本の歴史教育の在り方を踏まえないとIBも『歴史総合』もその目標・理念の達成が難しいのではないか。

・DPであれば,歴史以外の授業(TOK)を通して歴史家が用いる方法論について考察を深めることになろう。(そこでも)資料批判についてはかなり意識されているかと思うが,資料批判もとにして行われる歴史家の研究・分析手法への批判的検討がもう少しあれば,歴史という学問の価値と限界についても踏み込めるのではないか。

・バートンらは,子どもの歴史を学ぶ意味づけに関して,「現在を説明する支え」や「教訓を得る」ことと指摘している。歴史学の学問方法を身につけることを,歴史を学ぶ目的と同義と捉える生徒はまずいない。本実践を通して,生徒が「学ぶ意味を実感したか」どうかは疑問である。

これらの質問や意見を通して,史資料の批判的検討の必要性と,生徒の興味・関心と歴史との関係性をめぐって,議論が弾みました。

セミナー後には,紙媒体の資料送付の希望も寄せられ,実際にこのレッスンプランをベースにした授業を試行してみたいという声もいただきました。多くの方にお試しいただき,練り上げていっていただけることを期待しています。

 

今後もEVRIでは,IB教育の研究と実践を手がかりに,これからの日本の教育をどのように改善・変革していけるかを検討してまいります。

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【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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