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【開催報告】【2022.11.01】定例オンラインセミナーNo.124「教師教育者の育成をデザインする-フォトボイスをもちいたTA経験のリフレクション-」を開催しました。

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、教師教育・授業研究ユニットの活動の一環として、2022年11月1日(火)に、第124回定例オンラインセミナー「教師教育者の育成をデザインする-フォトボイスをもちいたTA経験のリフレクション-」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に51名の皆様にご参加いただきました。

本セミナーでは、教師教育者の一人として学部生の教師教育に携わる大学院生の活動に注目し、①いかに大学教員と協働的にカリキュラムをデザインしたか、②TA経験を通して教師教育者としてどのような専門性が構築されたか、を究明し、それを「フォトボイス(Photovoice)」の手法を通して省察した事例報告を行うことを目的とします。

はじめに、司会の草原和博教授(広島大学)より、本セミナーの趣旨が説明されました。
1つ目は、広島大学の新たな使命です。本学・人間社会科学研究科は、「これからの社会で期待される教育ビジョンをデザインできる教師教育者(teacher educator)を育成する」ために、教師教育デザイン学プログラムを設置しました。
2つ目は、TA制度の特色です。本研究科の目標を実現するために、本学ではPTA・QTA・TFという3階層のTA(Teaching Assistant)制度を設けています。
3つ目は、草原教授の講義の特色です。TAと協働して、教師を目指す学部生の教育を行うと同時に、教師教育者を目指す大学院生の教育も担うことで、教師教育デザイン学プログラムの目標達成を目指しています。
以上を踏まえて、本セミナーでは草原教授が担当する主に教育実習前の学部2年生(約100名)を対象とした「社会系(地理歴史科)指導法」という講義を取り上げました。そして、2名のTAによる写真撮影とその意図の言語化を通して上の目的に迫るとともに、あわせてその過程で変容したTAの「教師教育者」像を明らかにすることが、セミナーの参加者全体で確認されました。

セミナー実施の背景と趣旨を説明する草原教授

次に、玉井慎也さん・正出七瀬さん(広島大学大学院生)から「教師教育者としての経験とその意味を物語る」と題して事例報告が行われました。報告は、大きく3つのパートに分かれます。第1パートは、玉井さんと正出さんのライフストーリーについてです。第2パートは、実際に撮影した写真とその撮影の意図についてです。第3パートは、写真撮影とその言語化を通して変容した「教師教育者」像についてです。最後に、「教師教育者になる」プロセスにおいて、写真を撮影することの意味と、省察を3名で行うことの意味が整理されました。

撮影し選定した写真の意図を説明する玉井さん

写真撮影とその言語化を通した気づきを語る正出さん

発表の際に使用したスライド(写真を撮影することの意味)

発表の際に使用したスライド(省察を3名で行うことの意味)

以上の報告を受けて、指定討論者の渡辺貴裕氏(東京学芸大学)と佐藤万知氏(京都大学)から意見や新たな論点が提示されました。渡辺氏は、「模範的な講義(大学教員)の縮小再生産」に陥らないためのリフレクションという観点から「草原先生の教師教育のあり方に対する批判的な眼差しも考えてみてはどうか(むしろ、そうした場面こそ取り上げて、教員とTAとの間でどのような対話が行われたかを省察することに意味があるのではないか)」とコメントされました。佐藤氏は、教師教育者の養成を担う高等教育の役割という観点から「今回の発表が『教師教育デザイン学』という新たな学問の知見として何を提案したことになるのか(その知見が、どのような教師教育上の課題に貢献する試みとして評価できるのかを提案してほしい)」とコメントされました。
これらの意見・論点を踏まえて、発表者からは、今後取り組むべき3つのテーマが提出されました。1つ目は、TAが大学教員に対して批判的に意見できる環境整備についてです。2つ目は、「教員志望学生のつまずき・成長に関する研究」と「教師教育者自身の困難・葛藤に関する研究」の成果に基づき教師教育カリキュラムをデザインすることです。3つ目は、教師教育者の専門性開発を行う上で、フォトボイスという方法論を用いることの有効性を検証することです。

教師教育の在り方そのものへ「批判的な眼差し」を持つことの重要性を語る渡辺氏

教師教育者養成を担う高等教育の観点からコメントする佐藤氏

また、ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では、「初任研の一環で観察する師範授業や学校内での校内授業研修会でも写真を通したふり返りは有効か」、「TAは、写真を撮影することを通して授業者(草原)の教育観をどのようなものとして捉えたのか」、「教師教育者の教育者として、授業者(草原)は自らの意図や行為を対象化しやすくするために、どのような工夫をしたか」といった質問が出されました。さらに、「直接観察による授業研究と比較して、写真による省察を中心とした授業研究のメリット・デメリットとは何か」、「フォトボイスの方法論も1つではなく複数のバリエーションがあるのではないか」などの意見が出されました。これらの質疑・意見から、「フォトボイス」という方法論が大学のみならず小中高の学校現場でも活用できる可能性や、TAとともに大学教員自身の実践の省察を促す可能性、そして授業研究の方法論を修正・変革していく可能性が示唆されました。

最後に、丸山恭司教授(広島大学)が、「駆け出し教師教育者が先輩の教師教育実践に正統的に周辺参加すると仮定したならば、その駆け出し教師教育者が、どのタイミング、いかなる環境で、批判的スタンスが採れるように場をデザインしていくかが課題である」とまとめて、本セミナーは終了しました。

教師教育者育成の場をデザインするための方途を語る丸山教授

注)広島大学のTA制度については、こちらからご確認いただけます。

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【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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