学長式辞 令和8年度入学式 (2026.4.3)
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
本日の佳き日に、広島大学の新たな仲間として4,198人の皆さんをお迎えして入学式を挙行できますことを、学長として心より嬉しく思います。広島大学は教育・研究の実績に優れ、卒業生の一人として誇りに思う素晴らしい大学であります。そのような大学に入学を果たされ、こうして皆さんがこの場におられるのは、ご家族の支えと導きがあったからに他なりません。感謝の気持ちを永く忘れないでいただきたいと思います。
さて、20世紀のドイツの哲学者カール・ヤスパースは、著書『歴史の起原と目標』の中で、「歴史を回顧することは、自己を省みることである」と述べています。私たちが歴史を学ぶのは、単に過去の出来事を知るためではありません。人類が重ねてきた試行錯誤や経験を知ることで、現在地を確かめ、そしてどのような未来を築くべきなのかを考える糧とするためなのです。
今から81年前の1945年8月6日、広島に投下された原子爆弾によって、その年のうちに約14万人が亡くなり、広島大学の前身校や附属学校の学生、生徒、児童、教職員の尊い命も多く奪われました。こうした惨禍を乗り越えて1949年、広島大学は、広島文理科大学をはじめ、伝統、校風、教育課程の異なる9つの前身校を統合し、「自由で平和な一つの大学」を目指して開学したのです。
平和を希求する精神は、今日においても、各国の大使らが平和について語る「ピース・レクチャー・マラソン」、世界の学生を広島に招く「ピーススタディーツアー」、そして世界各地の大学のトップが集う「平和学長会議」などの形で脈々と受け継がれています。
現在、広島大学は、国立大学では最多となる12学部に4研究科、1研究院を擁し、99か国・地域から約2,000人の留学生を含む1万5,000人を超える学生が学ぶ全国屈指の総合研究大学へと発展しました。国立大学の単一キャンパスとして全国第3位の広さと豊かな自然を誇る「東広島キャンパス」、医・歯・薬の医療系分野が集積する「霞キャンパス」、そして大学発祥の地であり法曹養成の拠点でもある「東千田キャンパス」の3つのキャンパスがあります。同窓生は今や25万人を超え、多くの卒業生が各界で活躍されています。
教育・研究面でも、本学の発展は目を見張るものがあります。2014年に文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援事業」トップ型に中国四国地方で唯一採択され、学生の語学力向上やグローバルキャンパスの形成を強力に推進してきました。こうした取り組みもあって、学部生の4人に1人が、日常生活や仕事で支障なく英語を使えるレベルとされるTOEIC®スコア730点以上に達しています。皆さん一人一人が英語力も身に付けられるよう、本学は様々な留学支援制度などを通じてしっかりサポートしてまいります。
研究では、超物質開発やゲノム編集、半導体、脳科学、リモートセンシングなど、世界の最先端を走る多彩な分野で成果を挙げています。国連のSDGs(持続可能な開発目標)の枠組みを用いて大学の社会貢献度を可視化した「THEインパクトランキング2025」では、広島大学は世界2,300余りの大学の中で101–200位、国内では2位にランクインしました。また、アジアの大学における卓越した改革の取組を表彰する「THE Awards Asia 2025」でも日本で初めて2部門の大賞を同時受賞するなど、トップレベルの大学としての歩みを進めています。
一方で、世界に目を向けると、戦火が絶えず、国際社会は大きな試練に直面しています。こうした時代だからこそ、物事を多角的に捉え、異なる価値観と向き合う力が一層求められています。
その力を育むのが大学での学びです。実社会では正解は一つではありません。また、国際紛争のように単純な答えを見いだせないものもあります。つまり How(どのように)だけではなく、「なぜその問題が起きているのか」「その問題の背景には何があるのか」という Why(なぜ)を問い続けることが、今ほど求められている時代はないと、私は考えています。
本学では、そのための多様な学びの機会を用意しています。例を挙げれば、各界の第一人者に自らの経験や考えを語っていただく特別講義シリーズ「世界に羽ばたく。教養の力」と、選択必修の「平和科目」です。平和科目は戦争・紛争、核廃絶、環境など約30科目の中から一つを選び、被爆建物などの見学やレポート作成を通じて「平和とは何か、平和のために何ができるのか」を考えていただきます。
ヤスパースは「大学とは、真理を探究する人々の共同体である」とも述べています。大学は知識を一方的に教える場ではなく、教員と学生がともに問い、考え、真理を探究していく場です。すなわち大学とは、答えを与えられる場所ではなく、問い続ける力と勇気を育てる場でもあります。
皆さんが今日から、広島大学という舞台を存分に活用し、幅広い教養と深い専門知識を身に付け、幾多の困難を乗り越えて新しい道を切り拓いていかれることを、心から願ってやみません。
大学生活では、学業はもとより課外活動やボランティア活動など、さまざまなことに積極的に挑戦してください。皆さん一人ひとりが「広島大学で学んでよかった」と実感できるよう、教職員一同、力を合わせて支援してまいります。
皆さんの大学生活が実り豊かなものとなり、ここ広島大学での学びが、皆さんの人生を切り拓く確かな力となることを心より願い、私の式辞といたします。
令和8(2026)年4月3日
広島大学長 越智光夫

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