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広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)は,2021年度から,東広島市教育委員会と連携して,市内複数の小学校をオンラインで結んだ広域交流型オンライン社会科地域学習を開始しました(プロジェクトリーダー:草原和博教授)。GIGAスクール構想の推進によって実現した子どもたちの「1人1台」端末と学校のICT環境を活用して,市内各地からの中継を交えながら,東広島市の地理・歴史・政治・経済・文化などについて対話的・双方向的に学びます。さらに,この学びを広島大学の教員と大学院生がコーディネートします。
本年度も毎月1回2時間,テーマを決めて授業を行います。この企画が実現することで,小規模校と大規模校の子どもが,年間を通して,各地域のようすを比較したり,交流したりしながら学びを深めることができます。
2022年9月13日,東広島市内小学校5校9学級(寺西,原,高美が丘,豊栄,入野)の4年生(286名)が参加し,「命とくらしを支える水」をテーマとするオンライン授業を実施しました。今回の授業では,東広島市の水道料金が高い理由を,①外部依存,②広域性,③供給の小ささ,④需要の大きさから説明することを通して,安全安心な水の安定供給のあり方とその意義について学習することが目指されました。
導入部では,「水道水とは何か」を問い,本授業全体の問いを導きます。授業冒頭ではまず,事前アンケートの結果が示されました。「あなたの家の水は有料ですか」という問いに対し,36.3%の児童が有料,57.8%の子どもたちは「わからない」と回答しました。すなわち,残りの5.9%の児童は無料であると答えたことになります。参加校の1つである豊栄小学校の子どもたちは,ほとんどの家で井戸水を利用しており,水に料金がかかっていません。そのことが他の小学校に共有されることによって,東広島市の水の供給状況の多様性が確認され,私たちの水利用を見つめなおすきっかけとしました。
続いて,参加している児童にリアルタイムでのオンラインアンケートを行い,東広島市の人口19万人に占める有料の水道水の利用状況を予想しました。6万人,12万人,16万人,19万人のそれぞれの選択肢に対し,6万人が7.1%,12万人が36%,16万人が49.4%,19万人が7.6%という回答が寄せられました。正解である16万人と予想した児童が約半数となりました。授業者は,3万人程度は水道水ではない井戸水や山水を利用していること,水道水を利用している割合が全国平均や県平均よりも低いことも確認しました。
その上で,県内の水道料金の一覧表と地図を提示します。子どもたちは,島嶼部や山間部などの人口が少ない地域で基本料金が高いことを読み取ったほか,東広島市の基本料金は「どちらかというと高いから,もっと安くなってほしい」という意見が寄せられました。これらの声を踏まえ,本時の学習課題である「東広島市の水道料金は,なぜ高いのはなぜだろう?」が設定されました。
続く展開部は,この課題に答えていくための,2つのパートで構成されました。
第1パートの主要な問いは,「なぜ東広島市は水道料金が高いのかな?」です。まずは,その理由を各クラスで自由に予想していきます。子どもたちからは「他の市から買っているから」「山が多く水が取りにくいから」「浄水場が少ないから」「動物や人間がたくさん水を使うから」「色々なことにお金が必要だから」といった多様な予想が挙げられました。
続いてこれらの仮説を市水道局担当者へのインタビューをもとに検証していきます。担当者からは,まず東広島市内のほとんどの地域で県用水の水が利用されていることが示されました。特に5つの参加校の校区は,いずれも東広島市内の水を(ほとんど)利用していない地域にあること。市全体で見ても市内の浄水場で作っている水は全体の1/10程度で,ほとんどの地域は市外からくる水(県用水)が配られているという事情が話されました。授業者の「県用水は無料でもらえるんですよね?」という問いかけに,「県用水は有料であり,東広島市の水道料金の約半分が県用水の購入費用に充てられている」と応答があり,みんなでがっかりします。担当者は,市外から水を運んだり,市内の配水施設を設備したりする過程で費用が膨らんでいくカラクリを開示しました。これらを踏まえ,東広島市の水道料金が高い理由は,市外から足りない水を買ったり,市内で水をつくったり送ったりするのに,お金がかかるためである(=①外部依存,②広域性)という第1時のまとめが行われました。子どもからは,「東広島市内の浄水場だけでどうにか賄うことはできないのか?」などの質問が提示され,水道局の担当者からは,水利権というルールがあって,たとえ水があっても自由に使えない事情が解説されました。
展開部の後半は,前半の学びを受けて「なぜ東広島市では水が足りないのだろう(高い県用水を買わなくてもいいのに)?」の問いを探究していきました。この問いについても,まず子どもたちがたくさんの予想を上げていきます。川の流れと東広島市の位置を示す地図と給水人口に関わるグラフを手がかりに,「東広島市では人口が増えているから」「山の中で川の水か少ないのではないか」「施設を作るお金がないから」などの仮説がどんどん提起されました。
予想の後は,専門家へのインタビューを通して,これらの子どもたちの予想を確かめていきます。本学の地理学者・熊原康博准教授からは,「みんなの仮説の中に結構答えがあった」とコメントしたうえで,雨水を貯める範囲が少なかったり,上流部に大きなダムがなかったりする黒瀬川の特徴や地域の人口増加からその理由(=③供給の小ささ)を説明していきました。それに対し,授業者からは,事前にドローン撮影した三永水源地の映像を見せながら,「でも市内には大きなダムがあります。あそこの水を使えばいいのではないか?」と反論を加え,熊原准教授に揺さぶりをかけます。それに対し,熊原准教授からは,同水源地は戦時中に呉に水を送るために作られた「呉市の施設」であることを,「立ち入り禁止 呉市上下水道局」の看板が掲げられた水源地付近からのライブ中継で解説を加えました。さらに水道局の担当者からは,1982年の広島大学の移転や工場・団地の増加にともなう水需要の高まりも理由であること(=④需要の大きさ)が説明されました。
終結部は,2時間の授業のまとめです。展開部までの学びに加えて,2本の動画を視聴し,空間・時間の比較を通して,安全安心な水の安定供給の意義について考えを深めていきます。具体的には,厳しい衛生状態にあり,水汲みに時間を割かれるブルンジの子どもの動画と,井戸水に頼っていた40-50年前の東広島の水事情に関する幼稚園理事長のインタビュー動画を視聴したうえで,「もしも【水道・県用水】がなかったら,私たちは…」の続きを考える最終課題が示されました。子どもからは,その続きとして「汚い水を飲まないといけない」「安全な水が届けられず,困ってしまう」「清潔にできず,もしかしたら授業も受けられないかもしれない」などの文章が提起されました。本活動を通して,決して「当たり前」とはいえないライフラインとしての上水道の意義を,子どもなりに意識化・言語化することができました。
今回の授業では,子どもにとっては身近ながらも,実態はよく見えていない水をテーマに,水道料金に着目することで,水道の安定供給を支える社会システムを探究しました。その過程では,水道の通っている町と通っていない町,水道料金の安い市と高い市の比較,県全体の水供給のネットワークの俯瞰,そして過去や外国の水事情との対話を通して,「安心して飲める水がいつでも得られる」システムが構築される背景と意味を多面的・多角的に考えることができました。EVRIでは今後も,「広域交流」「オンライン」「社会科」の特性を活かして,より良い授業を開発,提案していきます。
入野小学校にて授業をする様子(草原教授)
地図をもとにワークシートをまとめる児童
浄水場からの中継(山持氏・田中さん)
三永水源地からの中継(熊原准教授・岩佐さん)
井戸水について語る難波氏・聞き手の川本さん
中継映像を視聴する児童
仮説を他校に発表する児童
手を振って他のクラスに挨拶する児童
EVRIは,引き続きICTを活用した新しい地域学習のヴィジョンを提案し,それを教育関係機関と連携しながら企画・実施してまいります。
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広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室