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【開催報告】【2024.05.17】定例オンラインセミナー講演会No.161「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校『教育データ利活用(EdTech)におけるELSI(倫理的・法的・社会的)問題への対応―欧米における具体的事例をもとに―』」を開催しました。

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2024年5月17日(金)に、定例オンラインセミナー講演会No.161「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校『教育データ利活用(EdTech)におけるELSI(倫理的・法的・社会的)問題への対応―欧米における具体的事例をもとに―』」を開催しました。大学研究者を中心に60名(対面12名、オンライン48名)の皆様にご参加いただきました。

はじめに、川口広美准教授(広島大学)より本セミナーの趣旨説明がなされました。本セミナーでは、自分自身がNICEプロジェクトを進めるにあたり、漠然とした不安が出てきたことが研究をはじめる契機として挙げられました。同様のことは、学校でICTなどのテクノロジー(EdTech)を活用することに際してもしばしば見られ、その解決策の方向性としてELSI(Ethical, Legal and Social Issues)問題に注目して取り上げることの重要性が指摘され、今回のセミナーの位置づけが語られました。

趣旨説明を行う川口准教授

次に、草原和博教授(広島大学)より、今回のセミナーの背景にあるNICEの紹介がなされました。NICE(「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的な対話のための学校」)の取組の概要について説明されました。NICEではデジタルとアナログを有効に活用することで既存の教室空間を越境し、デジタル公共圏を構築することを志向してきました。他方、このような取組を推進するなかで、オンラインで参加している別学級の学習者の学習(意見形成)プロセスがわからないことなどの課題があり、AI学習支援システムの活用を通じて解決しようとしているという説明がありました。その際、例えば、子どもの声を拾うためには何に注意すれば良いのか。どのように保存し、管理し、利用すれば良いかといった悩みが共有され、加納先生のご講演を通して、その課題を解決したいという問題意識が提示されました。

NICEプロジェクトの概要を説明する草原教授

続いて、加納圭教授(滋賀大学)より,、講演がなされました。元々、ELSIがクローズアップされてきたのが、ヒトゲノム(生命科学)の領域であったが、最近は教育の分野でもその議論が求められるようになったというELSI導入について説明があり、その実例として、ご自身が教育アプリケーションの開発を進めていく際の説明がありました。その中で、ELSIは、技術に対してのブレーキ(歯止め)ではなく、ハンドリングやナビゲーション的な役割を担っているような実感を得るようになり、より良い研究のために必要だと感じるようになったという点でELSIの重要性を感じたことが、EdTechにおけるELSI研究を行うきっかけになったとのことでした。
研究では、欧米各国でEdTechに関するいわゆる「炎上事例」を集めるのとともに、どのように制約をかける仕組みがあるのか、についても調査が進められており、例えば「人権」を重視して、トップダウン的にEdTechに制約をかけるヨーロッパ型と共に、法制度の規制をかけながらも企業自らがレギュレーションをつくる米国型があることが紹介されました。これらの研究成果をまとめた冊子「EdTechのELSI論点101」(報告書はコチラ)についても紹介されました。より良いEdTechの推進には、法的な規制を待つだけでなく、例えばデジタルリテラシー教育などを通して、自律的なレギュレーションを生み出す仕組みづくりが必要であるという話で講演が結ばれました。
 

EdTechの事例について講演する加納教授

次に、NICEのプロジェクトメンバーである隅谷孝洋教授(広島大学)より質問が投げかけられました。具体的には、ELSIが何を最も重要として考えられている概念(問題)なのか、アプリに問題があるという話があったが、利用した結果が問題であり、アプリが問題ではないのではないか、といった質問が出されました。それに対して加納氏からは、「ELSIとはこれである」との確定的な概念はなく、むしろ私たち自身で何を重要視すべきなのかといったことを議論し、考えていかなければならないこと、などが回答として述べられました。

その後,、参加者からの質疑応答の中では、「ELSI問題を考える場づくりをどのようにして保障していくのか、どのような方法があり得るか」「ELSIを考えること、配慮することはやはりブレーキの意識が強いような気がする」といった質問や意見がありました。これに対して、ELSIについて議論をするということは必ずしもブレーキではない。新たな発見につながることにつながる、といったことや、自立的に審査委員会やその審査指標を作成すること、も可能であるという議論もなされました。その中で、EdTechの輸出を考える際には、各国の事情を考えること。一見すると、日本はEdTechの開発に対して法的には寛容だが、一度炎上すると、一気に規制が厳しくなる傾向があるといった社会的状況も考慮すべきという話も展開されました。
 

ELSIについて質問する隅谷教授

質問する参加者

最後に、川口准教授より、閉会の挨拶がなされました。加納氏のご講演を通して、一つには、ELSI問題を捉え考える際のフレームを知ることができたこと。二つ目に、リスク回避としてのELSIではなく、自律的にELSIを考える必要性があること。EdTechの活用を前向きに考え、推進していくときにこそELSIへの留意は重要であり、ブレーキとしてのELSI配慮ではなく、ハンドリングやナビゲーション機能としてのELSI認識が重要であることが今次のセミナーを通しての学びとして述べられました。

加納氏が最後に述べられた「教育を進めていくのは人である」とのコメントを踏まえ、AIなどのテクノロジーはあくまで補助であり、重要なのはヒューマン中心で議論し実践していくことであるとのまとめが全体に共有されました。

今後もEVRIでは、NICEを中心により良いEdTech研究や実践のあり方を検討してまいります。

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【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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