• ホームHome
  • 教育学部
  • 【開催報告】【2026.02.04】定例オンラインセミナー講演会No.192「若者の政治参加と学校教育—日本とイングランドの知見から考える—」を開催しました

【開催報告】【2026.02.04】定例オンラインセミナー講演会No.192「若者の政治参加と学校教育—日本とイングランドの知見から考える—」を開催しました

広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2026年2月4日(水)に、定例オンラインセミナー講演会No.192「若者の政治参加と学校教育―日本とイングランドの知見から考える―」を開催しました。大学院生や研究者を中心に36名の皆様にご参加いただきました。 
はじめに、北山夕華氏(大阪大学)より、本セミナーの趣旨が説明されました。本セミナーでは、日本とイングランドにおける市民性教育および学校経験に関する実証研究を手がかりに、現在、日本もイングランドも若者の政治参加についての関心に対しての学校教育の役割が問い直されていることを共有したうえで、学校教育が若者の政治参加にどのように関与しているのか、またその効果が社会的にどのように分配されているのかを比較の視点から検討するという趣旨が確認されました。

セミナーについて説明する間瀬教授

そのうえで、川口広美准教授(広島大学)・小栗優貴氏(京都教育大学) より、日本研究の背景と目的、理論的枠組みとサンプルについて説明がなされました。本研究は学校における市民性形成の仕組みと文脈に応じた改革の方法論を提案するものであること。今回はとりわけ、学校教育と社会参加の関連性についてのものであり、1500名強の高校生を対象とした量的調査の結果であることが示されました。

講演する川口准教授

講演する小栗氏

日本側の第1発表として, 太田昌志氏(追手門学院大学)より, 「学校効力感と政治的効力感」と題した発表がなされました。開かれた授業風土(open classroom climate)が学校効力感(=自分の意見が学校で大事にされ、影響を与えているという感覚)を一貫して高める一方で、その学校効力感が政治的効力感(=自分の意見が政治・社会に与えられるという感覚)や社会参加へと結びつく過程は学校によって大きく異なることが示されました。このことから、民主的な学校環境が自動的に政治参加を促すわけではなく、そこには複雑な媒介要因が存在する可能性が示唆されました。

講演する太田氏

日本側の第2発表として、大脇和志氏(宇都宮大学)より、「どの種類の市民性教育が若者の政治参加を促進・抑制するか」と題した発表がなされました。政治参加を「積極的参加」と「穏健な参加」という複数の類型に分けて分析した結果が報告されました。そのなかで、実際の政治的争点や時事的課題を授業に取り入れる「政治化された学習(politicizing)」が、より積極的な政治参加を促す傾向にあることが示されました。一方で、知識中心の市民性教育は、比較的穏健な参加形態と結びつきやすいことも指摘されました。

講演する大脇氏

次にイギリス(イングランド)側からは、Jan Germen Janmaat氏(UCL Institute of Education)より、「CELSからの示唆:学校経験・不平等・若者の社会参加」と題した講演がなされました。シティズンシップ教育と若者の政治参加を長期的に追跡した Citizenship Education Longitudinal Study(CELS) に関連した研究成果が紹介されました。CELSは、11歳から23歳までの若者を対象とした縦断研究であり、シティズンシップ教育が政治意識や参加に及ぼす影響を捉えたものです。Janmaat氏は、イングランドにおける市民性教育の制度的変遷に触れつつ、特に政治参加における社会的不平等を重要な論点として提示しました。親の学歴や文化資本の違いによって、若者の政治関心や投票意向の格差が思春期初期に拡大し、その後も維持される傾向が示されました。また、討論や意思決定への参加といった参加型学習は政治参加を促進する可能性をもつ一方で、それが任意参加である場合には、社会的に恵まれた層の生徒に効果が偏りやすいことも指摘されました。これに対し、必修の市民性教育は、不平等を緩和する可能性をもつことが示され、教育政策および学校実践の設計の重要性が強調されました。

講演するJanmaat氏

以上の講演を受けて、ディスカッションが行われました。まず、コメンテーターの古田雄一氏(筑波大学)よりコメントがなされました。日本側の分析結果からは、学校の中で意見が尊重されていると感じられる環境があっても、それが必ずしも政治や社会への参加意識につながらない、すなわち学校の中で民主的な経験をしても、それが「政治的なもの」として意識されないまま終わる可能性や、授業内容や教育環境の違いによって、生徒が社会や政治とのつながりをどのように理解するかが変わってくる可能性などが示唆された旨が整理されました。これに対して、Janmaat氏からはイングランドでも似た傾向が見られること、特に民主的な経験が「政治」と結びつくかどうかは、家庭背景や授業の位置づけ方によって左右されやすいことなどを説明されました。太田氏からも日本では「政治」という言葉自体が学校の中で慎重に扱われがちであり、そのことが経験の意味づけに影響している可能性があること、今後はその点を質的にも検討していきたいという話がありました。これについて、北山氏からは、「政治的」であることのネガティブなイメージの背景として、イギリスでは「政治」にエリート主義的なニュアンスがあるのに対し、和を重んじる日本社会では「政治的」であることが輪を乱すと捉えられうることがあるのではという話にもなりました。またJanmaat氏が提起された若年層の政治参加の不平等というテーマや分析視点を受けて、日本においてもこうした不平等の実態を一層明らかにしていく必要性が共有されました。フロアからは、本調査におけるサンプリングの偏りや、イングランドのシティズンシップ教育改革の動向、若者の政治参加において家庭背景、特に親の学歴や家庭内での政治的会話、投票行動などがどの程度影響していると考えられるかといった問いが投げかけられ、活発な議論が展開されました。

最後に、セミナーのまとめとして、学校教育は若者が自分の意見をもち、他者と対話する経験を積み重ねる重要な場である一方で、そうした経験が自動的に政治参加へと結びつくわけではないことが、日英双方の実証研究から改めて確認されました。今後は、実証研究の知見を踏まえつつ、学校や生徒の文脈に応じて、市民性教育をより包摂的で意味のあるものとして設計していく必要性が強調されました。

コメントする古田氏

EVRIは今後も、国内外の研究者との対話を通じて、実証的知見にもとづいた市民性教育研究を深めるセミナーを継続的に企画してまいります。
当日の様子はこちらをご覧ください。
その他のセミナー情報はこちらをご覧ください。

【問い合わせ先】

広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

E-Mail:evri-info(AT)hiroshima-u.ac.jp
​※(AT)は@に置き換えてください


up