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【開催報告】【2026.01.15】定例オンラインセミナー講演会No.191「戦下の学校教育を考える―今、ウクライナの子ども達は―」を開催しました

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2026年1月15日(木)に、定例オンラインセミナー講演会No.191「戦下の学校教育を考える―今、ウクライナの子ども達は―」を開催しました。大学院生や研究者を中心に32名の皆様にご参加いただきました。

はじめに、武島千明特命助教(広島大学)より、本セミナーの趣旨が説明されました。まず、日本において戦後80年が経過した現在でも、各地で紛争が生じている国際社会の現状が共有されました。そのうえで、本セミナーでは、登壇者である坂本氏のお話をもとに、「グローバル化する社会に生きるいち市民である私たちは、世界各地で生じている紛争をどのように受けとめ、どのような行動が できる/できない だろうか?」という問いへの応答を目指すことが確認されました。また、問いへの応答に際した思考の道筋として、①知覚、②主観の省察、③一人称性・当事者性にもとづく思索、の3つのプロセスが示されました。

趣旨を説明する武島千明特命助教

趣旨説明に続いて、坂本龍太朗氏(ワルシャワ日本語学校)と武島特命助教により、対談が行われました。

はじめに、坂本氏がウクライナ支援に至った動機が共有されました。坂本氏は、大学院時代以降、長く海外で生活をしておられます。そのため、東日本大震災のような支援を要する出来事が日本で生じても、直接支援ができなかったことについて大きな後悔の念を抱き続けていたそうです。このような背景もあり、ロシアとウクライナとの紛争で傷ついた人々が手の届く場所へいることがわかると、「もう、後悔をしたくない」という思いからすぐにウクライナ避難民の方がたへの支援を始め、現在に至るのだとお話されました。

次に、坂本氏が支援をとおして知り得た、ウクライナの学校教育の状況が共有されました。ウクライナでは、すべての学校が破壊されているわけではないため、学校教育は継続されているようです。しかし、①空襲警報が発令されるたびに防空壕へ避難する必要が生じるため、授業が度々中断されてしまう状況にあること、②防空壕に収容可能な人数が全校児童・生徒数よりも少ないため、2~3交代制で登校日が設定されている学校が少なくないこと、③登校日にあたっておらず、通学できない子どもたちのためにオンラインで授業が配信されているものの、通常の授業をそのまま配信しているため、学習の質などが担保されない状況にあること、④学校にいる間に空襲警報が発令されてしまうと、解除されるまで子どもたちは自宅へ帰ることができなくなること、⑤そもそも、ミシンや工具、キャンバスなど、実技系の授業を実施するうえで必要となる道具が不足していること、の5点の問題があることが主に共有されました。

また、そのような状況のなかで、子どもたちの精神面にも課題が生じている状況が共有されました。ふだん過ごしている学校の校舎の窓がミサイルによって破壊される、保護者など身近な人と離れて暮らすこととなってしまう、最悪の場合には保護者が戦死してしまう、などの喪失経験を経ることにより、子どもたちは複雑な感情を抱えています。しかし、そのような子どもたちのうち、元々ロシア語を母語としていた地域出身の子どもたちやポーランドへ避難した子どもたちは、自身の気持ちを母語で表現する機会を失ってしまっています。また、子どもたちの間で、いじめや非行などの問題行動も目立っており、子どもたちの精神面が非常に不安定である状況にあることが共有されました。

精神面の課題に関連して、言語面の課題についても共有されました。ポーランドに避難した子どもたちがポーランド語での学校教育に適応したがゆえにウクライナ語の読み書きができなくなってしまっていること。ウクライナ東部出身でロシア語を母語とする子どもたちが、「敵国語」であるロシア語を話すことに抵抗をおぼえ、母語で話すことをやめてしまう状況にあること。背景は様々ではあるものの、コミュニケーションや表現、アイデンティ形成との関係が強い言語面で課題を抱えることにより、様々な問題が生じていることが共有されました。なお、坂本氏らは、ポーランドに避難した子どもたちへウクライナ語で話す機会を与えるため、取り出し教育の場を設けているそうです。しかし一方で、このような支援が民間レベルでの実施にとどまっていることは、課題でもあると共有されました。

実際のミサイルの破片を見せながら説明する坂本龍太朗氏

参加者が実際のミサイルの破片を手に取って見ている様子

次に、フロアとの対話が行われました。
フロアからは、たくさんの質問が寄せられました。「戦闘が長期化することによって、子どもたちの状態や支援の具体に変化はあるか。あるならばどのような変化か。」「今後、どのように支援を修正・拡大していくかについて、どのような計画があるのか。」「ポーランドに避難した子どもたちは、生活言語としてポーランド語が必要ななかで、あえてウクライナ語を学ぶことで子どもたちはどう変わったか。また、そのような子どもたちへウクライナ語を教えることに、葛藤などは生じたか。」「坂本氏は教育者として、子どもたちや保護者へどのようにかかわっているのか。」「子どもたちに関わっている児童福祉・教育関係者は疲弊してしまっているのか。それとも、国の有事に真向かっているため士気が高いのか。」「坂本氏による支援が、今後公的な組織(ユネスコなど)とつながる可能性はあるのか。」「ロシアの人のなかにウクライナ支援を行っている人はいるのか。」などの質問が寄せられ、坂本氏から一つひとつへ丁寧な応答がなされました。

また、ロシアとウクライナとの紛争に関する実践を行った経験のある中学校教諭から、「授業を受けた生徒たちから“ロシアとウクライナの戦闘って、まだやっていたんだ”と言われてショックを受けたところだった。ロシアやベラルーシにもウクライナ支援を行っている方がいるという状況をもとに、生徒たちが国家と国民を同一視してしまうことのないよう、実践に反映させたいと思った。」という旨のコメントが寄せられるなど、参加者それぞれが自身の立場からセミナーのトピックについて考え、交流することができました。

ディスカッションの様子

質問に答える坂本龍太朗氏

以本セミナーにおける坂本氏の語りをとおして、参加者たちはウクライナの子どもたちを取り巻く現状について、つぶさに知ることができました。支援をとおしてウクライナの複雑な状況に真向かっておられる坂本氏の語りをもとに、それぞれの参加者がセミナー冒頭に提示した問い(「グローバル化する社会に生きるいち市民である私たちは、世界各地で生じている紛争をどのように受けとめ、どのような行動が できる/できない だろうか?」)への自分なりの応答をすることが、本セミナーの最も大きな成果となるのではないでしょうか。

EVRIは今後も、参加者との対話をとおして実施するセミナーを企画してまいります。

当日の様子はこちらをご覧ください。
その他のセミナー情報はこちらをご覧ください。

【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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