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広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2025年9月3日(水)に、定例オンラインセミナー講演会No.182「日本における授業研究の展開とその多様性」を開催しました。大学院生や研究者を中心に51名の皆様にご参加いただきました。
はじめに、川口広美准教授、岡村美由規准教授(広島大学)より、セミナーの趣旨として「国内の異なる教育学研究の運動の系譜に属する研究者から、それぞれの系譜の<過去―現在―未来>をたどるとともに、互いの立場から見た授業研究の意義や課題について議論を行う。」そして「授業研究に関わる研究者・実践者が、「授業研究とは何か」が再考し、これからの授業研究の可能性を構想するための契機となることを目指す」ということが説明されました。本セミナーでは、「日本における授業研究の展開とその多様性」というテーマのもとに展開され、その中で「現在、世界的に展開・授業されている「授業研究(Lesson Study)」の様式は、日本における多様な展開とも接続・連動している。では、改めて「授業研究」とは何か」という問いが軸となることが趣旨説明のなかで共有されました。同時に、授業研究シリーズとしては13回目にあたることやWALS2025広島大会で行われるシンポジウムのプレイベントであるという位置づけも説明されました。
趣旨説明をする川口准教授、岡村准教授
次に、鈴木悠太氏(東京科学大学) より、学校改革や授業改革の理論と実践に関わり三つの話題提供がなされました。第一に、2つの論点が示されました。論点の1つ目は、「研究と実践の双方の自立/自律の問題を問う」ことです。論点の2つ目は、授業研究と研究授業の問題を問う」ことです。第二に、授業研究の改革の理論的系譜として学校改革としての学びの共同体の理論的枠組みが示されました。第三に、授業研究の改革や学びの共同体のルーツである学校改革の事例(小学校・中学校・高校)が示されました。
話題提供をする鈴木悠太氏
次に、奥村好美氏(京都大学)より、京都大学の教育方法学研究室で取り組まれていた授業研究に関わり三つの話題提供がなされました。第一に、1970年代半ば以降の京都大学の教育方法学講座の中で取り組まれてきた代表的な授業研究として「プロジェクトTK」の取り組みが紹介されました。第二に、プロジェクトTKの背景ともなる京都大学の教育方法学研究室の教員の研究の蓄積が示されました。第三に、現代的な授業研究の取り組みとして内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)やAICAN(申請で探究的なまなびを実現する教育コンテンツと評価手法の開発)といったプロジェクトが示されました。
話題提供をする奥村好美氏
次に、吉田成章准教授(広島大学) より、授業研究による学習集団づくりに関わり四つの話題提供がなされました。第一に、授業研究への原風景的な関わりについて示されました。第二に、広島大学の授業研究の伝統について、歴代教員から見る研究の系譜や学習集団づくりの特徴、吉本均の学習集団論、著作物に見る学習集団論の特徴、学習集団研究の「現在」といった話題に基づいて示されました。第三に、広島大学の授業研究のコンセプトや集団思考の可視化といったキーワードに基づいて広島大学の教育方法学研究室で取り組まれている授業研究の具体と展開が示されました。第四に、授業研究の国際共同研究としてドイツのライプツィヒ大学との授業研究を通した共同研究にもとづいた広島大学教育方法学研究室の授業研究の多様性が示されました。
話題提供をする吉田成章准教授
以上を踏まえて、Shirley Tan氏(Windesheim University of Applied Sciences) より、「授業研究とは何か再考すること」をめぐって各先生へ対してコメントがなされました。
鈴木先生へは、教師の個性を大切にする授業研究をめぐってコメントがなされました。Tan氏より、Lesson Studyの国際展開のなかで、授業はチームによる協働な成果であるということがヨーロッパの主流的な考えとなっているという背景が共有されたうえで、協働的な国際文脈の授業研究から教師の個性をみると、教師の個性を大事にするというのは教師の個々のアイデンティティの問題を指すのか、あるいは教師らの協働的な取り組みの結果であるということを指すのか、という問いが共有されました。
奥村先生へは、デジタルな授業記録媒体をめぐってコメントがなされました。Tan氏より、優れた実践をQTALといったデジタル媒体で共有し、教師が参照できる実践があることは大切であると考える一方で、デジタルで授業記録を共有する方法は、これまでの授業研究がもっていた授業記録や実践記録を記述することとどのような関連性や連続性があるのか、というコメントと問いが共有されました。
吉田先生へは、日本の授業研究の輸出をめぐってコメントがなされました。Tan氏より、国際的な共同研究プロジェクトの中で、日本ではない別の文脈に合わせた新たな定型化が発生している実感が吉田先生にはあるのかや、助言やガイドラインを定型化を避けながら提供しながらもそれらが意図せず新たな定型となることをどう防ぐこと可能なのか、定型化・定式化は必ずしも悪いものではないという意見をどう考えるか、といった問いが共有されました。
コメントをするShirley Tan氏
また、宮島衣瑛特命助教(広島大学)より、日本国内の文脈における授業研究の展開にかかわって三つの視点に基づいたコメントがありました。一つ目の視点として、「周縁」の視点でコメントがなされました。つまり、他の研究グループの授業研究に関する作法が多くある中で、どのように系譜を越境しながら自身の授業研究観をつくっていくにはどうしたらよいか、という問いが共有されました。二つ目の視点として、「若手研究者」の視点でコメントがなされました。実践の中の理論を若手研究者として理論的に学んでいくにはどうしたらよいか、論文化できないようなインフォーマルな取り組みを学会単位で共有することの意義をどう考えるか、といった問いが共有された。三つ目の視点として、「外様」の視点でコメントがなされました。授業にかかわるのは授業研究者だけではないなかで、授業研究を授業研究が内包している規範や授業研究観をどう広めたり共有したりするか,という問いが共有されました。
コメントをする宮島衣瑛特命助教
以上の講演を受けて、フロアを交えたディスカッションが行われました。 参加者からは、大学ごとの授業研究の系譜というよりは何を大事にしているかで系譜が成立しているという感想や、学問のバックグラウンドが異なる人々が同じ授業をみたら視点や見る範囲が異なるということに気づかされたという感想が出されました。
応答する登壇者
応答する登壇者
質問する小山正孝先生
最後に、川口准教授、岡村准教授より、挨拶があり、本セミナーが締めくくられました
当日の様子はこちらをご覧ください。
広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

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