約40万倍も明るくなったホームズ彗星の詳細な観測

 かなた望遠鏡がホームズ彗星のバースト(爆発・増光現象)を詳細に観測することに成功しました。今回得られた画像からは、彗星からの放出物質の移動と拡がりがはっきりとわかります。

 以下の画像は、ホームズ彗星の30日深夜の様子と、10月25日から30日にかけての中心付近の変化の様子を表しています。中心の明るい核に対して、雲のような光が拡がりながら徐々に遠ざかっていく様子がはっきりとわかります。この光は彗星から放出されたガスと塵(ちり)の塊が太陽の光を反射しているものと考えられ、今回の結果は、彗星からのガスと塵の放出現象の研究に重要なデータとなります。この塊が彗星から遠ざかるみかけの速度(注1)は、毎秒約150mにも達します。

 なお、今回の観測は、早稲田大学、国立天文台および名古屋大学との共同研究の一環として、東広島天文台かなた望遠鏡に、名古屋大学・光赤外線研究室のTRISPEC(注2)という観測装置を取りつけて行われ、その初期成果が11月3日に国際天文連合のCBETを通じて流されました。今回紹介した画像(可視光の撮像)以外にも、近赤外線での撮像や偏光観測などの観測が行われており、今後詳しく分析が進められることになっています。

参考文献 `COMET 17P/HOLMES' A. Arai, M. Uemura, M. Sasada, K. S. Kawabata, T. Yamashita, T. Yasuda, R. Matsui, H. Tanaka, O. Nagae, M. Isogai, T. Ohsugi, R. Furusho, J. Watanabe, M. Kino, & S. Sato 2007, CBET, 1118

2007年10月30日深夜に撮影したホームズ彗星の画像です。円盤状に大きく輝いているのがコマで、彗星から放出したガスや塵が太陽光を散乱して光っています。その中心部やや左上にひときわ明るく輝く点が核です。核から右下にかけて、拡がった雲のような構造があるのがわかります。左下の画像もご覧ください。

撮影時刻 31日01:45 TRISPEC可視チャンネル Vバンド10秒露出×2 視野7分角×7分角 上が北 左が東

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ホームズ彗星の中心付近拡大

中心付近を切り出したもの
 

左上の写真の核付近を切り出したもので、中心付近の雲の構造を見やすくするため、表示階調を対数スケールにしてあります。左上の核から右下の淡い雲に掛けて伸びる、細い構造があることがわかります。この画像において太陽は左上の方向にありますので、核からみて、太陽とは反対側に伸びた構造ということになります。

緑の四角に対応する領域をさらに拡大して、日ごとに並べて表示したものが、左下の画像になります。

核付近の構造の変化

10月25日から30日に掛けての核付近の拡大図で、左上の切り出し図で示してある緑色の四角の領域を、日ごとに並べて表示してあります。明るい構造が見やすいように階調が変えてあり、核付近の雲がどのように変化したかがわかります。25日は核周辺の雲は殆ど円盤状でしたが、雲が徐々に右下へ向かって拡がりながら移動し、30日にはこの領域からはみ出してしまっています。

25日 Rcバンド 27日 Icバンド 29, 30日 Vバンド 視野はいずれも1.4分角×1.4分角

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ホームズ彗星について

ホームズ彗星は、10月24日に突然明るくなっていることが発見された彗星です。現在でも肉眼で見ることができます。ホームズ彗星は、現在、太陽から約2.4天文単位の距離にあって徐々に遠ざかっています。地球からの距離は約1.6天文単位です。(1天文単位は地球と太陽との距離で、約1億5千万キロメートル)

彗星が太陽から遠ざかりつつある時に明るくなるのは珍しいことです。通常、彗星は太陽に近づくときにガスや塵を放出してコマが発達し、徐々に明るくなるとともに、尾を見せるようになったりします。そして、遠ざかるにつれて暗くなっていきます。今回の現象では、明るくなる前には約17等級という非常に暗い状態にあった彗星が、突然肉眼でも充分に見える2等級台にまで40万倍も明るくなったのです。太陽からこれだけ遠ざかった状態で、これほど明るい増光が見られるのは、非常にまれなことです。
 

ホームズ彗星についての詳しい情報は以下の国立天文台のホームページをご覧下さい。
国立天文台のホームズ彗星に関するページ

また国立天文台では、ホームズ彗星に関する緊急キャンペーンも企画しています。併せてご覧ください。
「緊急キャンペーン ホームズ彗星 大増光(国立天文台)」

 

(注1) 見かけの速度とは、空に投影した、横方向成分の速度のことを表しています。実際の速度は3次元的に考えなければなりません。手前に近づいたり、向こうへ遠ざかっている成分が存在する場合には、みかけの速度よりも速く動いていることになります。

(注2) TRISPECは可視赤外線同時撮像分光装置のことで、名古屋大学大学院理学研究科光赤外線研究室で開発された観測装置です。通常の観測装置では、可視ないしは赤外線の片方のみを観測し、もう片方は捨てていますが、TRISPECでは望遠鏡で集めた光を無駄にすることなく、両方を同時に観測することが可能です。突如現れては消えゆく突発天体の機動的観測を行うかなた望遠鏡の特長を活かした、ユニークな観測が可能になります。


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