平成25年度講演会

第1回 「酒造りと分子生物学」 (平成25年10月22日)

島 治正氏 (白牡丹酒造株式会社 代表取締役社長)

平成25年度第1回「卒業生等を通した社会交流事業」講演会

 島氏は、広島大学工学部と大学院工学研究科で発酵工学を専攻し、平成2年に博士課程前期を修了後、家業の白牡丹酒造株式会社に入社しました。白牡丹酒造株式会社は1675年創業で、地元西条だけでなく、広島県でも最古 の歴史を持つ酒造会社です。夏目漱石や棟方志功にも愛飲されています。島氏は、そのような伝統ある酒蔵で生まれ育ち、幼い頃から酒造りの現場に親しみ、広島大学や醸造試験所(現:酒類総合研究所)でお酒の研究をした後、家業に就かれました。
白牡丹や西条の酒造りの歴史をお話しいただいたあと、日本酒の製造工程についてご説明いただきました。酒造りの大事な要素として。
一、こうじ 二、もと 三、造り 
と昔から云われているそうです。特に麹の出来、不出来が酒質を大きく左右するようです。麹造りの後、酒母仕込み、醪仕込みなど様々な工程を経て製品化されます。受け継がれた伝統や、経験をもとにした様々な工夫でよりおいしいお酒が造りあげられていくようです。

 最後に学生に向けて、アセトアルデヒドの研究など分子生物学を応用して、お酒に対する悪いイメージを払拭してアルコールのいい面を発見してほしい、と締めくくられました。
 講演後の質疑応答の中で、広島大学で学んだことがどのように役に立ったか?という質問には、「考え方の基本は研究室で培われた。学んだことは直接役に立ってはいないが、問題解決の方法などを身につけた」と回答されました。

第2回 「さらに拡大する半導体産業と課題」

中屋雅夫氏 (株式会社半導体理工学研究センター代表取締役社長兼CEO)

第2回講演会

 中屋氏は早稲田大学大学院を修了されてから、三菱電機株式会社、株式会社ルネサステクノロジを経て、2011年に株式会社半導体理工学研究センター(STARC)の代表取締役社長兼CEOに就任されました。
 講演では、「世界半導体産業の持続的発展と2000年代における日本半導体産業の不振―今後、日本半導体の進む方向は何処か―」というテーマで、日本の半導体産業の 問題点などについてお話しいただきました。今後の発展のためには「設計力」「コスト競争力」「情報力」の強化が必要で、「設計力強化」のためには「課題解 決型」人材だけではなく、「課題設定型」人材の育成が重要だということです。そして、適切な課題設定のためには、社会が求めていることを熟知する(マーケ ティング力)、日本以外にも目を向ける(グローバル化)、競合他社に勝る「何か」を明確に持つ(競争力)、課題が達成可能かどうかについて見通す力が必要 であるとのことです。これからの半導体産業を担うであろう学生たちに向けて、世の中の動き、社会が何を求めているかを知り、考えることが大切であるとの メッセージを残されました。

 さらに、日本の半導体産業が失敗したのは社会の動きを認知できなかったことに 起因するため、もっと新聞などを読んで社会に関心を持ってほしい、成功談だけでなく失敗から学ぶことも大切と強調されました。そして最後に、「何故?」と いう心を持ってほしい、と締めくくられました。

第3回「波乱万丈なGlobalエンジニアの会社生活(The eventful global engineer corporate life)」

井原久典氏 (Samsung Electronics Co. Ltd, (韓国) System LSI Division Senior Manager )

第3回講演会

井原氏は、広島大学工学研究科材料工学専攻の結晶物理学研究室(現在の量子半導体工学研究室)で主にアモルファスシリコンの研究をされていました。1986年に博士課程前期を修了後、株式会社東芝に入社され、以後一貫してイメージセンサーの研究をされています。

東芝でのCMOSイメージセンサーの研究成果は、現在のCMOSイメージセンサーがCCDを超える市場を獲得する契機となりました。東芝では、ハイビジョンカメラの開発に携わり、1991年にエミー賞(技術分野賞)の受賞に貢献し、その後、CMOSイメージセンサーの研究に移り、半導体業界のオリンピックといわれるISSCC98でも発表されたそうです。

その後も埋め込みフォトダイオードの開発など、東芝での数々のご活躍ののち、優れた技術者にだけ与えられるO-1ビザを取得してアメリカに渡り、シリコンバレーの中心地サンノゼにあるOMUNIVISION TECHNOLOGIES でCMOSイメージセンサーの研究を続け、現在は韓国のサムスン電子でご活躍中です。

アメリカではいろいろなご苦労を経験され、まさに波乱万丈なGlobalエンジニアです。講演の中でおっしゃった、「新しいことに挑むとき、『できない』と思うと誰もできない、『できる』と思うと『できる』=最初に『できる』と思うことが大切」、という言葉が印象的でした。

第4回 「研究職のススメ」

高井良太氏 (高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設 助教)

第4回講演会

 高井氏は、本研究科のビーム物理学研究室を2007年3月に修了され、現在勤務されている高エネルギー加速器研究機構加速器研究施設の博士研究員を経て、助教の職に就かれています。
 講演では、ご自身の経験をもとに、研究職に就くための就職活動から、研究者としての日常まで、分かりやすくお話しいただきました。

 研究職を目指す上で必要なこととしては、
 「覚悟(すべては自己責任)」、「積極性(応募できそうな公募にはすべて出す)」、「プレゼン能力(難しいことを誤解なく平易に伝える)」
、「作文能力(英語の前にまずまともな日本語を)」、「協調性(一緒に仕事がしたいと思われるかどうか)」、「運・タイミング」、「楽観主義・図太さ」

という7点を挙げられ、非常に厳しい博士の就職状況が続いている中で安易に勧め ることはできないが、一度決めたら強い信念とある程度の楽観主義を持って堂々と進んでほしいとアドバイスをいただきました。また、不合格だった博士研究員 採用面接で行ったプレゼンテーションが現在の常勤の研究職ポストへ導いてくれた経験等も踏まえ、積極性を持って、自分をアピールしていくことが大切と述べ られました。

 最後に、研究職の魅力について、1年うち362日はうまくいかないことだらけ だが、残りの3日にそれを帳消しにするほどの瞬間があること、世界中に知り合いができること、凡人でも後世に名を残せるチャンスを秘めていること等を語ら れ、1度しかない人生なので後悔しないように、ぜひチャレンジしてほしいと締めくくられました。

第5回 「求む!博士号を持った空飛ぶエンジニア」

東山隆信氏 (株式会社林原 糖質事業推進室 チームリーダー)

第5回講演会

 東山氏は、平成8年に広島大学大学院工学研究科工業化学専攻博士課程後期を修了され、株式会社林原生物化学研究所に入社しました。研究所勤務の後、国際開発 部門に配属され、米国での駐在を経て、現在も年の1/3以上海外に滞在するなど、主に海外を飛び回っていらっしゃいます。

 株式会社林原は、糖質などの食品原料、医薬品原料、化粧品原料などの開発・製造・販売を行っています。中でも主力商品「トレハロース」は身近な食品や化粧品の原料として幅広く使われています。海外への販売拡大にあたっては、現地スタッフのト レーニングを始め、展示会や顧客訪問などエンジニアのサポートが不可欠で、実際に現地に赴く機会が多く、特に博士号を持ったエンジニアの活躍の場は多いそ うです。

 東山氏は、そういった「空飛ぶエンジニア」になるために、次の5つの心構えを挙げられました。
1.学生時代に研究に打ち込んでみよう→博士号はグローバルスタンダードです
2.ずうずうしくなろう
3.常にユーモアを持とう
4.プレゼンは美しく
5.日本人としての誇りを持とう!(日本の技術はすばらしい)


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