vol37「未知の生命現象に挑み、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の解明へ」
名前: 丹土 瑞貴
所属: 大学院統合生命科学研究科 博士課程後期3年
卓越大学院 ゲノム編集先端人材育成プログラム
広島大学基金による「卓越大学院プログラム奨学金」を活用
所属されている「ゲノム編集先端人材育成プログラム」について教えてください。
私が所属する「ゲノム編集先端人材育成プログラム」は、2018年度に文部科学省の「卓越大学院プログラム」事業に採択された博士課程前期・後期を一貫した学位プログラムです。
「ゲノム編集」とは、生物が持つゲノム上の特定の塩基配列を人為的に変化させる技術で、バイオ燃料の開発や農作物の品種改良、創薬・医療分野などにおける革新的な技術として期待されています。
本プログラムでは、ゲノム編集の基礎から応用に至る知識と技術を修得することにより、ゲノム編集技術を使いこなせる人材、ゲノム編集を産業へ直結させる人材の育成を目指しています。
本プログラムを履修した理由について
私が本プログラムを履修した理由は、ゲノム編集に関する知識だけでなく、高度な実践技術も身につけられる点に魅力を感じたからです。特に、培養細胞にゲノム編集ツールを導入する実践的な演習が充実しており、自身の研究に活かせると考えました。
私の研究は、指定難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)(※1)のような疾患がどのような仕組みで発症するのかを明らかにする基礎研究です。ゲノム編集技術を活用することで、生命現象を分子レベルで詳しく解析することが可能になります。博士後期課程での学びを通じて最先端の技術と知識を修得できたことは、現在の研究の発展につながっています。
※1 手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気。ただ、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)が主に障害をうける
実際にどのような研究を行っているのかお聞かせください。
細胞内で機能する「膜タンパク質(※2)」は、生体膜に一度挿入されるとその向きは変化しないというのが従来の定説でした。しかし近年の研究により、タンパク質が自ら生体膜を乗り越えて膜への挿入向きを変化させる「トポロジー逆転」という現象が明らかとなってきました。この現象によって、膜タンパク質は逆転前とは異なる新たな機能を獲得すると考えられています。
私たちの研究チームは、ショウジョウバエにおいて、小胞体(※3)膜タンパク質が細胞膜への輸送過程で配置を逆転させ、本来細胞質側にある領域を細胞外へと露出させる現象を発見しました。現在はヒトのVAPB(※4)に着目し、この逆転現象を制御する分子メカニズムの解明を進めるとともに、疾患との関連性について詳細な解析を行っています。
VAPBは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子として知られています。VAPBにおける特異なトポロジー逆転現象の全貌を解明することは、ALSの病態生理や発症メカニズムの根本的な理解、さらには将来的な治療法開発の基盤となることが期待されます。
※2 動植物すべての細胞や細胞⼩器官の膜上で働くタンパク質の総称
※3 細胞内細胞質中にある網目状で扁平な袋状の膜構造が幾重にも折り重なったような細胞小器官。細胞内の物質輸送の機能をもつ
※4 細胞内の小胞体という細胞内小器官に存在する膜タンパク質で、小胞体と他の細胞内小器官(ミトコンドリアやゴルジ体など)を繋ぐ役割をもつ「繋ぎ止め分子」として知られている
トポロジー逆転の概要図
ショウジョウバエS2細胞の細胞膜上に
Vap33が局在する様子
細胞培養を行っている様子
培養した細胞を顕微鏡で観察する様子
研究の今後の見通しを教えてください。
現在、ショウジョウバエで解明されつつある「トポロジー逆転現象」が、ヒトにおいても同様に起こるのかを検証し、ヒトにおける制御機構の解明を進めたいと思っています。 特に、ヒトVAPBという膜タンパク質に注目し、トポロジー逆転と疾患との関連性を明らかにすることで、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症メカニズムの解明、さらには将来的な治療基盤の確立を目指しています。
将来の展望についてお聞かせください。
本プログラムでの先進的な研究活動を通じて、未知の現象に対して仮説を立て、粘り強く検証を重ねることで、論理的に考え、課題を解決していく力を身につけてきました。
来年からは民間企業に就職します。研究を通じて培った問題解決能力や高度な専門性に加え、大学院で身に着けた物事を深く考え、さまざまな角度から捉える力も活かしながら、社会が抱えるさまざまな課題の解決に挑戦したいと考えています。本プログラムで得た学びを産業界での実践へと繋げ、社会の持続的な発展に貢献してまいります。
寄付者へのお礼
本プログラムでは、奨学金に加え、博士課程後期の授業料免除や海外での研究活動に伴う旅費支援など、さまざまな経済的支援をいただきました。また、外部機関でのインターンシップを通じて、より実践的な学びを得ることもできました。
また、今年度いただいている奨学金によって経済的な負担が軽減され、これまで以上に研究に専念できる環境を得ることができました。
たくさんの方から支援していただいていることに感謝して、いただいた支援を今後の研究や自身の成長につなげていきたいと考えています。
(2026年9月取材/基金室)

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