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【開催報告】【2023.4.28】定例オンラインセミナー講演会No.138「金曜に夜更かし―セルフスタディを語り合う―(1)教育方法学・教育哲学におけるセルフスタディ」を開催しました。

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、教師教育・授業研究ユニットの活動の一環として、2023年4月28日(金)に、第138回定例オンラインセミナー「金曜に夜更かし-セルフスタディを語り合う-(1)教育方法学・教育哲学におけるセルフスタディ」を開催しました。大学院生や学校教員を中心に38名の皆様にご参加いただきました。
「金曜に夜更かし-セルフスタディを語り合う-」は、日本の教師教育において徐々に広まりつつある研究方法論であるセルフスタディに注目し、日本の教師教育者はどのような経験や研究背景からセルフスタディに興味・関心を持ち、どのようにそれを実践・研究しているのかを考えるセミナーシリーズです。セミナーを通して、セルフスタディに関心を寄せる研究者や教師教育者の交流の場になることを期待しています。
シリーズでは毎回、セルフスタディの実践や研究を行われている方をゲストにお招きし、実践・研究上の悩みや葛藤、あるいは喜びなどを率直に語り合います。セミナーは司会者がゲストへセルフスタディに関する質問を行う「公開インタビュー」の形式で進行し、視聴者の皆様からのQ&Aにも答えます。
なお、本セミナーシリーズは、EVRIのメンバーである草原和博教授(広島大学)やスタッフである大坂遊氏(周南公立大学・EVRI教育研究推進員)が参加する、科学研究費助成事業(研究課題/領域番号:21K02472)「先生の先生はいかに自己成長をするか:教師教育者の専門性開発の体系化に向けて(齋藤眞宏代表)」の活動の一環としても実施されます。
シリーズ第1回となる本セミナーでは、東京学芸大学の大村龍太郎氏(教育方法学がご専門)と広島大学の岡村美由規氏(教育哲学がご専門)のお二人をゲストにお招きして、公開インタビューが行われました。
はじめに、司会の大坂氏より、上述したような本セミナーシリーズの趣旨が説明されました。また、このセミナーシリーズを通して、さまざまな経歴や関心を持つ方のお話を伺うことで、「日本の教師教育者は,どのような背景や文脈のもとでセルフスタディの実践や研究に取り組んでいるのか」「日本の教師教育者は、何を変えることを期待してセルフスタディの実践や研究に取り組んでいるのか」という研究上の問いにこたえたいという意図が共有されました。

趣旨説明スライド

本セミナーの進め方について説明する大坂氏

続いて、二人の登壇者への公開インタビュー「私とセルフスタディ」が行われました。インタビューでは、①セルフスタディに出会う以前の実践や研究について、②現在取り組んでいるセルフスタディの実践や研究について、③セルフスタディの実践や研究に取り組む目的や意図について、④セルフスタディの広まりが近い将来の日本の教師教育や学校教育に与えるポジティブな影響について、の4点を中心に聞き取りが行われました。それぞれの質問項目に対して、二人が交互にこたえつつ、お互いに相手が話したことについてさらに聞いてみたいことを尋ね合うような相互作用が生まれる場面も見られました。
 
【以下、お二人のインタビュー内容の骨子。編集を加えた要約版であり、お二人の当日の実際の発言内容とは若干異なるところがあります。】
◆大村龍太郎氏(東京学芸大学)の語り
もともと小学校教員として、子どもたちのためにより良い授業をしたいという思いから、自身の実践を対象とした研究を行ってきたため、自己を対象とした研究アプローチであるセルフスタディに出会った際、違和感を覚えなかった。その後、指導主事や大学教員になり、J.ロックラン氏の監修する著作と出会い、ロックラン氏が批判していた「『私が言うようにやりなさい。しかし私がやるようになってはいけない。』(教師教育者として提唱する教育のあり方と自身の実践との不一致)という光景が教師教育ではめずらしくない」という言葉に共感した。教師を育てる立場として、自分の語っていることが自身の研修や振る舞いに具現化されているのかを問われるようになったと感じた。
このような問題意識から、ここ3年ほど、『J・ロックランに学ぶ教師教育とセルフスタディ』の監修者でもある武田信子氏をクリティカルフレンドに迎え、自身の大学での授業や現職研修での実践を対象にしたセルフスタディを行い、その成果を学会で発表してきた。たとえば、2021年には、教師教育者としての自身が授業の中でぶつかっている葛藤(教師志望学生への教育的な関わり方に対する葛藤など)を開示し、それに対する学生の反応をさらに学生にフィードバックすると、授業の当事者である自身や学生にどのような影響が及ぶのかを探究するセルフスタディを発表した。
目的は、1つは自分自身の教育実践者としての成長のため。セルフスタディを行うことで、そのまま省察的実践者としての自分の授業改善や伴走の改善につながるだろう。「私が言うようにやりなさい。しかし私がやるようになってはいけない。」という状況にならないための自分自身の答えがほしいからセルフスタディを続けている。もう1つは現場の先生方への貢献として。セルフスタディをしている姿勢を開示して、教師教育者である自分自身も悩み葛藤している姿を見せ、悩んでもよいのだと安心してもらいたい。また、そのように「ごまかしのきかない」自己の内面を対象化するという研究方法があるのだ、そのような取り繕わない研究をしてよいのだというメッセージを伝えたい。
5年後10年後の展望として、セルフスタディが広がることで、教師教育に携わる人の間で「教えることを教えること」についての感覚が広がっていってほしい。セルフスタディは、それについて考えるきっかけの営みとなる。(自身の実践や研究の良さを取り繕うのではなく)「本当はどう思ったのか?何につまずいたのか?」を問い、それを対象に研究しても大丈夫なのだという認識が広がっていってほしい。
 
◆岡村美由規氏(広島大学)の語り
博士課程に進学する前は教育開発(国際教育協力)の業務に従事していた。その縁で、広島大学の実施するドミニカ共和国における教員養成支援プロジェクトに参加した際、現地の教員に的確に指導・支援する広島大学の先生方を見て、教師教育者という存在とその重要性を認識した。現地の教師教育者の専門性開発に従事する中で、参与観察をしながら、以前から感じていた「(学校教員は)自分のことをなぜ他者が研究することを許すのだろうか?なぜ自分自身を研究しないのだろうか?」という疑問が強くなった。他者を(研究)対象化する眼差しへの違和感と、一方でそれに加担する自身の姿勢に向き合うようになった。
セルフスタディに出会ったのは、このようなことを考えるようになった時期だった。「学校の先生方も知識の創出者になれるはずだし,なるべきだ」という信念をもって研究を進めている。誰しもが、自分自身という存在であり、つまり、自分の考え方の枠組みや持っている葛藤の中に生きている、自分を通して世界を見ている。セルフスタディの「セルフ」の部分を強く意識している。
セルフスタディ的なアプローチを採用した実践・研究として、博士課程で履修した教職課程担当教員養成プログラムで自分の実践を問うたコラムがある(『教員養成を担う 「先生の先生になる」ための学びとキャリア』渓水社,pp.125-128)。そこで探究した「学校での教壇経験をもたない大学教員が教職課程に関与する余地や意義はどのように見出し得るのだろうか。学校においてではなく大学での教職課程において学生が「学校教育での実践を学ぶこと」の内容と価値は何か」という問いも、自身のセルフスタディを行う重要な目的の一つ。
ロックランの著作の訳書で携わった「暗黙のものを明らかにするということ(Making the tacit explicit)」『J.ロックランに学ぶ教師教育とセルフスタディ』学文社,pp.35-42)が、現在の教職大学院の担当教員としての自身のスタンスに強く影響している。研究の面では、セルフスタディをはじめとする自身の研究の原動力は、自身のふるまいや言動を根拠づける原理を自分で作るのだという信念が非常に強いモチベーションになっている。教育の面では、学部生や大学院生に、教育実践を批判できる視点やそのための能力を養ってほしいと思い、自身の教育実践の意図を積極的に言語化して伝えるようにし、また私自身を教材に見立てて批判的に受講してもらうように促している。
5年後10年後の展望として、大学や大学院でセルフスタディを学び実践する人が増えることで、教育における権力・権威が緩やかになってほしいと願っている。子どもと教師、教師同士、教師と管理職、教師と教育委員会といった関係性がよりフラットになってほしいし、学校がより民主的な空間になってほしい。

今後のセルフスタディの在り方を展望する大村氏

自身の経験を振り返る岡村氏

以上の発表を受けて、30分のフリーディスカッションやフロアからの質疑応答が行われました。
司会と登壇者とのやり取りの中では、教師教育者である自身とセルフスタディとの関係について、さまざまな議論がなされました。その中で、「“同型性”の大切さ。子どもには批判的に検討することを望んでいる先生自身の学び方がそうなっているか、先生を教える教師教育者自身の学び方がそうなっているか。それに向き合うことがセルフスタディをやることの意義につながってくるのではないか。(大村)」「セルフスタディでも他者に向けて発表する際に、開示できることとできないことがある。開示できないものはそのままに放っておいてよい。自分に嘘をつかず、自分自身に誠実であることが大切だと思う。だからこそ、クリティカルフレンドの存在が必要なのでは。(岡村)」などの意見が出ました。
また、ウェビナーのQ&A機能を活用して行われた質疑応答では、「研究の方法論をしっかりと身につけてからでないとセルフスタディを実践するべきではないのか」といった質問や、「セルフスタディを通して、お二人は学校組織や社会システムの変革まで見据えておられるのか」といった質問も出されました。お二人からは、「セルフスタディの方法論を明確に語ることができる人は日本にはあまりいないのではないか。まずはセルフスタディを始めることが重要で、学術的価値は研究成果を発信する際に吟味していけばいいのでは。(大村)」「自身のセルフスタディのゴールは設定していない。今いるところでやれることをやっている。(岡村)」といった見解が示され、参加者の間でセルフスタディの進め方や目的についての理解が深まりました。
今後もEVRIでは、「教師教育・授業研究ユニット」を中心に、授業研究を軸に教師教育を変革するための方略を検討してまいります。

今後もEVRIでは国際的かつ実践的な視座からのインクルーシブ教育のあり方について引き続き検討してまいります。
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【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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