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広島大学大学院人間社会科学研究科「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」は、2026年3月5日(木)に、定例オンラインセミナー講演会No.196「日本のシティズンシップ教育の現状と課題 ードイツ政治教育研究の視点からー」を開催しました。大学院生や研究者を中心に、15名の皆様にご参加いただきました。
司会の松原信喜さん(広島大学・大学院生)より、本セミナーの趣旨が説明されたのちに 川口広美准教授(広島大学)より、日本におけるシティズンシップ教育の現状と課題についての発表が行われました。近年は投票年齢の18歳への引き下げや若者の政治的効力感の低さへの懸念などを背景として、学校教育における政治参加教育への関心が高まっていることが指摘されました。一方で、戦後日本において教育と政治を分離する傾向が強かったことや、政治的中立性をめぐる議論などが、学校における政治的議題の扱いを難しくしているという課題も提示されました。
発表を行う川口准教授
続いて、田中崚斗さん(広島大学・大学院生)による日本の社会科教師を対象とした調査結果が報告されました。全国の約1,000名の高校社会科教師を対象に行われた調査の結果、多くの教師が政治的中立性を意識しながら授業を行っていること。また、死刑制度や地球温暖化などの教科書に関するテーマについては比較的扱われやすい一方で、靖国神社など宗教・イデオロギーに関わる問題は授業で扱うことを避ける傾向が強いことが示されました。
報告を行う田中さん
そして、大城朝周さん(広島大学・大学院生)より、日本における政治教育研究の課題について、ドイツの政治教授学(Politikdidaktik)との比較を踏まえた発表がなされました。自身の研究背景や沖縄での経験を踏まえながら、教育と政治的教化(indoctrination)の違いをめぐる問題意識が提示されました。また、ドイツの政治教授学においては、社会的に対立する問題を授業で扱う「コンフリクト教授学(Konfliktdidaktik)」などの理論が発展してきたことが紹介され、日本における社会問題や科学技術を含む現代的課題をどのように授業で扱うかという視点の重要性が指摘されました。
発表を行う大城さん
さらに、今泉尚子さん(早稲田大学)より、ドイツの政治教育研究に焦点を当てた発表が行われました。ドイツの政治教育では、「中立性」ではなく「超党派性(Überparteilichkeit)」と「論争性(Kontroversität)」という概念を重視していることが説明されました。これは、社会で論争のある問題は授業でも論争的に扱うべきであるというボイテルスバッハ・コンセンサスに基づくものであり、日本のように政治的中立性を強く求める教育文化とは大きく異なる点であることが指摘されました。また、日本でドイツのモデルを参照する際には、政治的中立性の理解そのものを再検討する必要があることが示唆されました。
発表を行う今泉さん
その後、Gernot Wolfram教授(マクロメディア大学、ドイツ)より発表に対するコメントが行われました。自身の研究の動機やポジションを明示することの重要性を指摘するとともに、研究のキーワードとなる概念の定義をフロアの参加者と共有することの意義について説明がなされました。くわえて、海外で用いられた概念を使用する際に、自国との文化的な差異に注意をしながら、市民性教育に関する日独間での学術的な交流を今後も発展させていくことが重要であるとの言及がなされました。
コメントするGernot Wolfram教授
以上の講演を受けて、全体での質疑応答が行われました。フロアからは、ドイツの実際の授業ではどのような政治教育が行われているのかについての質問が出され、Wolfram教授より、ドイツの連邦政治教育センターが作成している教材や、「フェイクニュースを発信する側を体験する」などの具体的な実践事例が紹介されました。また、「超党派性」や「論議性」といった概念の根底にある「自由民主主義」の価値観が共有されづらくなっている今日的な情勢のなかで、どのように政治教育をおこなう必要があるのかについて活発な議論がなされました。
質疑を行う参加者
最後に、松原さんより、今回のセミナーを通して、ドイツの政治教育やヨーロッパ全体を通した市民性教育が抱える課題や取り組みを学べたこと、この学びを観点とした時、日本の政治教育や市民性教育における良さや改善点を認識できたこと、またその改善点を参加者全員が各々の専門分野でいかに取り組んでいけるかを考えるきっかけになったことが総括として述べられました。
本セミナーの総括を述べる松原さん
また途中、センター長の間瀬茂夫教授(広島大学)より、昨今の世界情勢を踏まえ、言葉や考えが異なる者同士が、対話やコミュニケーションを通した共生をめざすのではなく、暴力を通して自身の考えを押しつけ合っている状況の中で、政治教育・市民性教育の重要性が高まっていること、その政治教育や市民性教育を言葉の異なる私たちが対話やコミュニケーションを通して理解を深めあっていることにとても意義があるとの示唆が述べられました。
挨拶をする間瀬教授
EVRIは今後も、国内外の研究者との対話を通じて、実証的知見にもとづいた市民性教育研究を深めるセミナーを継続的に企画してまいります。
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広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI) 事務室

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