宇宙ニュートリノ放射源天体の同定に成功

史上初の宇宙ニュートリノのガンマ線によるニュートリノ放射源天体の同定に、広島大が貢献

TXS 0506+056のガンマ線・可視光画像

ニュートリノ放射源に同定されたブレーザー(活動銀河核)TXS 0506+056  とその周辺の画像  (左)フェルミ衛星LATで得られたガンマ線強度マップ 視野2.3°×2.3° The IcuCube, Fermi-LAT, MAGIC teams, et al. Science 361, eaat1378 (2018) (右)かなた望遠鏡で得られた可視光・近赤外線の合成画像 視野0.08°×0.08°  可視光Rバンド(波長0.66μm)と近赤外線Jバンド(波長1.2μm)の2色の画像を用いた疑似カラー合成画像で、その撮影は2017年9月24日未明(日本時)に東広島天文台かなた望遠鏡に取り付けられた可視赤外線同時カメラHONIRによる。

概要

 広島大学、千葉大学、東京大学、国立天文台などが関わる国際的な研究グループは、南極の氷床に建設された世界最大のニュートリノ観測実験IceCubeで捉えられた宇宙ニュートリノの到来方向の情報を元に、世界中で電磁波で追観測を行い、放射源天体を同定することに史上初めて成功しました。

 この放射源の同定には、広島大学のかなた望遠鏡による可視光・近赤外線観測と、それに続くフェルミ・ガンマ線衛星(広島大学が日本フェルミ衛星LATチームの代表機関)による観測データの解析に基づき、世界に先駆けて、広島大学をはじめとする東京大学、京都大学、東京工業大学、愛媛大学、国立天文台、スタンフォード大学などの研究者からなるグループが大きく貢献しています。

 これらの成果がまとめられた科学論文が、米国の科学雑誌Science誌の2018年7月13日号に掲載されました。

研究成果

 IceCubeは2012年以降、宇宙からやってくる高エネルギーニュートリノを捉え、超高エネルギー宇宙線の起源を探る突破口を得ていましたが、その大きな鍵となるニュートリノ放射源の特定には至っていませんでした。千葉大学のグループを中心に開発が進められたニュートリノ事象のリアルタイム解析アルゴリズムにより、2016年4月からIceCubeのニュートリノの到来方向の速報(アラート)が配信されるようになり、可視光やガンマ線などの電磁波での素早い追観測が行えるようになっていました。

 日本時間の2017年9月23日5時54分に検出されたニュートリノ事象 IceCube-170922A のアラートを受け、広島大学は口径1.5m光学望遠鏡「かなた」で可視光・近赤外線での追観測を行うことにしました。ただ、ニュートリノの位置誤差は天球面上の角度で1-2°もあり、その中にある全ての天体を即座に調べることは困難です。

 広島大学を中心とするグループは、これまでのIceCubeの先行事象の観測や、重力波対応天体の探索で培った経験・手法を応用し、ニュートリノ放射源の候補からブレーザー(活動銀河核の一種)に標準を絞って、既存のカタログよりも5倍多いブレーザー候補を独自に選出してBROSカタログを整えていました。そこで、IceCube170922A のアラート受信後、即座に、位置誤差内に7個のブレーザー候補(下図中のBROS sources)を割り出して、重点的に観測を行いました。

IceCube-170922Aと観測視野、および候補天体の天球上の位置関係

候補天体と観測視野 IceCube-170922Aの到来方向はオリオン座にあり、長径2°、短径1°ほどの誤差を持っていました(緑色の楕円)。その中に、ブレーザー候補(BROS sources)が7個ありました。

 この観測により、ブレーザーTXS 0506+056 が可視光域で過去の観測に比べて増光しており、のちに減光したことを世界に先駆けて発見しました。さらに、この情報に基づいて、広島大学を中心とするグループが、フェルミガンマ線衛星のLATで得られたデータの解析を行い、通常時をはるかに上回る強さでガンマ線を放出していることを見出しました(Tanaka, Y. T.ほか ATel 10791)。TXS 0506+056自身は既知の天体で、Fermi-LAT Source Catalogで公開されていますが、この天体は同年4月からその活動を活発化し、通常時の最大6倍の強さでガンマ線を放射していました。つまり、IceCube-170922Aは、ガンマ線放射が活発な時期に検出されたことが判りました。今回のニュートリノ検出とガンマ線の増光がたまたま同時に起こる確率は0.003%と僅かであり、ニュートリノ事象もTXS 0506+056で起こったと考えられます。

 その後、かなた望遠鏡による偏光観測や、東京大学の木曽観測所1.05mシュミット望遠鏡のKWFCによる可視光広視野観測、国立天文台ハワイ観測所8.2mすばる望遠鏡のFOCASによる分光観測を含む、様々な観測が世界中で執り行われました。また、解像型大気チェレンコフ望遠鏡MAGICの観測によって、この天体からフェルミ衛星で検出されたガンマ線よりもずっとエネルギーの高い(100GeVを超える)ガンマ線が検出されました。

 本研究により、ブレーザーにおいて(1PeV=1000兆電子ボルトを超える)超高エネルギー宇宙線の加速が引き起こされていることが初めて明らかとなりました。これは、宇宙の未解明の謎である超高エネルギー宇宙線放射機構の理解に通じる大きな一歩となります。

今後

 今回は、広島大学1.5mかなた望遠鏡や、東京大学木曽観測所1.05mシュミット望遠鏡だけでなく、東京工業大学の明野0.5m MITSuME望遠鏡、京都大学の理学研究科0.4m望遠鏡、名古屋大学の南アフリカ天文台1.4m IRSFなど、光・赤外線天文学大学間連携による観測も実施されています。また、国立天文台ハワイ観測所の8.2mすばる望遠鏡でも、FOCASによる分光観測に加え、HSCによる広視野撮像観測も行われました。これらの可視光・近赤外線観測により、TXS 0506+056の明るさが不規則に変化することや、可視光スペクトルが特徴の少ないのっぺりとしたものであること、最大7%ほどの日変化する偏光を示すことを捉え、ピーク周波数の高いBL Lac型と呼ばれるブレーザーの特徴と矛盾が無いことが判りました。

 今後も、IceCube事象が捉えられた場合には、引き続きブレーザーに特化した手法を用いて、より早期の検出を目指す予定です。可視光・近赤外線域での多バンドの測光や分光、偏光観測など多角的な観測を実施すると共に、フェルミ衛星によるガンマ線観測データの解析も行い、現象の発生機構の解明を進めます。また、ニュートリノ放射源天体の他の有力候補である超新星についても同様に、広視野型の望遠鏡を駆使した捜索観測や、フェルミ衛星を含む様々な望遠鏡による多角的な追跡観測によって、誤差範囲内をくまなく探索してく予定です。地上からの可視光・近赤外線観測には、光・赤外線天文学大学間連携も引き続き活躍することでしょう。特に、東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所で開発中の広視野カメラTomo-e Gozen(視野9°)や、京都大学大学院理学研究科附属天文台岡山天文台で間もなく観測を開始する予定の口径3.8mせいめい望遠鏡(面分光装置や多色撮像装置が実装される予定)、さらに広島大学が中国科学院国家天文台の協力を得てチベットの標高5100mの山頂に設置した口径0.5m HinOTORI望遠鏡といった、新しい「眼」による活躍も期待されます。

使用した望遠鏡と光・赤外線天文学大学間連携

日本のグループが使用した望遠鏡の一覧と光・赤外線天文学大学間連携の望遠鏡群

公表論文


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