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広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として、「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校(通称、NICE)」プロジェクトに取り組んでいます。
2025年2月12日、東広島市内小学校6校14学級(西条小学校、郷田小学校、志和小学校、中黒瀬小学校、福富小学校、木谷小学校)の4年生(371名)と広島市立基町小学校1学級の4年生(12名)、スペシャルサポートルーム、フレンドスペース、スクールSの児童生徒が参加し、「外国人市民」をテーマとする遠隔授業を実施しました。今回は、「国際交流に取り組むまち-外国人市民にも住みよいまちをつくる!!-」と題して、外国人市民の声を手がかりにまちづくり施策を構想し、それを市長に提案しました。
外国人市民のレズキさんにインタビュー!
担任の先生と相談中!
本時は、外国人市民の困りごとを確認することから始めました。まず、○×クイズを通して、東広島市の外国人市民に関する基本情報を確認しました。クイズは、「人口19万人のうち、1万人が外国人市民である(○)」「東広島市は、広島県の中で外国人市民が一番多い(○)」「東広島市の外国人市民は、勉強のために来ている人が一番多い(×、仕事のために来ている人が一番多い)」の3問です。市役所の人が中継で答え合わせをしてくれました。子どもたちは、東広島市は外国人市民が多いまちであること、外国人市民は仕事や勉強などの理由で東広島市に来ていることを確認できました。
次に、東広島市の良さと困りごとに関する外国人市民の声を聞きました。ここでは、インタビュー動画を聞いてみます。動画には、インドネシアから留学で来たレズキさん、ベトナムから仕事で来たヤウさんたち、外国人市民に日本語を教えている吉野さんが登場します。レズキさんは自身がイスラム教徒であること、お祈りの場所や食べ物で困っていること、東広島市にはハラルのお店があって助かっていることを教えてくれました。ヤウさんたちは病院で症状を上手く伝えられなかったり薬の説明書を読めなかったりして困っていると語りました。そして、吉野さんは「遠足に敷物を持参する」という行為の意味・習慣や幼稚園の探し方がわからずに困っている保護者がいると述べました。実際に外国人市民の声を聞くことで、東広島市は外国人市民にとって良さも課題もあるまちだということに気づきました。
ここで、「外国からきた小学生は、どのくらい、こまっているのだろうか」について5段階でアンケートを取りました。①外国から来た小学生と②日本にずっと住んでいる小学生に聞いてみました。結果は次の通りです。日本にずっと住んでいる小学生のうち59.6%が、外国から来た小学生が(少し)困っているはずだと考えていました。しかし、少し困っていると答えた外国から来た小学生は25%、困っていると答えたのはなんと0%でした。このように、必ずしも外国人市民が東広島市で困っているわけではないこと、しかし、困っている人も一定数いることに気づくことができました。そこで今回の授業のめあてとして、「東広島市が、外国人市民にとっても、みんなにとっても、住みよいまちになるには、どうしたらいいだろう?」に設定しました。
○×クイズに挑戦だ!
正解発表をする市役所の若村さん
外国から来た小学生は困っているのかな…?
外国人市民が多い基町小の話に耳を傾ける
授業の前半部では、外国人市民の困りごとの詳細や理由を探っていきます。まず、子どもたちがレズキさんとヤウさんたち(吉野さん)に質問したいことを考え、実際に質問してみました。
レズキさんは、「お祈りは普段どこでしているのか?」などの質問に対して、「大学のお祈り部屋や住んでいるアパートからしている」「どうしてもお祈りの場所が近くにないときは、目立たないように人に見られない場所を探してお祈りしている」「豚肉は食べられないしお酒は飲めない」と答えました。また、レズキさんの困りごとに関して市役所の若村さんは「東広島市内にはイスラム教徒のお祈りの場所が2か所ある」「一つの宗教のために市がお祈りの場所を作ることはできない」「市役所ではお祈りができなくて困っている人がいたら空いている部屋を貸している」と言いました。
ヤウさんたちへの質問は、仕事で来られないヤウさんたちの代わりに吉野さんが答えてくれました。吉野さんは、「仕事で困っているときはどうするのか」などの質問に対して、「機械を使って翻訳している」と答えました。また、市役所の若村さんは「広島県内で通訳の人を無料でお願いできる病院は4つ」「病院から市にお願いをすることで通訳の人を呼べる」ということを教えてくれました。このように、授業の前半部では、子どもたちが外国人市民の困りごとに関心を持ち、理解を深めていくことができました。
病院での困りごとを教えてくれるヤウさんたち
外国人市民の困りごとを教えてくれる吉野さん
授業の後半部では、外国人市民の声を踏まえ、東広島市を、外国人市民を含むみんなにとって住みよいまちにするための施策を構想・提案していきます。
後半部は、「市のそなえは十分か?」というアンケートから始めました。アンケート結果を見ると、全15学級のうち13学級では「十分ではない」派が多数を占め、2学級では「十分だ」派が多数を占めました。多くの子どもたちは、東広島市の取組を十分ではないと考えているようでした。当該学級の子どもは、十分ではない(足りない)理由として、「イスラム教のお祈りがどこでもできるわけではないから」「英語で話せる病院が4つしかないから」と答えました。他方、十分だという理由として「病院の無料の通訳サービスがあるから今のままでもよい」と答えました。また、授業に参加した市民には、「現状でも頑張っている」と答えた方がいる一方で、大半の方は「もっと変わってほしいので不十分」と述べました。このように、子どもの間でも、大人の間でも意見が分かれていました。
ここで、特別ゲストとして高垣広徳・東広島市長が登場し、子どもたちの評価に対してコメントしていただきました。市長は、「東広島市が外国人市民にとって住みよいまちとなるように10の外国語に対応したホームページを作ったり、やさしい日本語で会話をしたりする取組をしている」と現行の施策を紹介しつつ、「いろいろな視点から意見をいただくことを楽しみにしている」と子どもたちを激励されました。子どもたちは、実際に市長が意見を待っているということを受けて、提案に向けてやる気を高めていきました。
次に、これまでの学習を生かして、外国人市民に関する施策を提案していきます。
まず各学級で、「お祈りの場所のお困り」と「病気の時のお困り」、いずれかの問題を選びました。そして各学級で、それぞれのお困りを解決する提案を出していきました。
提案づくりに際しては、アメリカから授業を見に来ていたゲストにアドバイスをもらいました。例えば、レベッカさんは、カリフォルニアでは外国人市民を支援する取り組みとして、子どもの英語のレベルを診断する専門家がいること、その結果に応じて母語でサポートしてくれたり、その人に合わせた特別な授業をしてくれたりする支援体制があることを教えてくださりました。キャシーさんは、イスラム教徒のお祈りの場所に関して、授業中にお祈りをしたいというニーズをもつ子どもがいたら、教室を出てもよいという雰囲気をつくっていることを教えてくださりました。市議会議員の鍋島さんは、東広島市以外での外国人市民をサポートする取組として、外国の給食を食べて異文化を理解する授業や、地域の人と外国人市民が一緒に防災訓練を行うという取組を紹介してくださりました。これらのゲストのアドバイスを受けながら、子どもたちは自分たちの提案をブラッシュアップしていきました。その結果、以下のような提案が出されました。
【お祈りの場所のお困りに対する提案】
・お店、コンビニやスーパー、駅にお祈り場をつくる
・学校に「異文化の部屋」をつくる
・空き部屋をお祈りの部屋として活用する
・(特定の宗教ではない)いろんな宗教の人が使える多目的なスペースを用意する
・(税金ではなく)募金で作る
・市役所に作るなら、いろんな宗教のお祈りの場所もつくればいい! など
【病気の時のお困りに対する提案】
・絵やカード、イラストを使って症状を伝えられるようにする
・病院にスマホを置くなど、通訳のできる病院を作る、増やす
・市内の全部の病院に、通訳ができるAIを取り入れる
・(無料でなくても)通訳する人を増やす。日本語を学べる場所をつくる
・看板やちらし、薬の説明書、ひょうしきに外国語で書く(災害にもそなえる)
・QRコードを読み込んだら、外国語が出てくる仕組みを作る など
これらの提案に対して市長の意見を聞きました。市長は、お祈りの場所について「行政がつくるのは難しいが、会議室などをお祈りの場所として使うことはできるかもしれない」「募金の取組は面白い」、病気の時については、「東広島市は英語や中国語以外の外国語を話す市民が多いので、AIや翻訳アプリは重要だ」「カードやイラストを使うのは、よいアイデア」「やさしい日本語で会話することで、お互いに理解できる」と述べました。そのうえで、「助け合いをする市になっていきたい」「すべての市民にとって住みよいまちにしていきたい」と語りました。
市長に向けての提案を考える!
カリフォルニアの取り組みを教えてくれるレベッカさんとキャシーさん!
市議会議員から助言をもらう!
ホンモノの市長からお返事が来た!
終結では、本時のまとめとして、市長にしてほしい最も「大事なこと」を1つ選びました。子どもたちの提案をAIで5つに分類し、アンケートで投票しました。提案の選択肢は、「①病院で外国人が困らないようにする」「②薬や病気についての情報を外国人にわかりやすくする」「③いろいろな場所で外国人が生活しやすくする」「④いろいろな宗教のお祈りの場所をつくる」「⑤外国人が日本語を話せなくても困らないようにする」の5つです。投票の結果は、①が12.4%、②が9.8%、③が24.4%、④が13.2%、⑤が40.2%でした。子どもの多くが⑤が最も大事と考えていました。授業に参加した大人たちにも同様のアンケートを取ったところ、②が12.5%、③が12.5%、⑤が75%という結果となりました。このように、子どもも大人も、「⑤外国人が日本語を話せなくても困らないようにする」が最も大事という結果になりました。
提案を受けて、吉野さんと広島大学の金鍾成准教授にコメントをもらいました。2名とも子どもたちの提案に驚いたり称賛したりしつつ、アドバイスをしてくれました。吉野さんは、「やさしい日本語と外国人市民が学んでいる日本語、2つの力があればいい」「それでも足りないところはAIや通訳を頼って話ができたらいい」と述べました。金鍾成准教授は、「外国人市民をかわいそうな人、助けてあげないといけない人と考えていないか」と指摘し、「外国人市民を一緒にまちをつくっていく人として考えることで、東広島市はもっとよいまちになる」と提案しました。最後に草原和博教授が、「みんなの声を市長に届けるだけでなく、行動を起こしていきましょう」とまとめました。
外国人市民はかわいそうな人ではない!
みんなで手を振ってお別れ!
外国人市民の声を聞く、外国人市民政策を構想する、という学習を通して、子どもたちは多様な市民が共生する地域づくり・社会づくりに参加することができました。今回の授業では、子どもと教師に加えて、外国人ゲストや市長、議員をはじめとする多様な人々が授業に参加し、必ずしも意見が一致しない公共の課題をめぐって対話することができました。その結果、遠隔地を結ぶデジタル学習空間上に公共圏を生み出すことができました。コミュニティの課題を取り上げ、コミュニティを再デザインする場を提供する。ここに広域交流型オンライン学習の魅力があります。引き続きNICEプロジェクトでは、デジタル公共圏をつくりだす授業を提案してまいります。
広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室