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広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2026年3月6日(金)に、定例オンラインセミナー講演会No.194「今、どのように子どもの政治参加を支えるのか ― ドイツおよびヨーロッパにおける市民性教育の新たなアプローチから学ぶー /How Can Youth Political Participation Be Supported Today? : New Approaches and Changing Forms of Civic Education in Germany and Europe」を開催しました。大学院生や研究者を中心に33名の皆様にご参加いただきました。
はじめに、 川口広美准教授(広島大学)より、本セミナーの趣旨が説明されました。本セミナーでは、ポピュリズムの拡大や社会的分断の進行、政治不信の高まりなど、民主主義を取り巻く状況が大きく変化する中で、子ども・若者の政治参加をどのように支えることができるのかという問いを共有しました。とりわけ、SNSを通じたデジタル政治参加など参加形態の変化が進む一方で、日本では投票行動を中心とした限定的な政治参加の学習にとどまりやすい現状があること、また社会的風潮や教師の自己効力感の低さなどから実践が難しい状況があることが指摘されました。そのうえで、ドイツおよびヨーロッパの市民性教育の取り組みを手がかりに、今日の社会状況において若者の政治参加を支えるための新たな視点を検討することが本セミナーの目的であることが確認されました。
趣旨を説明する川口准教授
その後、大城朝周さん(広島大学・博士課程後期院生)より、ドイツにおける政治教育(politische Bildung)の制度的背景について説明がなされました。ドイツでは連邦制のもとで各州が独自の政治教育カリキュラムを持っていること、また政治教育の担い手が学校に限らず、多様な社会教育機関や市民社会の組織によって担われていることなどが紹介され、政治教育が社会全体の多様なアクターによって支えられている点が特徴として示されました。
ドイツの政治教育について説明する大城さん
続いて、ゲルノート・ヴォルフラム教授(マクロメディア大学)より、「Civic Education and Participation? New Challenges and Opportunities(市民性教育と参加?新たな課題と機会)」と題した講演が行われました。講演では、民主主義社会における若者参加の意味を理論的観点から整理し、若者の政治参加とは、社会的・文化的・政治的な意思決定に主体的に関わる機会と影響力を持つことを含む概念であることが示されました。また、現代社会ではオンライン空間の拡大や情報環境の変化により、参加の形態が多様化すると同時に、偽情報や分断の問題も深刻化していることが指摘されました。そのうえで、市民性教育には、ファクトチェックやメディアリテラシー教育、公共的議論の場の創出など、多様な教育的アプローチを通じて民主主義のレジリエンスを支える役割があることが示されました。さらに、地域社会における信頼関係を基盤とした「ローカル・ヒーロー」の存在や、図書館・文化施設などの「サード・プレイス」を通じた対話空間の形成が、若者の社会参加を支える重要な条件となる可能性についても紹介されました。
講演をするゲルノート・ヴォルフラム教授
続いて、クリスチャン・ヨハン博士(ヨーロッパ・アカデミー・ベルリン所長)より、「How Can Youth Political Engagement Be Supported Today?(今日、子どもの政治参加をどのように支えるか?)」と題した講演が行われました。講演では、まずドイツの政治教育の基本原則として知られる「ボイテルスバッハ・コンセンサス(1976)」の三つの原則が市民性教育の重要な基盤となっていることが説明されました。また、ヨーロッパ・アカデミー・ベルリンでは、政治教育に関するコンピテンスを開発し、それに基づいて教員研修が実践されていることが説明されました。その事例として、対話を通じて分断や対立を扱う授業づくり、EUの現代的課題を授業に取り入れるプログラム、偽情報や陰謀論に対応するメディアリテラシー教育などの実践が紹介されました。これらの研修では、政治教育を教える上での能力、教師が安全に論争的な問題を扱うための方法や、授業への具体的な応用可能性を重視した設計がなされていることが強調されました。
講演をするクリスチャン・ヨハン博士
政治教育に関する教師のコンピテンスについて説明する様子
以上の講演を受けて、質疑応答とディスカッションが行われました。参加者からは、どのように「サードプレイス」や「ブレイブスペイス」といったコンセプトをどのように学校教育にもちこむのか、移民や難民などの多様な子どもたちと政治的権利の問題をどのように学校教育で取り扱っているか、政治教育に対する教師のコンピテンスについても質問が寄せられました。その上で、学校教育だけでなく、地域社会や文化施設などを含む多様な学習空間が政治参加を支える基盤となりうる点についても議論が深められました。
質問する参加者
応答の様子
会場全体の様子
本セミナーを通して、子ども・若者の政治参加を支える市民性教育は、単に政治制度を理解することにとどまらず、社会の中で他者と対話し、意思決定に関わる経験を積み重ねていくプロセスを支える営みであることが改めて確認されました。また、学校教育のみならず、地域社会や文化施設、オンライン空間など多様な場において、若者が公共的な議論に関わる機会をどのように創出していくのかという点が重要な課題として浮かび上がりました。ドイツおよびヨーロッパの事例から得られた知見は、日本における主権者教育や市民性教育の今後を考えるうえでも多くの示唆を与えるものであり、今後の研究および教育実践を深めていくための重要な手がかりとなりました。EVRIでは、引き続き国内外の研究者や実践者との対話を通じて、民主主義社会を支える市民性教育のあり方について議論を深めていく予定です。
EVRIは今後も、国内外の研究者との対話を通じて、実証的知見にもとづいた市民性教育研究を深めるセミナーを継続的に企画してまいります。
当日の様子はこちらをご覧ください。
その他のセミナー情報はこちらをご覧ください。
広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

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