支援を受けた学生のご紹介

Vol.12 「価値観が変わった半年間の留学」

名前:青木 美緒

所属:総合科学部国際共創学科 3年

大谷 美奈子様 冠事業基金によるご支援により、広島大学短期交換留学(HUSA)プログラムへ参加。
ユヴァスキュラ大学(フィンランド)へ1月~5月留学。

留学先の大学について

派遣先の大学はユヴァスキュラ大学です。フィンランドの中央に位置するユヴァスキュラという街に位置し、約1万4千人の学生と約2600人のスタッフが在籍する大学です。ユヴァスキュラ大学は、世界の大学の中で上位3パーセントに位置し、教育、スポーツ、健康科学などの分野で世界最高峰の大学として知られています。大学が掲げるビジョンは、「学習、ウェルビーイング、基礎的自然現象の研究においてグローバルリーダーとなり、持続可能な社会を構築するための能力を育成していくこと」です。ユヴァスキュラ大学のキャンパスは、街の中心部、湖畔に位置しており、きれいで穏やかな環境で学生達は学んでいます。セミナリンマキ・キャンパスは、19世紀後半から現代までの建築物が並び、国にとって重要な建築文化環境として保護されています。また、「セミナリンマキ・キャンパス」と「教育の平等性」の二つの点が高い評価を受け、フィンランドで初めて欧州遺産ラベルを受賞しました。欧州遺産ラベルとは、EU圏内にある、ヨーロッパの歴史、文化、統合の面で重要な役割を果たした遺跡に与えられるものです。

大学が位置するユヴァスキュラ地方は、フィンランドの中央の少し下に位置し、首都ヘルシンキからは約270km、フィンランドの長距離電車VRで約3時間半の場所にあります。ユヴァスキュラ地方は、フィンランドで最も美しい湖水地方に位置し、ヨーロッパで最も広い連続した湖水地方の一部となっています。ユヴァスキュラ地方には3,700を超える湖があり、その中でも最大の湖はフィンランドで最も長い湖、パイヤンネ湖です。

この地域の湖は、美しい景色だけでなく、クルーズ、カヌー、カヤック、スイミングなど、さまざまなアクティビティを楽しむことができます。ユヴァスキュラ地方には、レイヴォンマキ国立公園、南コンネヴェシ国立公園、ピュハ=ハッキ国立公園、サラマヤルヴィ国立公園の4つの国立公園もあります。ユヴァスキュラの街の建造物には建築家のアルヴァ・アールトが深く関わっています。ユヴァスキュラとその周辺地域には、アールトが設計した29の重要な複合建築物が存在しています。私が留学したユヴァスキュラ大学にも彼の作品が残っており、自然の面も文化的な観点からも豊かな街だと言えます。

学ぶ環境が整っているのですね。受講した授業について教えてください。

私は言語とコミュニケーションの学部に所属し、コミュニケーションの授業を中心に4つの授業を受講しました。
1つ目の「Introduction to Intercultural Communication」では、アイデンティティとステレオタイプ、移住と適応、異文化間コミュニケーション能力などのテーマを批判的な視点から扱います。学生はテーマに対する講義を受けた後、指導教員から与えられた論文を読み、自分なりに解釈をします。さらに与えられた課題を基に、多国籍な学生から構成される少人数のグループで議論し、自身の考えを深めます。最も興味深いと感じたステレオタイプの授業では、参加学生がそれぞれの国のステレオタイプについて議論しました。その国のステレオタイプを理解しておけば、その国の人とのファーストコンタクトをより良いものにでき、コミュニケーションに役立ちます。

 ※ステレオタイプ: 多くの人に浸透している固定観念や思い込みのこと

2つ目の授業「Survival Finnish」では基礎的な文章を英語で学びます。グループ、ペア、または個人で様々な演習を行い、フィンランド語を学びます。このコースでは、主にリスニングと読解の練習、そして日常的な場面でフィンランド語を使うことに重点を置いています。自己紹介などの基本的な文章やフィンランドの文化はこの授業で学びました。

3つ目の授業は「Communication in Multicultural Workplace」です。グループワークがメインとなるこの授業では、文化的アイデンティティ・価値観・先入観について、そしてそれらが多文化・多言語の職場におけるコミュニケーションに与える影響について学びました。この授業の最終課題では、自分たちのグループで考えたアクティビティを、他の参加学生が実際に行うというものでした。私たちは、自分の国と他のメンバーの国の文化の共通点、相違点を挙げ、それを踏まえて多文化な環境で働くには何が必要かを考え、発表するという内容を提案しました。指導教員からは、自身と相手の国の文化の特性をよく知ることができ、多文化な環境を受け入れやすくなる提案内容だったと、高い評価を頂いたことがとても印象に残っています。

4つ目の授業「Each One Teach One」は、パートナーの学生と母語を教え合うという授業でした。留学期間中の半年間で、40時間以上の時間を使うことが課される中で、台湾人のパートナーと、日時やテーマを決め、母語を教え合いました。

この授業での目標は、自分の経験を彼女の母語で語れることと、彼女の国の文化を学ぶことでした。しかし、全く知らない言語を英語で学ぶと、言葉の持つニュアンスを理解し難いという課題がありました。そこで、ドラマなど視覚的な情報を得られる題材を使うことを提案し、文章や単語の理解を深めることができました。その後も言語だけではなく、文化をよく知るために料理会を開くなど、授業に工夫をし続けた結果、大学の授業で2年間かけて行われる内容を半年で学ぶことができ、目標を達成することができました。

フィンランドでの生活はいかがでしたか

実は、1月に大学での寮生活に入る前に、自費で2週間前からフィンランド入りし、ヘルシンキで生活をしていました。特に何をするということではなく、普段のフィンランドの生活を体験したいという思いから行動しました。

大学での寮生活では、ギリシャ人、ドイツ人、フランス人の友達と多くの時間を過ごしました。私が留学したのは冬期だったので、他の留学生と一緒にスキーホリデイに出かけたり、ハスキーぞりを体験したり、凍った湖でスケートをしたり、サウナからの寒中水泳など様々なフィンランドの文化を体験することができました。留学中の2月には、ロシアのウクライナ侵攻がありましたが、ロシアと国境を接するフィンランドでは物価が上がったり、学生のデモを目にしました。生活は安全で、留学に支障はなかったものの、日本では侵攻が始まるとは思われていなかった時期に、フィンランドでは侵攻が始まる前提の話があるなど、ロシアとの近さを感じました。

留学が終わった5月にはすぐには帰国せず、1ヵ月かけて留学で知り合った友達の国を巡りました。留学とはまた異なる学びを得ることができました。

留学を振り返っていかがですか。

留学してみて、将来はグローバルな環境で仕事ができる場所で働きたいと考えるようになりました。例えば、海外と取引を行っているBtoB (ビジネス・トゥー・ビジネス) の製造業の会社などに関心を持ち、就職活動を行っています。留学で多文化共生を学術的に学びましたが、実際にその場所で働くのは全く違ったものだと思います、留学中に学んだ多文化共生を実際にどうすれば実行に移すことができるのかについて、多文化な職場で働きながら模索し、様々な文化の架け橋となりたいと考えます。

 

(2022年10月取材/基金室)


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