学長式辞 令和7年度学位記授与式 (2026.3.23)
本日、広島大学を巣立たれる3,718人の皆さん、誠におめでとうございます。令和7年度学位記授与式にあたり、広島大学を代表して、心よりお祝い申し上げます。
振り返りますと、皆さんの多くが入学された2022年は、なお新型コロナウイルス感染症の影響が色濃く残る時期でありました。4月の入学式も、この会場において、新入生の皆さんのみの出席とし、二度に分けて挙行いたしました。授業や部活動、そして日常生活にも多くの制約がありました。不安を抱えながら、学生生活の第一歩を踏み出されたことと思います。
そのような困難を乗り越え、本日、ご家族をはじめ多くの方々とともに、この晴れの日を迎えられました。私どもにとりましても、これほど嬉しいことはありません。どうか、これまで皆さんを支えてこられたご家族や関係者の方々への感謝の気持ちを、いつまでも胸に留めていただきたいと思います。
皆さんが学びを深められたこの数年間は、広島大学にとっても歴史的な節目の時期でした。2024年、本学は開学75周年を迎えました。また、最も古い前身校である白島学校の創立から150年という節目でもありました。さらに翌2025年は、前身校の学生・生徒も多く犠牲となった、原爆投下から80年の年でもありました。
こうした機会に、本学では多くの平和関連事業を開催してまいりました。吉永小百合氏による原爆詩朗読会、平和学長会議、世界的オペラ歌手・中丸三千繪氏らによる平和チャリティコンサート。さらに、歴史人口学者エマニュエル・トッド氏の講演会などであります。これらの取り組みを通じて、本学はあらためて「平和の大学」としての使命を次世代へ継承していく決意を新たにいたしました。
同時に本学は総合研究大学としても大きな飛躍の時期を迎えています。2023年度には、文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」の第一陣12大学に選定されました。さらに2025年度には、「未来を先導する世界トップレベル大学院教育拠点創出事業」において、全国6大学の一つとして採択されました。西日本では唯一の採択であります。これらは、本学の研究力と教育力が高く評価された証であり、100年後にも世界で光り輝く大学を目指す確かな歩みであります。皆さんが学んだ本学は世界的な評価においても中四国においても際立った存在感を示し続けている、誠に優れた大学であります。
どうか、この大学の同窓生であることを、生涯の誇りとしていただきたいと思います。広島大学は建学の理念、研究大学としての実績において申し分のない素晴らしい大学です。
さて、世界に目を向けますと、各地で戦火がたえません。今、世界では「分断と対立」が深まり、平和と民主主義という理想は、大きな試練に直面しています。このような時代に、私たちはどのように向き合うべきでしょうか。
明確な答えは、容易には見つかりません。しかし、一つの示唆を与えてくれる言葉があります。南アフリカ共和国の元大統領であり、ノーベル平和賞受賞者でもあるネルソン・マンデラ氏の言葉です。「敵と平和を築きたいなら、その敵と協力しなくてはならない。」マンデラ氏は、27年もの獄中生活を経て、かつて敵対していた白人政権との対話を重ね、アパルトヘイトの廃止を実現しました。この言葉には、深い真実が宿っています。
マンデラ氏はまた、こうも語っています。「自由になるということは、他の人の自由を尊重し、その人を支える生き方をすることである。」憎しみや排除ではなく、価値観や立場の違いを越えて、未来を共に創り出す勇気。そして、どのような状況にあっても、対話をあきらめないこと。それこそが、希望の灯をともし続ける道であると、私は信じています。
この姿勢は、国家間の問題だけではありません。皆さんがこれから歩まれる社会においても、重要な指針となるでしょう。組織の中で悩むとき。人間関係に迷うとき。ぜひ、マンデラ氏の言葉を思い出してください。
さて、近年は、とりわけ生成AIが急速に普及しました。皆さんの多くも、その恩恵を受けてきたことと思います。AIは、模範解答を瞬時に示してくれます。
しかし、「何を問うべきか」を決めるのは、AIではありません。それは、皆さん自身です。問いを立てる力。価値を見抜く力。そして他者と協働し、未来を創る力。これらは、どれほど技術が進歩しても、人間にしか担えない役割です。AIと賢明に向き合いながら、自ら考え抜く姿勢を、どうか大切にしてください。
また、皆さんの世代は、多様な価値観を尊重する世代でもあります。自分の成功だけを追い求めるのではなく、互いを認め合い、支え合いながら歩んでください。広島大学で培った学びと友情は、これからの人生において、揺るぎない支えとなるはずです。本学で培った専門知識と教養、そして誇りを胸に、新たな世界へ果敢に挑戦してください。生涯をとおして、「平和を希求し、チャレンジする国際的教養人」として力強く歩まれることを、心より期待しています。
最後に、皆さんお一人おひとりの前途が、希望と光に満ちたものでありますよう、心から祈念し、私からのはなむけの言葉といたします。
令和8(2026)年3月23日
広島大学長 越智光夫

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