降着円盤の構造を調べる新手法を開発

植村誠(宇宙科学センター 准教授)

 

ブラックホールのようなコンパクトな重力源の周りでは「降着円盤」と呼ばれる構造が重要な役割を果たします。降着円盤とはガスでできた円盤状の構造で、ガスは中心の重力源の周りを回転しながら、ゆっくりと落ちていきます。この時、円盤自体が明るく輝くため、例えばブラックホール自身は見えなくても、降着円盤からの光を詳しく調べることでブラックホールを調べることができるのです。

しかし、天体はとても遠くにあるため、どんなに大きな望遠鏡を使っても降着円盤の構造を直接詳しく見ることは困難です。ただし、連星の中にある降着円盤は時間と共に私たちから見る角度が変わるため、様々な角度から観測することで、その構造を再構成することができます。この手法は医療用のX線CTと同じ原理が使われています。今回、私たちは医学と情報科学の共同研究からヒントを得て、データが少ない場合でも正確に円盤構造を再構成できる手法を開発しました。従来法と最も異なる点は、構造の推定にこれまで標準的だった「最大エントロピー法」ではなく、「全変動最小化」と呼ばれる手法を採択したことです。図は人工データを使ったシミュレーション結果を表しています。少ない観測データからでも正確に仮定した構造を推定できていることがわかります。この研究は広島大学、京都大学、コンセプシオン大学(チリ)の研究者による共同研究で、2015年4月2日発行の「Publications of Astronomical Society of Japan」2015年第2巻で発表されました。

人工データではなく本物の降着円盤データにこの手法を応用する研究も既に始めています。この新しい手法で降着円盤の新しい姿を明らかにしていきたいと考えています。


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