商工組合中央金庫というより商工中金の名が一般的だろう。2025年に完全民営化となったが、元々は政府や中小企業団体が出資する中小企業専門の政府系金融機関である。一般の銀行と変わらない幅広い金融サービスを提供している一方で、株式会社商工中央金庫法に基づく公的な使命も担っている、その意味では特別な銀行といえる。
そこで2025年6月から取締役常務執行役員として、全都道府県に置かれている営業拠点を統括する重責をになっているのが、中塩浩幸さん(経済学部1989年卒)である。
2026年6月25日
中塩 浩幸(ナカシオ ヒロユキ)氏
1989年 経済学部卒業
株式会社商工組合中央金庫 取締役常務執行役員
商工組合中央金庫というより商工中金の名が一般的だろう。2025年に完全民営化となったが、元々は政府や中小企業団体が出資する中小企業専門の政府系金融機関である。一般の銀行と変わらない幅広い金融サービスを提供している一方で、株式会社商工中央金庫法に基づく公的な使命も担っている、その意味では特別な銀行といえる。
そこで2025年6月から取締役常務執行役員として、全都道府県に置かれている営業拠点を統括する重責をになっているのが、中塩浩幸さん(経済学部1989年卒)である。
-ご出身はどちらですか。
中塩:経済学部に1985年に入学、1989年に卒業しました。広島出身で、安芸府中高校の2期生でした。周りものんびりした雰囲気でしたので、受験が大変だという認識を持たずに過ごしており、気づいたら浪人生活に突入していました。
当時はバブルで就職は売り手市場でしたので、就職はあまり意識していませんでした。経済学部を選んだ理由は、社会に出る時に潰しが利きそうな学部、ということぐらいしか考えてなかったですね。
-どんな学生生活でしたか?
中塩:仲間と連れ回って遊んでいましたね(笑)。
デザイナーズブランドのはしりの頃でしたので、学生もおしゃれにお金を使うとか、ディスコに行くとか、ちょっと大人みたいな遊び方を取り入れていましたね。一緒に遊んでいた仲間たちには、そういうファッションや遊びにハマっている人がいっぱいました。その意味では勉強を一生懸命、熱心にしたというよりは、むしろ社会勉強をさせてもらったと思います。その時の経験があったので、ビジネスの世界にもすんなり入っていけた気がします。
私たちの頃と比べると、今の学生の人たちはすごくよく勉強していて、相当優秀だと実感しています。デジタルにも明るいので、経験さえ積めば、ビジネスマンとしてものすごく高い能力を発揮している人もいると思います。
逆に、ビジネスの世界に入るところでちょっと悩んでいたり、経営者との会話にスムーズに入っていけていないと感じることがあります。知識や、学ぶということはすごくできているし長けていますが、コミュニケーションや、相手の立場に立って考えること、先回りして行動することが、ちょっと不得手なのではと感じますね。
-就職された1989年は、就職超バブル期ですよね。
中塩:会社選びの選択肢はたくさんありましたが、この会社には大学時代の先輩から、組織や仕事の中身を実体験として教えていただく機会をいただき、入社を決めました。
当時は金融業界が人気でした。なかでも商工中金は中小企業金融を専門でやっていて、メガバンクとは違って若いうちにいろいろ任せてもらえるという点に、魅力を感じました。メガバンクや地方銀行だと、お客様はサラリーマンですが、商工中金のお客様は経営者や会社を動かしている人です。自分がその組織を代表して営業活動や提案を行ったり、お客様のニーズに応えることが、直接自分の成果となるところが、他の銀行との違いだと考えました。
加えて、広島にとどまっていると自分の成長に限界があるのじゃないかなという思いがありましたので、全国転勤できる仕事が念頭にありました。
-日本全国いろんなところで働いてみたいと。
中塩:商工中金は全都道府県、全国に86店舗の支店があります。私自身は現在営業全般に携わっていますので、いろんなお店に行って、いろんなお客さんに会うこともできます。そういう姿を自分自身も期待していて、ある程度かなっているのかなと思います。
これまで広島以外に鹿児島県と宮城県、それから茨城県を経験しており、4割は地方で仕事をしてきました。それぞれの土地柄の文化や歴史の違いからくる、人の気質の違いがあることを知りました。
例えば東北だと、皆さんすごく真面目というか実直な方が多くて、口数は少ないけど腹にはしっかり自分自身を持っていて、かつ慎重なので、営業するのは割と苦労しました。何度も何度も足で通って信頼関係を作って、ようやく信用してもらって物事が進みます。ただ、一度関係ができると、割としっかりとやっていけましたね。
一方鹿児島は開放的で、言いたいことをおっしゃって、お叱りもたくさん受けるんですけど、商売をしやすい環境でした。
-他の金融機関と御社の違いはどういうところでしょうか。
中塩:商工中金は、設立当初からずっと中小企業だけがお客様ですので、長年、中小企業の経営者の皆さんと対話しながら、仕事を続けてきているということです。
景気には波がありますので、景気が後退すると貸し渋りが起きるケースもありますが、商工中金は中小企業それぞれをしっかり理解しているので、貸し渋りはしません。長期的な目線で取引していますので、どうすればお客さんの状態が良くなるのか、お客さんがどういう努力をするのかをきちんとお聞きして、納得した上でご融資します。
金融の世界でも「セーフティネット」という言い方をしますが、商工中金に対する世間の要請もそこにあると思います。その強みや良さは絶対なくしちゃいけない。
まずは中小企業の方々が持っていない情報をきちんと提供する。事業を広げていく上で県外に進出したり、県外の企業を買収するということもあります。全国に支店網があるから、それぞれの地域で域内域外の取引を仲立ちする、あるいは商圏を広げていくお手伝いをすることができるわけです。そのような点で、強みを十分発揮することができます。
我々は長期的な戦略の中で「中小企業経済圏を広げていきましょう」ということを打ち出しています。いきなり一つの大きな経済圏を作るのではなくて、まずは地域の中小企業の皆さんと関係する経済圏がたくさんあって、最後はそういうものがうまく繋がっていけばいいなという発想です。
-商工中金から地元の企業に入ることも多いと聞きます。地域に人材を供給する役割もあるのでしょうか。
中塩:そうですね、中小企業の場合は経営人材が十分に揃わないことがありますので、社長の片腕みたいな人たちのニーズがあって、地元の企業に請われて転職されるケースは昔から多いです。
私も、最後は地元に戻って働きたいという思いがありますが、地元に帰って地元の中小企業で活躍して、地元に貢献するという形で、最後は社会人人生を成し遂げられる、つまり、入り口から出口まで中小企業を支えることができるのです。
ただ、新卒入社は6割から7割近くが首都圏ないし関西の大学出身者で、近年その割合がどんどん高くなっていっています。私としては、地方出身の方々にビジネス世界で全国を飛び回ってもらって、人間としての成長の機会を自分自身で勝ち取ってもらいたいし、そこで成長してもらいたいと思っています。
-役員になられたことは、どのように評価されたとお考えですか。
中塩:自分自身の能力が高いとは全く思っていなくて、周りの人たちや一緒に仕事をしていただいた人たちのおかげで今があると思いますね。運が良いということと、巡り合わせだと思っています。仕事を通じて直接お客さんのお役に立つということが、最終的には自分の満足度向上につながっています。
商工中金に誘ってくれた先輩、出来の悪い私をサポートいただいた上司、私を引き立てくれた同僚、私と一緒に成果を出してくれた部下があってこそです。
商工中金はあまり学閥にこだわっていないという要素もあるかもしれません。
-今はどういうお仕事をされていますか。
中塩:86箇所ある営業店全般の運営を任されています。各営業店には支店長がいますので、全体の業績を管理したり、それぞれのお店が困っているところを解決したり、あとは全体として、お客様との関係性を今の立場で作っていくとかですね。
各支店長には、のびのび動いてもらう環境をどう作るかが大事だと思っています。あまり箸の上げ下げまで言ってもいけないし、細かいことにこだわってもいけない。まずは大きな方向感を共有した上で、思い切って仕事をしてもらおうということから始まるんじゃないかなと思います。
弊社も、かつてノルマ主義で失敗したことがありました。そこから組織を立て直し、コンプライアンス最優先、お客様のニーズ第一主義で仕事をしていくという軸を、組織として共有した上で、結果はその後ついてくる、という考え方でやっています。
一方で業績も大事ですので、そのさじ加減をどうするかはすごく難しい課題です。営業店に自分たちで目標を置いてもらうのですが、それが高い目標じゃないといけないので、どうしたら高い目標を立ててもらえるのか、本部としてどうサポートするのかを、常に考えながら進んでいます。
-先ほど運とおっしゃいましたが、運は引き寄せるものだと思います。心の持ち方や、人との接し方で気を付けられていることはありますか。
中塩:何でも素直に正直にやるとか、物事から逃げないとか、ちょっと嫌な仕事でも幅広く拾ってくるとかですね。それから困難な局面って誰しもあると思うんですけど、そこは歯を食いしばって、めげずに、弱音を吐かずにやってきたというところがあるかなと。自分の能力を超えた仕事が降ってくることもありますが、それでもなんとかしがみついて頑張るということです。
これからもどんどんマネジメントのレベルが上がってくる中で、より謙虚さを強く持っていかないといけないと思っています。
-仕事で失敗したことはありますか。
中塩:自分自身が自覚してない失敗もいっぱいあるんじゃないかと思います(笑)。
早いうちから経営者と対話する機会に恵まれていましたので、例えば融資の相談を頂戴して、自分自身が、組織の中で一義的に企業の評価や融資の判断をして起案するわけです。自分としては、先方のご期待に沿いたいということで、「ぜひ融資させてください」と約束したのに、結果として上からはねられたということがありました。運送会社の社長でしたが、支店にベンツを横付けされて、えらく怒られましたね(笑)。
-今の広大生には、どんな学生生活を送ってほしいと思われますか。
中塩:大学のネットワークから離れたところでのコミュニケーションを、積極的に取りに行ってもらいたいです。勉強の延長線上でもいいですし、仕事の経験とか社会の経験をするということでいうと、アルバイトの世界もいいかもしれません。
勉強をしっかりやればやるほど、大学の中でのネットワークになりますが、そこでも他の大学と接点を持ったり、一緒に勉強する企業と研究開発することがあるかもしれません。
そうやって若いうちはできるだけウイングを広げてほしいと常に思っています。
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