生理機能情報科学

【研究キーワード】
骨格筋を中心とする運動器の可塑的変化の制御機構について研究をしています。
1.骨格筋肥大および萎縮の細胞内シグナル伝達系に関する研究
2.がん悪液質などの消耗性疾患に併発する骨格筋弱化誘導因子の解析と運動療法介入効果に関する研究
3.冬眠動物を対象とした骨格筋萎縮耐性獲得の分子基盤探索(冬眠動物はなぜ寝たきりならずに身体機能を維持できるのか?)
4.概日リズム遺伝子による骨格筋および運動機能の機能制御
5.フレイルやサルコペニアを予防・改善するための至適介入戦略の開発

【最近のハイライト】
1.『骨格筋タンパク質合成を制御するmTORC1の制御機構に関する研究』(Miyazaki et al. Physiological Reports. 2020 Oct;8(19):e14599, Moriya and Miyazaki. Am J Physiol -Regul Integr Comp Physiol-. 2018;314(5):R741-R751.)
骨格筋のタンパク質合成を正に制御する細胞内シグナル因子であるmTORC1の制御機構について、特にその上流因子であるAkt1の遺伝子欠損モデルを用いて解析を行いました。その結果、筋の収縮活動量増加に伴うmTORC1の活性化には、Akt1依存性・非依存性の異なる制御機構が存在すること、またAkt1には骨格筋の組織幹細胞である筋衛星細胞の増殖を制御する仕組み存在することなどを報告しました。

2.『冬眠動物の骨格筋量維持機構に関する研究』(Miyazaki et al. PLOS ONE 2022;17(1): e0263085., Miyazaki et al. PLOS ONE. 2019;14(4):e0215489.)
クマ類(ツキノワグマ)の骨格筋を対象に、冬眠動物は冬季の不活動期間中にどの程度の筋肉量を失う/維持できるのかを解析しました。解析の結果、冬眠に伴いクマ類の骨格筋は萎縮するものの、その程度はヒトの場合に比較して軽微であることがわかりました。また冬眠期に採取したクマ血清と共にヒト筋肉細胞を培養すると、筋肉細胞の総タンパク質量を増加させることを明らかにしました。冬眠動物の骨格筋には、筋肉量を効率的に維持する仕組みが存在するようです。本研究は、北海道大学 野生動物学研究室(坪田先生・下鶴先生)との共同研究です。

3.『がん悪液質の骨格筋における筋肉量・エネルギー代謝制御に関する研究』(Kitaoka Y, Miyazaki M and Kikuchi S. Physiological Reports. 2021;9:e15016.)
がん悪液質発症に伴う骨格筋量の低下およびミトコンドリア機能異常が、運動療法により改善される可能性を示した論文です。神奈川大学・北岡先生、札幌医科大学・菊池先生との共同研究で実施されました。

【教育内容】
 生理学全般に関する教育を保健学科の学部学生すべてに(看護学専攻・理学療法学専攻・作業療法学専攻)に行っています。また生理学実習を理学療法学専攻・作業療法学専攻の学生に、卒業研究を作業療法学専攻の学生に指導しています。
 大学院保健学専攻の博士課程前期・後期の学生に対しても、生理機能学の最新知見に関する講義・ジャーナルクラブなどを実施していきます。

【研究内容】
 疾患・障がいを有する方を対象に行われるリハビリテーション(PTが指示すれば運動療法、OTが指示すれば作業療法)であれ、健常者が行う健康づくり運動であれ、スポーツ競技者が行うトレーニングであれ、程度や種類の違いはあれ全て“身体運動”であり、その主体は骨格筋の収縮に伴う力の発揮により行われます。骨格筋を中心とする運動器には、「使えば使うほど強く大きくなる」「使わないと衰える」「使いすぎても不具合を起こす」という基本原則(古典的なルーの三原則)が当てはまり、この変化の仕組みを“可塑性”と言います。当研究室では、運動や加齢、不活動、栄養状態、疾患発症といった様々な変化に伴う運動器の可塑的変化の制御機構解明を目指し、ヒトや実験動物、培養細胞などを対象に、生理学・生化学・分子生物学的手法を用いた研究を行なっています。

 

【写真1】左図:分化したヒト骨格筋由来培養細胞、分化マーカーであるミオシン(筋タンパク質の一種)が赤く蛍光染色されている。右図:冬眠期クマ血清を5%濃度で培地に添加すると、活動期血清に比較して筋肉を構成するタンパク質量が増加する。(Miyazaki et al. PLOS ONE 2022;17(1): e0263085.より転載)

 

【写真2】左図:透過型電子顕微鏡による骨格筋ミトコンドリア微細構造変化。右図:形態異常を呈する骨格筋異常ミトコンドリアの割合変化。がん悪液質の発症に伴い、骨格筋における異常ミトコンドリアの割合が増加し、運動療法介入によってそれらが一部是正される。(Kitaoka et al. Physiological Reports. 2021;9:e15016.より転載)


up