Email:sipstaff-evri(AT)ml.hiroshima-u.ac.jp
※(AT)は@に置き換えてください
電話:082-424-6809
広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として、「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトに取り組んでいます。
2026年6月10日(水)、広島・北海道・鹿児島の15校27学級の5年生(計658名)と、各地の教育支援センターの子どもたちが参加し、遠隔授業を実施しました。
今回の授業の主題は、「あたたかい土地/寒い土地のくらし-土地でとれる作物を決めるのは、気温と緯度だけか?-」。米とリンゴという身近な2つの作物に着目し、「とれる・とれない」の理由を、緯度・標高・気温・水といった自然の力と、農家の工夫・国の方針・ライバル作物・食生活の変化といった人間の力の両面から多面的・多角的に考えました。授業では、広島大学の草原和博教授がコーディネーターを、担任の先生が各教室の指導を務めました。
【今回の参加校】
広島県内小学校9校21学級562名(寺西小、郷田小、平岩小、高美が丘小、豊栄小、河内小、龍王小、向原小、上下南小)
北海道内小学校4校4学級71名(大楽毛学園、苫前小、館小、中央小)
鹿児島県内小学校2校2学級25名(平川小、尾母小)
・いろいろな県が、それぞれの地域に合った農産物を作っていることが分かりました。ほかの県の5年生と勉強して、自分たちだけでは考えられないこともあり、「そういう考えもあるんだ」「確かにそうだな」と考えを深められました。
・この授業を通して、日本だけでも大きな気温の差があり、それによって農作物にも影響があることが分かった。そして、気温的には作ることが可能な農作物でも、国の方針などによって作らないことがあることが分かった。
・みんなの意見や、みんなの考えを大切にしたい。他校の人とつながって授業するのは、みんなの意見を知れるから楽しいし、大切だと感じた。また機会があれば、いろいろな人とつながって授業したい。自分から発表することや意見を出して、友達や先生と交流することも大事だと思った。
・緯度や気温以外にも、自然の力や人の力で土地の作物が決まることを初めて知りました。なので、私の地域の作物はどのようにして決まったのか、調べてみたいです。
・授業最後の天秤のところで、私は自然の方に天秤を傾けましたが、今考えると、どちらも半々だと思いました。
東広島市のリンゴ農家さんがゲスト出演!
学級担任の先生が各教室で授業進行!
授業は、参加校の地域の気温クイズから始まりました。子どもたちは、それぞれの地域の気温が進行教員の予想よりも低いと思う場合はマル、高いと思う場合はバツを体で表しながら予想しました。最北の苫前小は18℃、中間に位置する上下南小は18℃、同じ広島県内の寺西小は24℃、最南の尾母小は25.5℃でした。各地の気温を比べることで、子どもたちは、日本が南北に長いことや、緯度の違いによって気温が変わることを確認しました。また、同じ広島県内でも地域によって気温に違いがあることにも気づきました。
ここで、草原先生は「緯度が違うと、他にどんな違いがあるのか」と発問しました。子どもたちは、「海産物が違う」「農作物が違う」「家のつくりが違う」といった考えを共有しました。これらを踏まえ、学習課題「土地でとれる作物は、緯度と気温で決まるのか?」が提示されました。
展開1では、まず、学習課題に対して4択アンケート(①はい、②少しはい、③少しいいえ、④いいえ)で自分の考えを表明しました。結果は、91%の子どもが①②を選び、「土地でとれる作物は、緯度と気温で決まる」仮説を支持。一方、学級別に見ると「いいえ」の割合が高い学級もあり、館小学校の子どもからは「標高も影響するから、緯度と気温だけで決まるというのは言いすぎだ」といった意見も出されました。
続いて、米とリンゴに注目し、この仮説を検証しました。子どもたちは、米の生産量上位5県と生育に適した気温(17-25℃)、リンゴの生産量上位5県と生育に適した気温(6-14℃)の資料を手がかりに、北海道・広島県・鹿児島県でそれぞれの作物がとれるかを〇✖で予想しました。結果を全体で確認すると、米については北海道・広島県で「〇」が多く、鹿児島県では予想が分かれました。リンゴについては、北海道では「〇」が多く、広島県では「△」、鹿児島県では「✖」が目立ちました。
アンケート結果に子どもたちも興味津々!
スプレッドシートに〇✖予想を入力するよ!
ここで、参加校の児童への聞き取りと中継映像で予想を検証しました。すると、北海道釧路市の大楽毛付近では米がとれないこと、北海道北見市と広島県の豊栄町でリンゴがとれること、鹿児島県の徳之島町では田んぼが見られないことなどが共有されました。
検証を踏まえて、草原先生は「変だな、おかしいな」と思ったことを各学級で出し合うよう促しました。子どもたちからは、「青森県の近くなのに、なぜ北海道はリンゴが△なのか」「米の生産量2位の北海道に、なぜ作るところと作らないところがあるのか」「リンゴに適した気温なのに、なぜ豊栄だけでとれるのか」「暖かい鹿児島で、なぜ米がとれない場所があるのか。同じ県でとれる所ととれない所があるのはなぜか」といった疑問が寄せられました。このように、展開1を通して、子どもたちは「土地でとれる作物は、緯度と気温で決まる」仮説だけでは説明できない事例もあることに気づいていきました。
北海道・釧路は田んぼよりも牧場?!
鹿児島・徳之島では田んぼを見ることがないらしい・・・
あたたかい東広島市でもリンゴがとれる!
みんなの思う「変だな」を発表!
展開1を受け、授業者は子どもたちの疑問を、「なぜ東・釧路市だけは米が✖か」「北海道はなぜ青森の近くなのに,リンゴが△なのか」「なぜ豊栄だけはリンゴが〇か」「なぜ徳之島町では米が✖か?場所によって違うのはなぜ」に整理しました。展開2では、まず各学級が4つの疑問から自分たちが最も気になるハテナ(疑問)を1つ選びました。さらにそれについて仮説を立て、大学スタッフのファシリテートのもと、他の学級や専門家とともにブレイクアウトルームで仮説を練り上げていきました。
A:なぜ北海道東部・釧路市だけは米が✖か
(専門家:北海道開発局職員の阿部さん・高橋さん・旭さん,農家:浅野牧場の浅野さん)
・気温が低く稲作が難しい
・1950年代のパイロットファームや1970年代の酪農振興といった国の方針が大きく影響し、東部では稲作よりも酪農が選ばれてきた
B:北海道はなぜ青森の近くなのに、リンゴが△なのか
(専門家:中央農業試験場の吉田さん)
・マイナス30℃にもなる寒さではリンゴが育たない
・人気品種「ふじ」が青森では作れても北海道では作りにくく「儲かるリンゴ」が育てられない
・北海道北部では「腐らん病」という木の病気が発生しやすい
C:なぜ豊栄だけはリンゴが〇か
(農家:小石川観光りんご園の落合さん)
・豊栄は広島県の中でも北に位置することに加え、海抜約400mの高地にあり涼しい(100m上がると約0.5℃下がる)
・豊栄が「リンゴのとれるほぼ南限」にあたる
D:なぜ徳之島町では米が✖か?場所によって違うのはなぜ?
(専門家:徳之島町郷土資料館学芸員の大屋さん)
・「暑すぎるから」「台風が多いから」という予想に対し、大屋さんがかつては島全体で米を作っていた白黒写真を提示
・国の方針で米の生産量を減らすことになり、より儲かるサトウキビやマンゴーへと転換した
・「とれるけれども作っていない」
この活動を通して、子どもたちは、最初に立てた仮説を専門家の説明と照らし合わせながら修正していきました。作物の生産は、気温や標高といった自然条件だけでなく、国の方針や農家のもうけを求める工夫、地域産業の選択といった社会条件にも左右されることが見えてきました。
北海道開発局の方が釧路の地域特性について解説!
専門家と北海道でリンゴが採れない理由を探究!
子どもたちも仮説や意見を発表!
徳之島でもお米が採れていた証拠を見せる学芸員さん
終結では、草原先生が、授業を通して出てきたキーワードを8枚のカードに整理し、それを「自然の力」(緯度・標高・気温・水)と「人間の力」(農家のもうける工夫・国の方針・ライバル作物の存在・食生活の変化)に分類しました。そのうえで、「土地でとれる作物を決めているのは、自然の力か、人間の力か」を、天秤の図を手がかりに、児童が体を天秤のように両手を動かしながら(自然の力を重視するならば左に傾ける、人間の力を重視するならば右に傾ける)考えました。
子どもたちの意見は分かれました。自然の力を重視した子どもからは、「標高とか水、気温で作物が決まっている」「自然の中でも、気温と標高が大きい」といった意見が出されました。一方で、人間の力に着目した子どもからは、「人間が作るものを決めているのではないか」「国の方針も関係している」といった考えが示されました。
子どもたちの考えは最後まで一致することなく、作物づくりを説明するには自然の力だけでも、人間の力だけでも不十分であることに気付き始めていました。最後に「これからも悩み続けながら、自然とくらしの関係を考えていきましょう」と締めくくりました。
自然の力か、人間の力か?天秤で表現してみよう!
どちらの力が大きい?理由を教えて!
本実践では、緯度や気温、農業のあり方が大きく異なる地域の学校がつながりました。子どもたちは、自分たちの地域では当たり前にとれる(とれない)作物が、他の地域では必ずしも同じではないことを、他校児童の証言や現地中継を通して実感しました。こうした地域の違いに出会うことで、「なぜだろう」と問いを立て、作物と土地の関係を探究するきっかけが生まれました。
また、農業の専門家や現地の方とつながることで、子どもは自分たちの仮説を確かめたり、時には反論を受けたりしながら、説明をつくり直していきました。広域交流型オンライン学習では、今後も地域や立場を越えた人々の出会いと対話を活かし、社会の見方を広げ、深めていく授業をデザインしていきます。
丁寧にメモを取っています!
オンラインだけど、身体を大きく使いました!
広島大学EVRI-SIP運営オフィス
Email:sipstaff-evri(AT)ml.hiroshima-u.ac.jp
※(AT)は@に置き換えてください
電話:082-424-6809
掲載日 : 2026年06月25日
Copyright © 2003- 広島大学