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【広域交流型オンライン学習の開催報告】【2025.1.29】「多文化共生」をテーマとする遠隔授業を実施しました

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として、「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校(通称、NICE)」プロジェクトに取り組んでいます。

 2025年1月29日、東広島市内小学校2校2学級(豊栄小学校、小谷小学校)の4年生(52名)と広島市立基町小学校の3・4年生(28名)、鹿児島市立桜峰小学校の3・4年生(9名)、鹿児島市立桜洲小学校の6年生(16名)、スペシャルサポートルーム、フレンドスペース、スクールSの児童生徒が参加し、「多文化共生」をテーマとする遠隔授業を実施しました。今回は、「みんなの言葉は、あなたの言葉?~あなたの言葉も、みんなの言葉?~」と題して、「公共性」と「効率性」を視点に、地域や社会で言語が果たしている機能を探究しました。南浦涼介准教授と草原和博教授がT1(遠隔授業のファシリテート)を務めました。

授業をファシリテートする南浦涼介准教授

「お知らせ」には何語が書いているかな?

 本授業は、多様な言葉で書かれている地域の「お知らせ」看板に関する5問のクイズから始めました。子どもたちには「お知らせ」看板がどこの看板かを当ててもらいます。ここでは、ロシア語を含む稚内市の看板、アジア各地の6つの言葉で書かれた横浜市の看板、韓国語や中国語が目立つ福岡市の看板を提示しました。クイズを通して、地域によって異なる多様な言語で「お知らせ」が書かれているということに気づきました。ここで1時間目のめあてとして「地域の人がお困りなく生活するためにはいくつの言葉をのせるといいか?」が共有されました。

どこの「お知らせ」かな?

みんなで「お知らせ」を見てみよう!

 授業は、大きく分けて 2つのパートで展開されました。前半部では、多言語で示すべき言葉(日本語、英語、中国語など…)について考えました。まず、東広島のコミュニティバス「のんバス」車内にある「お知らせ」を確かめます。「お知らせ」を見ると、日本語・英語・中国語・韓国語の4つの言葉で書かれていました。
 ここで、「東広島の『のんバス』のお知らせは4つ書いてあります。これをどう思う?」についてアンケートを取りました。選択肢は「多い」「ちょうどいい」「少ない」「わからない」の4択です。結果は、「多い」が4.8%、「ちょうどいい」が68.3%、「少ない」が19.2%、「わからない」が7.7%でした。全体としては「のんバス」のお知らせに載せる言葉の数は4つで「ちょうどいい」と考えている人が多いことがわかりました。

アンケートに回答中!

アンケートに回答中!

 次に、のんバス車内の「お知らせ」が、なぜ日本語・英語・中国語・韓国語の4つなのかを考えました。子どもたちには、①東広島市における外国人市民がどこの国からどれくらい来ているのか(1位:中国、2位:ベトナム、3位:フィリピン、4位:インドネシア)、②どんな言葉が読めるのか(1位:英語、2位:日本語、3位:中国語、4位:ベトナム語)について調査した結果のグラフが載っています。子どもたちからは、「韓国語の理由はわからないけど、英語と日本語と中国語が読める人は1位・2位・3位だった」「どちらも中国語が多い。英語ならいろんな国の人がわかるから」「ベトナム語が載っていないのはなぜ?」「韓国語なのはなぜ?」といった気づきを共有してくれました。
 ここで、なぜ日本語・英語・中国語・韓国語の4つなのか、市役所の人に聞いてみました。担当者は、「みなさんが分かる言葉として中国語と英語を選んでいる」「東広島市に遊びに来る観光客は韓国人が多いので韓国語を載せている」と説明して下さりました。また、なぜベトナム語を入れないのかという質問には、「東広島には115の国や地域の人がいて、全部の言葉を入れたいが、文字が小さくなってしまうので難しい」と回答されました。

市役所の人にも意見を聞いてみる!

出演してくださった市役所の担当者さま

 ここであらためて「東広島の『のんバス』のおしらせは4つ書いてあります。これをどう思う?」についてアンケートを取りました。今度は「納得できる」「納得できない」で回答してもらいます。結果は、「納得できる」派が89.9%、「納得できない」派が10.1%でした。多くの子どもが「納得できる」と考えるようになったことが分かりました。少数派の「納得できない」子どもに理由を聞いてみると、「字が小さくなるけど、もうちょっと入れたほうがいい」「身近な人がポルトガル人なので、ポルトガル語を入れたい」「ベトナムやフィリピンの人が多く住んでいるので、別の言葉を入れたほうがいい」と述べました。このように、現在掲載されている4つの言葉以外にも配慮する子どもの意見が共有されました。
 前半のまとめとして、コミュニティバスに載せるべき言葉を、Googleスプレッドシートにリストアップしてもらいました。日本語・英語・中国語・韓国語に加えて、ベトナム語やインドネシア語、アラビア語など様々な言葉が選ばれました。また、国際色が豊かな基町小学校の子どもたちは、身の回りにあるネパール語、タミル語など様々な言葉を挙げてくれました。理由として、「近くに住んでいると思っていなくて、看板にまだ入れてなかった」「タミル語を話す人が引っ越してきているかもしれないから」と述べました。ゲスト参加した広島大学の学生は、世界でたくさんの人が話しているスペイン語やポルトガル語を入れるべきだと言いました。草原和博教授は、「載せたい言語はたくさんあるけど、すべては載せられないから悩むよね」とまとめました。

授業の後半部では、どのような情報を多言語で示すべきか考察し、多言語を載せたお知らせを提案しました。
 まず、コミュニティバスではどのような情報を多言語でお知らせしているのかを調べました。車内で撮影した動画をみんなで眺めると、様々なお知らせが様々な言語で書かれていることに気付きました。例えば、非常時のドアの開け方は日本語のみ、優先席は日本語と英語に加えて絵でも、次のバス停は日本語と英語、整理券での割引サービスは日本語のみ、運転中に立ってはいけないというお知らせは日本語と英語、中国語、韓国語で書かれていました。また、鹿児島市の桜島フェリー船内では、救命胴衣の着方が日本語と英語で、広島市のショッピングセンターでは立ち入り禁止のお知らせが日本語と英語、中国語、ベトナム語などで書かれていました。そして、3つ以上の言語(=多言語)で書かれている看板は、立ってはいけない・立ち入り禁止といった「やっちゃだめ」系のお知らせが多いことに気づきました。
 ここで「バスのお知らせで、3つ以上の『多言語』にしたらいいと思うのはどれ?2つ選ぼう!」についてアンケートをとりました。結果は、「緊急時のドアの開け方」が79.2%、「優先座席」が57.4%、「次にとまるところと値段」が49.5%、買い物が割引になる整理券が14.9%でした。子どもたちは、「緊急の時脱出の仕方が分かると安心」「優先座席に座れないと安心できない」といった理由を説明してくれました。南浦涼介准教授は、お知らせには、禁止や注意喚起を意味する「やっちゃだめ系」と情報提供を意味する「お助け・お役立ち系」があるとまとめました。

 次に、ここまでの学習の成果を活用して、多言語を載せたお知らせを提案するという活動に取り組みました。提案にあたっては、①どこに(駅、船、学校、図書館、お店)、②なにを(やっちゃだめ系、お助け・お役立ち系)、③何語で(日本語、英語、中国語など…)の各点を押さえてもらいます。
 例えば、小谷小学校は、①おまるめ山バスという地元を走り始めたコミュニティバスに、②「途中でドアを開けない、立たない」(やっちゃだめ系)を、③日本語、英語、中国語、韓国語、フランス語、インド語で載せるお知らせを提案してくれました。基町小学校は、①原爆ドームに、②「ここでお祈りしましょう」(お役立ち系)を、③日本語、英語、中国語、韓国語に加えてネパール語で載せるお知らせを提案しました。ネパール語を載せるという提案には、居住者人口の出身地を考慮したことが伺えます。また、桜峰小学校は、①病院に、②病院への案内(お助け系)を、③日本語、英語、中国語、韓国語に加えて、点字や絵で載せるお知らせを提案してくれました。よりたくさんの人に情報が伝わるよう、言葉に頼らず、点字や絵で表現するという柔軟な考えを示してくれました。
 このように、子どもたちは、場所や相手・読み手を考慮して、お知らせの表現や言語を提案してくれました。

多言語をのせた「お知らせ」を提案だ!

友だちが作った提案に注目中!

 終結では、子どもたちの提案を市役所の担当者に見てもらい、意見を伺いました。市役所の担当者は、「看板を作るときは、みんなが困らないようにするのが大事」「やっちゃダメ系だけではなく、お助け系・お役立ち系も大切」「何語を使うかは、その場所に誰がいるか、見やすいかを考えて決める」「正解はないので、私たちも悩んでいる」と答えられました。さらに担当者の方は、図書館に、駐車場やエレベーター、多目的トイレ、オストメイトトイレを案内するお知らせを、ピクトグラムで示したい、と提案してくださりました。図書館にはいろいろな人が来るので、どんな言葉を話す人でも分かりやすいピクトグラムを選んだと理由を説明されました。子どもたちの提案に市役所の担当者が応答したり、逆に市役所の担当者が子どもたちに提案したりと、学校の外と内で互いに提案しあう場面となりました。
 最後にまとめとして、南浦涼介准教授は「言葉にもいろいろある。何を載せるかにも、いろいろな理由がある」「悩みながらだけど、いろいろな人たちのことを考えながら決めていこう」と述べました。加えて草原和博教授は「やっちゃダメ系だけではなく、お役立ち系・お助け系など様々なお知らせを増やしていきたいね」と提案しました。

 本授業では、日常生活の至るところにある「お知らせ」に注目して、多言語社会の在り方を探究しました。グローバル化が進み、使用される言語が多様化する日本社会で、どのような社会を作っていくのかを考える場となりました。印象的だったのは、前半のまとめで、アラビア語を入れるべきだと主張した子どもが、「近くに住んでいると思っていなくて、まだ看板に入れてなかった。けど…(入れたい)」と語ったところです。言語的マイノリティの存在に気づき、多様な市民の共生について考えることができた瞬間でした。引き続きNICEプロジェクトは、言語の問題にこだわり、公共的な課題を追究する授業を提案してまいります。 

クラスのグループワークの様子

鹿児島から広島に自分の意見を発信だ!

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【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


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