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広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として、「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトに取り組んでいます。
2025年10月28日(火)、韓国全北特別自治道淳昌郡福興面の福興初等学校の6年生(5名)、東山初等学校の6年生(5名)、韓国全北特別自治道淳昌郡龜林面の龜林初等学校の6年生(5名)が参加し、「人口が減っている淳昌郡、なぜだろう?どのように変えていけるだろう?」と題し、人口減少という共通課題について、どのような影響があり、これからどのように変えていくことができるのかを考えました。授業全体の進行を金鍾成准教授が、各学級の進行を現地の先生方が務めました。
昨年度に続きT1を務めた金准教授
授業を進行する学級担任の先生
授業は、「各クラスが考える淳昌郡といえば?」という問いを投げかけ、参加校それぞれの地域イメージを共有することから始まりました。子供たちからは、地元名産品の「コチュジャン」や地域のお祭り、地域の偉人である「ガイン・キムビョンロ(金炳魯)先生」、剛泉山などの意見が出ました。ここで金先生からインターネット検索から「人口減少」という言葉が出てきたことを共有しました。淳昌郡という地域は韓国の中でも人口減少が激しい地域です。1985年には6万人台だったのが、20年経つと3万人、2023年も17,000人減少しています。ここで学習課題「人口が減っている淳昌郡、なぜ人口が減るのだろう?どのように変えていくことができるのか?」が共有されました。
まずは、そもそも人口が減ることは問題であるのかについて考えることから始めました。自分自身の生活を振り返り、人口が少なくて良かったこと,悪かったことについて考えます。子供たちからは、良いこととして、騒音がなく、犯罪も少ないので安心して暮らせること、一軒家が多く住民トラブルが発生しにくいこと、補助金を得ることができるなどが上がった。悪いこととして、病院・スーパー・公共交通・娯楽施設が不足していること、宅配便が届くのに時間がかかること、友人関係を広げることが難しいことが意見として上がりました。
ここから3つの視点で人口減少の影響について考えていきました。1つ目は地方税に注目しました。地方税が減少すると自分たちの生活にどのような影響があるのかについて各学級で話し合いました。ここでは減少分を補うために1人当たりの税金が多くなること、イベントをするときに使うことのできる税金が少なくなること、道路や橋をすぐに修理できなくなることが話題になりました。
2つ目は、交通に注目しました。福興小から龜林小までバスでいくことを想定してその影響を調べました。子供たちにバスでの所要時間を予想させたところ,自家用車と同じくらいで30分ほどだと予想をしました。実際には1時間以上かかってしまうこと、加えて本数も少なく場合によってはかなり待つ時間がかかることが共有されると、子供たちは驚いていました。この事例を通して、交通の利便性が低いこと、人口が減少するとますます本数が減り、より交通が悪くなるという悪循環になってしまうことに気づきました。
3つ目は、学校の統廃合に注目しました。金先生から実際に学校への移動中にある学校が廃校になり、飲食店ができた場所を見つけたこと、ある記事では淳昌郡の別の学校で、新入生が0人だったということが報じられたことが紹介されました。そこで子供たちは自分たちの学校がなくなったらどんな影響があるかについて考えました。子供たちからは、学校がなくなると通学距離が伸びて、登校が大変になること、地域に卒業生が多く住んでいて地域住民にとっての大切な記憶がなくなってしまうことがでました。
これら3つの視点から人口減少がもたらす地域の影響について考え、自分たちの生活に大きな影響があることをつかみました。
なんで人口が減っているのだろう?問題なの?
先生も一緒に考えます!
1時間目の後半では、淳昌郡で起きている人口減少の原因について、より深く考える活動を行いました。まずは、子供たちが「なぜ人口が減っているのか」を自由に予想するところから始めました。話し合いでは、淳昌郡では自分の夢を実現できるような仕事や学びの機会が限られていること、大学や企業といった進学・就職の選択肢が都市部に集中しているため、多くの若者が都会へ移り住んでしまうことなどが挙げられました。また、子供を育てるにはお金がかかりすぎるので、子どもを産まないという選択をする家庭が増えているのではないかといった視点も出てきました。
子供たちの意見を共有した後、教師はそれらの考えを「出生率の低下」「養育・保育施設の不足」「核家族化の進行」「若者の人口流出」といった社会的な概念と関連づけながら整理していきました。こうした一連の活動を通して、子供たちは自分たちの生活に身近な問題と社会全体の課題とがつながっていることに気づきはじめ、人口減少というテーマをより多角的に理解する姿が見られました。
2時間目の最初は、「淳昌郡として人口減少にどのように向き合っているのか」を自分たちの目で確かめる活動から始めました。まず子供たちはタブレットを使って郡の公式HPにアクセスし、人口減少対策に関する情報を自分たちで調べました。班ごとに気になった政策を話し合いながら読み進める姿も見られ,自分たちの地域が抱える課題を自分ごととして考えようとする様子がうかがえました。
調べていく中で、郡民同士の出会いの機会をつくるイベントの開催や、3人目の子どもを出産した家庭に1000万ウォンを支援する制度、出産祝い金や保育園の入園補助金など、子育てを後押しする取り組みが多く挙げられました。また、就業を支援する制度や、郡の主産業である農業を支える施策、学校や図書館といった教育・文化環境の整備、さらに生活の利便性を高めるためのバスの増便など、幅広い対策が進められていることも確認されました。
これらの調査を通して、子供たちは「淳昌郡は人口減少に対して,さまざまな角度から対策を講じている」ということを実感し、今後の学習で自分たちが提案を考える際の視点を広げることができました。
市のHPから人口減少の対策を調べる
結婚や子育ての支援が多いな
後半では、「自分たちなら人口減少にどんな対策を考えるか」をテーマに,各校がアイデアを発表しました。発表に対しては、他校の先生が“淳昌郡の市民”としてコメントを行い、子供たちは普段とは違う視点から意見をもらう経験をしました。
まず、東山小は3つの案を提案しました。1つ目は仕事や住む場所の支援を増やすこと、2つ目は地域全体で物価を下げられるような仕組みを作ること、3つ目は補助金で生活をサポートすることです。これに対し福興小の先生は、雇用の少なさや物価の高さといった淳昌郡の現状に合った、とても的確な案であると評価しました。
次に、福興小は「郡の中心に大きなお店を建てる」というアイデアを出しました。淳昌郡にはコンビニやスーパーがなく、買い物のために郡外へ行かなければならない不便さを解消したい、という思いから生まれた提案です。これに対して龜林小の先生は、授業前半で話し合った“利便施設の少なさ”を踏まえた良いアイデアだと評価し、もし実際に郡が取り組むのであれば、建設時に補助金を出すことで多くの店舗が進出する可能性があるとアドバイスしました。
最後に、龜林小は3つの案を示しました。工場団地をつくって雇用をふやすこと、店舗や施設を建てる企業に補助金を出すこと、そして特産品であるでんぷんを安く提供することです。これに対して東山小の先生は、地域経済の視点から多くのアイデアを出した点を評価し、特産品を低価格で提供する案は、韓国で協同組合の存続が難しくなっている現状を踏まえても効果的な方法だとコメントしました。
他校の先生から直接意見をもらうという普段とは違う経験に、子供たちは真剣に耳を傾け、自分たちのアイデアがほめられたときには嬉しそうに笑顔を見せていました。こうした交流は、子供たちにとって大きな励みとなったようです。
大きなお店を建てよう!
建設の補助金を出してはどうだろう?
終結では、この提案をもっともっと色々な淳昌郡の人と話してほしいというメッセージを伝え、まずは学校の他学年の子供たち、ほかにも先生、家族など多くの人とこれからの淳昌郡の未来について考えてほしいと金先生の願いが共有されました。子供たちからは感想として、オンラインでつながり自分たちとは違う意見を聞くことができたこと、同じ問題について共感しながら考えることができたことなどがありました。
本実践は昨年度に引き続き、淳昌郡での実践となりました。昨年度は地域の偉人を学ぶ意義、本年度は人口減少という地域課題を取り上げ、学校を越えて議論するデジタル公共圏を形成しました。先生方の感想や子供たちの授業に取り組む様子から、デジタル・シティズンシップ・シティの理念が海外の学校にも受容され、意義や価値を見出していただけていることが確認されました。また福興小・東山小の先生は、昨年度に引き続き2回目の参加でした。東広島市での実践同様にDCC授業に複数回参加することで、より主体的に学級をファシリテートする様子が見られました。引き続き、デジタル・シティズンシップ・シティ構想を実現するための海外展開を継続的に進めてまいります。
バイバーイ!!!
福興初等学校
東山初等学校
鳩林初等学校
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掲載日 : 2026年03月24日
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