システム医療学

三原 直樹 教授

【研究キーワード】
医療情報システム、放射線画像診断レポート、自然言語解析、統合文書管理、地域連携システム、統合データベース基盤(Data Warehouse)、医用画像管理システム、リアルワールドデータ利活用、医療情報システムと患者安全、人間行動、情報システム学、障がい者のための情報提供システムのあり方

【最近のハイライト】
現在、400床以上の病院では電子カルテシステムの導入率が90%を超えており、診療データの電子化はほぼ目処が立っています。しかしながら、電子化されたデータを利活用するには、システム上の課題がまだまだ多いのが現状です。現在まで病院情報システムの発展において、紙の依頼票を電子化したオーダエントリシステム、レセプト作成を中心に電子化した医事会計システムの発展、紙の記録を電子化する記録システムが進歩してきました。しかしながら、病院内に存在するデータを一元的に管理して、診療だけでなく医療安全・病院経営・地域医療連携・研究活動等に利活用するには、まだまだ開発すべき要素が数多く残っています。我々の教室としては、目的意識を持ってシステム全体の最適化・データの標準化・リアルワールドデータの利活用・国策への対応等に、これまでの経験を活かして精力的に取り組んでいます。

研究者総覧へのリンク

教育内容
 医療情報部および医療情報学分野としては、2つの観点から人材教育していく必要があると考えています。
 一つ目は病院情報システムの更新を全体最適の観点から着実に進めることの出来る人材の育成です。現在の病院情報システムは、基幹である電子カルテシステムと数多くの部門システムの集合体となっており、その基幹と部門を合わせるとそのシステム数は数十を数えることも珍しくありません。さらに、近年の医療の高度化に伴いシステムに要求される要件も高度化かつ専門領域化してきています。これらの各部門のシステムに対する高度なニーズを適切に捉え、かつ予算範囲内で実現できることを取捨選択しながら最適化していくには、それぞれの分野での最低限の知識が必要であり、システムを開発する企業との調整能力も求められます。さらに、診療の質向上、医療安全、病院経営、研究支援などに資するシステムをステークホルダーのニーズを適切に満たしつつ、構築していくための知識、経験、コミュニケーション能力が必要です。このような多種多様な能力を有する人材を、実践教育を通じて育成していきたいと考えております。
 二つ目は、診療現場で発生するデータをいかに効率よく利活用できるかを考え、実現することの出来る人材の育成です。上記の様な病院情報システムの構造上、重要なデータがそれぞれのシステムに分散管理され、横断的なデータの検索や収集がシステマティックに出来ず、用手的に各診療科や目的ごとにデータを収集しているのが現状です。診療データ(リアルワールドデータ)の利活用や各種疾患レジストリの効率的な実現においては、データの発生源である診療現場のシステム構築時に、その設計時点からいかにデータを効率よく収集して活用できるシステムとするか、綿密に構想を練る必要があります。これを実現できる人材育成が必要です。
 診療データの電子化には目処が立っている現状ではありますが、データの利活用を考えたとき、まだまだシステムに求められる要件は多く、これらを実現していくための人材育成、教育研修に注力しています。

研究内容
 今後の研究方針:
 現在、臨床研究における診療データ(リアルワールドデータ)の効率的な利活用が求められています。しかしながら、実際に電子カルテから必要なデータを収集しようとすると多大な労力がかかり、かつリアルワールドデータの精度の低さ、欠損値の多さに気づきます。このようになった理由の一つは、部門ごとの数多くのシステムがそれぞれ独自に高度化し、研究に必要なデータがそれぞれのシステムに分散管理されるようになったことにあります。かつそれぞれの分野の都合で発展していったがために、標準的なデータ項目を集める際、それらのローカルルールから整理、統合していく必要があります。今後求められるシステムでは、利活用の目的に応じたデータ収集項目を適切に整理し保持でき、必要なときにすぐ利用できる機能が重要と考えます。これを実現するために、目的に応じた収集すべき項目の整理、それらの項目を出すためのツールの要件、ツールが抽出するデータソースとなる統合的なデータベース、統合データベースにデータを格納するためのETLツールの要件、各病院情報システムに存在するデータを統合管理する際の要件、等々様々な課題についての研究が必要です。これらの実現によりリアルワールドデータの利活用が効率的に実現できる基盤整備が可能となると考えます。
 我々の研究では、診療情報の生成と同時に研究開発に資するデータがほぼ自動的に収集できる基盤整備に注力し、診療支援、医療安全、病院経営のみならず、あらゆる研究支援にも資するシステム開発を目指しています。
 これまでの研究内容
 1)電子カルテデータの品質と医療安全の向上に資するためのマネジメントモデルの研究
 2)データ品質と医療安全を阻害する電子カルテシステムの機能の抽出と改善策の研究
 3)施設個別に開発・運用されてきた病院情報システムの比較可能性を探るための、各種業務のドメインモデルの研究
 4)障がい者のための情報提供システムのあり方の研究
 TOPICS
医療情報システムの開発研究や成果発表に慣れていない全国の医療者のためのガイド「論文・詳細抄録の書き方(システム開発研究編)」を作成。日本医療情報学会のホームページにて公開中。
https://www.jami.jp/wp-content/uploads/2023/11/WriteAbstracts-System.pdf


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