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広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2025年10月16日(木)に、定例オンラインセミナー講演会No.181「When does learning to read start? Neurobiology, Development, and Early Identification of Reading Disabilities」を開催しました。大学院生や研究者を中心に88名の皆様にご参加いただきました。
はじめに、間瀬茂夫教授(広島大学、教育ヴィジョン研究センターセンター長)より、挨拶がなされました。
挨拶をする間瀬教授
次に、川合紀宗教授(広島大学、D&I推進機構マネジメント部門長)より、本セミナーの趣旨が説明されました。本セミナーでは、読みの発達は学校教育の開始以前から始まり、神経科学的・発達的・教育的な視点からその基盤を理解することが、読みの困難を予防し、すべての子どもが読む力を獲得する権利を保障するうえで重要であるという趣旨が確認されました。
趣旨を説明する川合教授
次に、Nadine Gaab氏(ハーバード大学教育大学院)より、「When does learning to read start?: Neurobiology, Development, and Early Identification for Reading Disabilities」と題した講演がなされました。講演では、乳幼児期における脳の灰白質および白質の発達が,後の音韻処理能力やリテラシーの発達と深く関係していることが紹介されました。また、最も効果的な介入時期を過ぎてから読みの困難が発見される「ディスレクシアのパラドックス(Dyslexia Paradox)」を克服するためには、就学前段階からの予防的アプローチと早期スクリーニングが必要であることが強調されました。さらに、博士はリテラシーを教育課題にとどまらず公衆衛生の観点から捉える重要性を示し、教育・医療・地域社会が連携して支援体制を整える必要性を訴えました。
講演するGaab氏
以上の講演を受けて、川合教授をファシリテーターとし、フロアを交えたディスカッションが行われました。議論の中では、保護者の協力が得られにくい場合への対応の在り方や、読み上げ機能を活用することの意義、さらにはバイリンガルとディスレクシアの関係など、多様な質問が寄せられました。
これに対してGaab博士は、まず保護者への働きかけについて、子どもの課題だけを強調するのではなく、子どもの長所や強みについても積極的に共有することの重要性を指摘されました。また、発達のマイルストーンにまだ到達していない部分が将来の発達にどのような影響を及ぼしうるのか、あるいは他の十分に発達した領域がどのように未到達の領域を補う可能性があるのかを丁寧に説明することの必要性を述べられました。そのうえで、課題は早期の段階から生じているものであり、単に時間が経てば自然に解決するものではないことを保護者に理解してもらい、早期からの支援と継続的な関わりの重要性を共有することが大切であると強調されました。
さらに、読み上げ機能の利用については、有効な学習支援手段である一方、それだけでは深い理解や思考の発展には十分つながらないことを指摘されました。博士は、ポッドキャストなどの音声媒体を積極的に活用し、音声情報の入力を理解や記憶といった学習活動へと結びつけることの重要性を示されました。また、聴覚的情報処理と視覚的読解の双方を組み合わせることで、学習者の認知的ネットワークをより効果的に活性化できるとの見解を述べられました。
加えて、バイリンガルの言語習得については、それぞれの言語における習熟度や、言語間の距離(構造的・音韻的差異)、および表記体系の透明性によって習得のしやすさが大きく異なることが指摘されました。したがって、言語の特性や学習者の発達的背景を踏まえ、多様な学びのスタイルや支援方法を柔軟に取り入れていくことの重要性が改めて確認されました。
応答するGaab氏
質疑応答の様子
最後に、川合教授より、本セミナーのまとめがなされました。川合教授からは、今回の講演およびディスカッションを通して示された知見を踏まえ、読みや言語発達の個人差を理解する上で、神経科学的および教育的側面からの統合的な視点が重要であること,また、読み上げ機能などを活用した支援の在り方については、テクノロジーを学習者一人ひとりの認知特性や言語環境に応じた「主体的かつ深い学び」へとつなげていく教育実践の必要性が指摘されました。最後に、今回のセミナーが、教育・研究・臨床の各分野における連携をさらに深め、学びの多様性を尊重する新たな実践の契機となることが期待されつつ閉会となりました。
広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

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