平成26年度講演会

第1回 「システムLSI ~基礎技術からビジネスまで~」(平成26年10月16日)

蕪尾  英之氏 (パナソニック株式会社システムLSI事業部 第一事業ディビジョン マーケティンググループ 商品企画チームリーダ)

平成26年度第1回「卒業生等を通した社会交流事業」講演会

 蕪尾氏は、熊本大学大学院工学研究科情報工学専攻を修了後、松下電器産業株式会社 (現:パナソニック株式会社)に入社され、システムLSI の研究・開発に従事されたのち、2年前からマーケティング部門で活躍されています。また、平成19年からVLSI回路シンポジウムのプログラム委員をさ れ、今期はシンポジウム委員長としてご活躍中です。 
 システムLSIとは、一般に基板上に個別部品で組まれていたセットシステムそのものを ひとつのシリコン基板上に実現したLSIと定義されているものを、機能/テクノロジ/ビジネス視点から再定義することから始められました。半導体の微細化 技術の進展に伴う集積度の向上により実現できるようになったシステムLSIですが、技術視点から商品ごとにどんな設計が必要か、どんなしくみなのかをAV 機器用のSoC(システムオンチップ)を事例として具体的に紹介していただきました。
 システムLSI全体は半導体市場のおよそ4分の1を占める販売規模の製品である一方、 専用用途化によってLSI一種類あたりの販売規模が小さくなるという問題を、プラットフォーム化により技術集積と開発容易性を上げ、更にシリーズ展開することにより克服してきました。今後の課題として、規模の大きいセットマーケットの新たな開拓や顧客が使いやすいソリューション/形態での提供による販売機会 の拡大などが挙げられました。将来の日本半導体業界のためにも、技術を継承、発展させ、商品の見せ方/見え方を変えながらマーケットを広げることがシステムLSI事業として重要である、と締めくくられました。

第2回 「研究者を目指す人へ:大学における物性研究の現場から」(平成26年10月17日)

青木 勇二氏 (首都大学東京大学院理工学研究科 物理学専攻 教授)

平成26年度第2回「卒業生等を通した社会交流事業」講演会

 青木氏は、広島大学理学部物理学科にて素粒子論を学び、その後低温物理学研究室にて、当時発見間もない酸化物超伝導体や強相関電子系物質の研究を開始しました。大学院博士課程後期では,主にf電子系物質の研究をされました。大学院博士課程後期修了前に、東京都立大学(現:首都大学東京)の助手に採用され、1年間のスイス留学を経て、現在は首都大学東京の教授として、固体物質における新しい物性の追及をされています。
 自己紹介の後は、研究者になるためのステップについて、広島大学やスイス連邦工科大学での思い出を交えながらお話しいただきました。
  初級:「守破離」の「守」 
     指導教員や先輩に教わりながら研究する。研究を楽しむ。
     (トラブルまでも楽しんだ)
  中級:「守破離」の「破」
     壁を破る。先輩ができなかったことを、自分が初めて成し遂げる。
     例えば装置を立ち上げることなど。
  上級:「守破離」の「離」
     外に出る。学位を取って職業人へ。
  最後に、まとめとして次のようにお話されました
    ・心に余裕を(研究を楽しむ)
    ・自分のOutput(質と量)をどうやってmaximizeするか?
    ・Globalに異文化交流
 そして、人と人とのつながりが大切で、所属する研究室がスタートポイントであり、自分の研究のベクトルを確認、修正すること、と締めくくられました。

第3回 「TAKE OFF! & FLY HIGH!」(平成26年11月1日)

松野 智吏氏 (エヌピーディー・ジャパン株式会社 代表取締役社長)

平成26年度第3回「卒業生等を通した社会交流事業」講演会

 松野氏は,1979年広島大学工学部電子工学科を卒業後,松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)に入社し,同社の技術駐在員(アメリカ)を経てCompaq Computerに入社,その後RBYSM L.L.C.を創業し,現在はエヌピーディー・ジャパン株式会社代表取締役社長として活躍中です。 1983年に駐在員として渡米し,次に何が起きるか分からない状況において事前に手を打つこと等を身に付け,苦労を成長への修行の場としたというお話をされました。
  また,「深刻になるな,真剣になれ」「過去にどれだけ貢献したかでなく,これからどれだけ役に立つかがビジネス上の価値となる」「変化に対応しなければ会 社がつぶれる」「社長は役割分担の一つであり,自他ともに適任者だと認める人がなる」「毎日は小さな岐路の連続で,決断の積み重ねであること,現状維持も 勇気ある決断の結果であるべき」「問題解決とは,現実とあるべき姿の乖離を因数分解し,優先順位を付けてそれを埋めていくこと」等,経験に基づいた貴重な メッセージをいただきました。
 そして,人生を変えた英語との出会いについて,8歳の時に英会話集をもらったことをはじめとして,14歳で外国人旅行者との会話を通じて話すこと・聴くことの重要性を実感し,大学生の時に泊まり込みの英語学校で学ぶことで自信を付けたこと等を説明され,英語が相手に伝わったときの喜びや,英語を身に付ける方法について具体的な例を紹介いただきました。
 自身の生き方・考え方については,生きる目的は「伝え,残すこと」ではと考えるようになったということでした。自分との共通点(年齢・言語・性格…)がなければ理解しあえない。共通点の多さは「抽斗(ひきだし)」の多さ。いい影響を受け,与えるには,まず自分の「抽斗」を増やすことが大切。serendipity(発見する力)も「抽斗」の数の関数である,と説明されました。

第4回 「バイオ研究の世界 ~大学や財団法人におけるバイオ研究の現場から~」(平成26年12月5日)

平賀 和三氏 (公益財団法人 地球環境産業技術研究機構(RITE) バイオ研究グループ 副主席研究員)

平成26年度第4回「卒業生等を通した社会交流事業」講演会

 平賀氏は,広島大学大学院工学研究科にて酵母について研究され,1993年に博士課程後期修了後,京都工芸繊維大学の助手,助教を経て,2009年から 公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)にて,バイオリファイナリー技術の開発に取り組んでいらっしゃいます。
 はじめに,現在の勤務先であるRITEについて説明されました。RITEは,1990年のヒューストンサミットにおいて日本が提唱した地球再生計画を受け て,地球環境問題に対する技術の開発などを目的に設立され,地球温暖化防止技術に特化した独自性の高い研究を行っています。4つの研究グループがあり,平 賀氏はそのうちのバイオ研究グループに所属し,再生可能資源であるバイオマスを原料として,微生物の持つ優れた物質変換機能を利用してバイオ燃料やグリー ン化学品等を効率的に生産する技術を研究しています。
 バイオ研究グループの研究についてご説明の後は,大学での研究についてお話しされました。平賀氏は,大学ではペットボトルの原料 であるPETを単独で分解できる微生物と酵素を発見しました。この技術は繊維などの風合加工に応用可能とのことです。また、ゲノム解析等を通じたPET分 解の分子機構解明、PET分解に関わる酵素の機能解明、それらの立体構造解析、などの基礎研究分野における成果も期待されます。

第5回 「製薬企業における研究者の重要性について」 (平成27年1月22日)

鬼松 秀樹氏 (武田薬品工業株式会社 医薬開発本部 日本開発センター 薬事部 薬制グループ)

平成26年度第5回「卒業生等を通した社会交流事業」講演会

 鬼松氏は,2006年に広島大学大学院先端物質科学研究科分子生命機能科学専攻博士課程後期を修了し,現在は武田薬品工業株式会社医薬開発本部日本開発センター薬事部薬制グループで活躍中です。
 講演では、新薬開 発 における専門的・技術的要素について,全ての過程において科学的知見が必要であること,求められる専門性は,医学・薬学・化学・生物学・機械・電気・建築 等多岐にわたり,その素養は大学の研究で身に付けられること,また,工業化における条件設定の際は科学的根拠をもっておく(記録に残す)ことが重要である ことを話されました。

最後にまとめとして次のことをお話しいただきました。

 大学の研究と企業の研究は,本質は変わらない。

  • 一朝一夕には結果は出ないため,心身の健康維持に努めて着実に研究を行う。
  • 周りの人と協同し,自分を認めてもらう。
  • 期限内に目標達成できるように計画と仮説を立てて行う。
  • 技術は科学に立脚している。

 学生へのメッセージ

  • 現在の研究テーマに真剣に取り組むことが大事(自分自身を知る,又は語るうえで,何をなしたかが重要)。
  • 博士号(自分で考え,試行し,期日内に成果を挙げた経験,専門性)は必ず評価される。

大学及び指導者への要望

  • 意欲的な研究者を早く育成する環境と,学生の模範となれる研究者や指導者の存在が必要。


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