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【広域交流型オンライン学習】「市の様子」をテーマに遠隔授業を実施しました(2024年6月12日実施)

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は,内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として,「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校(通称,NICE)」プロジェクトに取り組んでいます。 

2024年6月12日,NICEプロジェクトの取り組みとして,東広島市内小学校8校16学級(河内小学校,郷田小学校,板城小学校,原小学校,吉川小学校,高美が丘小学校,福富小学校,龍王小学校)の3年生(428名)と西条及び豊栄のフレンドスペースの児童(5名)が参加し,「市の様子」をテーマとする遠隔授業を実施しました。今回は,「私たちのまちの「とっておきの写真」をとって発表しよう」と題して,「やさしい未来都市 東広島」の特色を表すイラストを批判的に読み解いたり,みんなが納得できるイラストに作り替えたりすることを目指しました。

 本時は,東広島市の市制施行50周年にあたってデザインされた「やさしい未来都市 東広島」のイラストをよく観察するところからスタートしました。イラストをじっくり眺めてみると,オオサンショウウオや半導体産業,酒樽など東広島市の特色を表す絵がたくさん載っています。まず教室では,このイラストが東広島市の特色を表していることに「納得できる」「納得できない」を尋ねるアンケート投票を実施しました。結果は「納得できる」が多数派でした。その後,各学級で納得できる箇所と納得できない箇所について話し合いました。子どもたちは「牡蠣やオオサンショウウオ東広島の有名なものがいっぱい入っている」から「納得できる」という意見が出た一方で,「東広島駅がない」「のん太がいない」「河内のものが少ない」から「納得できない」という意見も出ました。このような意見の対立を受けて,「もっともっと,みんなが納得できる東広島のイラストを提案しよう!」という本時の学習課題が共有されました。

       授業をする草原教授

      50周年イラストを解説する先生

この課題に応えるために,授業の前半部ではイラストについての理解を深める活動を行いました。イラストの絵が東広島市の9つの町のどの町を表しているかを特定するために,細かく分析を進めました。子どもたちは,イラストをパーツ(産業や遺産・景観など)に切り分けたカードを東広島市の白地図に貼り付けていきました。貼り付けていくと,自分たちが良く知らないカードがたくさんあることに気づきます。そこで,副読本『わたしたちの東広島市』で各町の様子を調べながら,残ったカードも白地図に貼り付けていきました。 

白地図にイラストの絵を一通り貼り付けた後,各学級で分かったことを発表していきました。例えば,「カキの絵は,海のある安芸津だと思います」「新幹線の絵は,駅のある西条だと思います」とみんなが納得する絵もあれば,「学校みたいな建物の絵は,高屋の近畿大学だと思います」「学校みたいな建物は,八本松にある農業技術センターを表します」と見解が割れることもありました。また「太鼓は福富のものです。なぜならいろいろな太鼓が福富で演奏されているからです」「私たちの町には河内豊作太鼓があるので,太鼓の絵は河内だと思います」と,太鼓をめぐっても見解が分かれました。 

これらの活動を通じて,子どもたちは,東広島市の特色を表したイラストには,特定の町を表す絵もあれば,複数の町を表す絵もあることに気づきました。また,自分たちの町を表していると思っていた絵が,必ずしも自分たちの町「だけ」を表していないかもしれない,と思うようになりました。

    どのイラストはどこの町か考える様子

   切り取ったイラストについて考える様子

     地域副読本をもとに考える様子

    他校の児童にむけて発表する様子

2時間目は,イラストの分析を踏まえて,1枚だけイラストを追加するならばどんなイラストにするかを検討しました。まず各学級にイラストに納得できない理由を発表してもらいました。具体的には,「新幹線が走っているのに,東広島駅がないのは納得できません」「河内や黒瀬を表すイラストが少ないので,納得できません」「太鼓は私たち吉川もします。どこの太鼓を表しているのか気になります」などの不満が示されました。そこで「イラストを作った市役所の人に聞いてみよう」となり,市役所の広報戦略監担当者に作成の意図を解説してもらいました。担当者からは「たしかに少ないなと思う町もあるかもしれませんが,田んぼや団地の絵は,いろいろな町にまたがるものとして考えています。できるだけ満遍なく東広島を表したいと思って作成しました」というコメントをもらいました。

 市役所担当者のコメントを踏まえ,各学級は(イラストに追加したい)私たちの町の「とっておきの写真」の選定と鑑賞に移りました。各学級で選ばれた写真とそのキャプションはGoogleスライド上に貼り付けられ,児童は「写真展」形式で鑑賞しました。最後に,東広島市を表すイラストに追加したい思う写真を選ぶアンケート投票を行いました。最もたくさんの支持を得たのは,郷田小学校と草原和博教授が提案した「池(全国で第2の数を誇る)」でした。さらにその写真が追加されたイラストならば「納得できる」「納得できない」を尋ねるアンケート投票を再度行いました。結果は「納得できる」「納得できない」それぞれが半々でした。みんなの意見が一致をみることは難しいことを実感しました。なお,当日参加した保護者から最もたくさんの支持を得たのは,「とんど(正月につくる火祭りの搭)」でした。子どもと大人の意見の違いも,注目したい結果です。

 最終的な投票結果を受けて,市役所の方からは「池は人の生活に密着していますし,生き物の住処でもあります。自然豊かな東広島を表す良いシンボルになると思います」とコメントをいただきました。草原教授は,東広島を構成する9つの町には,それぞれ名物や自慢できるものがあること,だから市の特色を1枚に表すのはとても難しいこと,町のバランスを優先するか,市全体のシンボルを取り上げるかで悩んでしまうね,とまとめられました。

子どもの意見についてコメントする坂本さん(市役所)

    イラストに加えたいとっておきの写真

このように本授業は,3年生の導入単元として,行政が作成したイラストの批評を通して市のようすを概観するとともに,9つの町から構成される東広島市を表象することの難しさを実体験する2時間となりました。はじめは,この絵は「私たちの町の〇〇だ」と主張していた子どもたちが,他校の子どもの意見を聞く過程で「どこだろう」と悩む子どもの表情が印象的でした。また「〇〇町の絵が少ないのはおかしい」とより公正な表現を求める姿は,市民性の萌芽とも考えられます。引き続きNICEプロジェクトは,子どもが学校を越えて対話し,市民も世代を越えて議論に参画する新しい学びのカタチを提案してまいります。

 イラストに入れるべきとっておきの写真を選ぶ様子

     授業の終わりにおわかれする様子

当日の様子はこちらをご覧ください。
プロジェクト全体についてはこちらをご覧ください。

【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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