細胞分子生物学

田原 栄俊 教授

【研究キーワード】
マイクロRNA、テロメア、細胞外小胞、エクソソーム、核酸医薬、細胞老化、抗がん剤

【最近のハイライト】
・miR-22による細胞老化誘導性の核酸医薬の創出
・テロメアGテール長と大脳白質病変、血管機能との関連を報告(EBiomedicine)
http://dx.doi.org/10.1016/j.ebiom.2015.05.025
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352396415300281

研究者総覧へのリンク

【教育内容】
1.2016年、学部専門、通年、基礎研究I
2.2016年、学部専門、4ターム、生化学V
3.2016年、学部専門、セメスター(前期)、生体機能分子動態学演習
4.2016年、学部専門、2ターム、生化学VI
5.2016年、学部専門、セメスター(後期)、細胞生物学
6.2016年、学部専門、セメスター(後期)、細胞分子生物学実習
7.2016年、学部専門、通年、基礎研究II
8.2016年、学部専門、セメスター(後期)、基礎研究III
9.2016年、修士課程・博士課程前期、セメスター(前期)、細胞再生機構特論演習
10.2016年、修士課程・博士課程前期、セメスター(後期)、細胞再生機構特論演習
11.2016年、修士課程・博士課程前期、セメスター(前期)、細胞再生機構特別実習
12.2016年、修士課程・博士課程前期、セメスター(後期)、細胞再生機構特別実習
13.2016年、博士課程・博士課程後期、セメスター(前期)、細胞分子生物学特別演習
14.2016年、博士課程・博士課程後期、セメスター(後期)、細胞分子生物学特別演習
15.2016年、博士課程・博士課程後期、セメスター(前期)、細胞分子生物学特別実験
16.2016年、博士課程・博士課程後期、セメスター(後期)、細胞分子生物学特別実験

【研究内容】
当研究室では、老化を誘導するmicroRNAの細胞老化における役割とがん細胞に対する影響を解明するために研究を行っています。また、抗がん作用を持つ小分子RNAの核酸医薬品としての開発も目指しています。

(microRNA とは)
microRNA (miRNA)は、タンパク質をコードしない約22塩基の小さなRNA です。 miRNAは標的mRNAの3‘非翻訳領域に結合することで、遺伝子発現を抑制しています。この働きから、miRNAは発生や分化、細胞の増殖やアポトーシスなど様々な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たしていることが知られています。さらに、miRNAの発現異常はがんを含む様々な疾患に関与していることも報告されています。

研究内容:細胞老化を誘導するmiRNAによるがんの増殖抑制機構の解明

【がん抑制機構としての細胞老化】
近年、前がん性の腫瘍組織に老化細胞が存在することが明らかとなりました。老化細胞は腫瘍の前がん部で観察されますが、悪性腫瘍部では観察されません。このような知見から、細胞老化はがん発症の初期過程においてがん化を防ぐ働きをもつのではないかと言われています。この細胞老化のがん抑制機構としての働きはがん治療に有用ではないか、と私たちは考えました。そこで現在当研究室では、細胞老化を制御する因子としてmiRNA に注目し、miRNA経路を介したがん抑制機構の解明と治療への応用を目指しています。

(老化を誘導するmiRNAの働き)
これまでに当研究室では、乳がん細胞に老化を誘導し、増殖や転移能などを抑制するmiRNAとして、miR-22を同定しました。miR-22は、若い細胞と比較して老化細胞で発現量が増加しています。これに対し、多くのがん細胞においてmiR-22の発現量は顕著に低下しています。

さらに、miR-22を乳癌転移モデルマウスに投与することで、実際に腫瘍の増殖や転移を抑制することが示されました。miR-22は正常細胞と比較してがん細胞での発現量が顕著に低下していることから、がん細胞で発現が低下しているmiRNAを補充するという新たながん治療法を今後確立できるかもしれません。(関連論文;miR-22 represses cancer progression by inducing cellular senescence、 Dan Xu et al. J Cell Biol. 2011 Apr 18; 193(2): 409–424.)

(現在進行中の研究内容)
・老化を誘導する miRNA の網羅的解析とmiRNA による老化誘導機構のネットワーク解析
・老化誘導miRNA によるがん抑制機構の解明
・小分子 RNAを利用した核酸医薬品の開発 (企業や他研究室との共同研究)

【Biomarkerとなる血液中のmicroRNAの探索】
MicroRNAは、細胞から分泌されるエキソソームに包まれて血液中に分泌されます。正常な細胞だけでなく、癌細胞でも同様にMicroRNAが分泌され、放出されるMicroRNAの種類と量のパターンは、正常細胞と癌細胞で大きく異なることが分かっています。たとえば、miR-21は、肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、膵癌などの癌患者の血液中において、健常者よりも多く存在しています。そこで、近年、この分泌型MicroRNAが、新たなバイオマーカーとして注目されています。田原研究室では、次世代シーケンサー、マイクロアレイ、リアルタイムPCRを駆使して血液中のMicroRNAの網羅的解析を行い、様々な癌やアルツハイマーといった疾患の早期診断に利用できるバイオマーカーとしてのMicroRNAの探索を行っています。

(DSE-FRET assay)
DSE-FRET assay は田原研で開発した評価方法です。(特許番号:S2008-0245)この方法はDNAと結合するタンパク質の結合能を簡便に測ることが出来るため同じ評価方法として知られているEMSA法よりもハイスループットに適した方法です。

実際に、私たちのグループではテロメア配列に特異的に結合し染色体の保護に重要なTRF2と、がんの悪性化に関わっているという報告が多いNFk-Bの阻害剤を探索するためにこの方法を用いています。

理化学研究所や産業技術総合研究所の化合物ライブラリー約3万化合物を用いてDSE-FRET assay を行うことで、有力な阻害化合物を見つけ出す事に成功しています。

またこの方法はDNAと結合するタンパク質であれば応用が可能なため、がんの悪性化やその他の疾患に関わるDNA結合タンパク質を阻害する化合物の探索を行うためのツールとして、非常に有用な方法として注目されています。(2015年度バイオビジネスアワードJAPAN 彩都賞  受賞)


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