研究とワークライフバランス

富川 光 教授

基本情報

  • 所属又は配属:大学院人間社会科学研究科
  • 職名:教授
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研究者になるまでの軌跡

 小さいころから生き物が好きでした。きっかけは、母親がアゲハチョウの幼虫が付いたサンショウの苗木を買ってきてくれたこと。どちらかと言うと虫が苦手な母でしたが、子供の興味を伸ばすために頑張ってくれたのだと思います。それ以来、昆虫採集や熱帯魚飼育に明け暮れる少年時代を過ごしました。
 小学生の時に将来就きたかった職業は、動物園や水族館の飼育員。中学生や高校生になると国立公園のレンジャーにも憧れるようになりましたが、研究者の道を歩むことを決めた最も大きなきっかけは、大学に進学して「分類学」という学問分野に出会ったことでした。
 未知の種を見出して分類し命名する、さらにその進化の歴史を探求する生物学の一分野である分類学は、それまで漠然としていた自分の生物への興味・関心を、将来目指すべき明確な姿へと変えてくれました。大学で尊敬する恩師、山形大学の藤野隆博教授と北海道大学の馬渡駿介教授に出会えたことも研究者への憧れを一層強くしました。古き良き時代の大学教授然とした藤野教授と馬渡教授の薫陶を受けながら、どっぷりと分類学研究に浸かった学生時代は、今思い出してもかけがえのない貴重な時間でした。
 学生時代は将来に対する不安がないわけではありませんでしたが、研究の楽しさの方が勝っていたのか、あまり深く悩むこともなく研究生活を送っていました。自分が好きなことを続けることを両親や祖父母が応援してくれたことも大きかったですね。幸運なことに大学院修了後、ご縁あって広島大学教育学部に奉職することができ、プロ研究者としての生活が始まりました。
 こうして振り返ってみると、一生の仕事にしたいと思える学問分野と出会い、尊敬する恩師とも出会い、そして家族の応援があったことが、私が研究者の道を選ぶことができた大きな理由です。
 

研究の魅力

 私が取り組んでいるのは、小型甲殻類の系統分類学的研究です。具体的には、ヨコエビ類やコツブムシ類を対象として、自然の中から未知の種を見出して分類することで既存の知識体系の中に位置づけ、命名し、系統類縁関係を推定することで進化の歴史を明らかにしていきます。
 この研究の一番の魅力は、純粋に発見の喜びを味わうことができることです。新種の発見は、生物学研究における数多の発見の中でも、最もワクワクするものの一つだと私は思います。新種の発見により既存の知識体系(生物分類体系)の変更が迫られることもあり、極めてエキサイティングな学問だと感じています。分類学は解剖学と並んで歴史の古い学問ですが、近年は系統類縁関係の推定に遺伝子データが使えるようになり、より客観的かつ正確な分類や進化史の推定が可能になりました。このように伝統的な手法と先端技術を組み合わせて課題の解決に迫る点にも魅力を感じています。
 広島大学は以前、「学問は、最高の遊びである。」というキャッチフレーズを掲げていました。私はこれにまったく同意します。私にとって研究は仕事というより遊びであり、やるなと言われてもやらずにはいられない存在です。そして、大学は教育研究機関です。つまり人材育成が研究と並ぶ、いやそれ以上に重要なミッションです。学生と研究を共に行いながら、彼ら彼女らが知識人として大きく成長していく姿を見ることができるのも、大学における研究職の大きな魅力であり喜びです。
 

ワークライフバランス

 研究は思うような成果が上がらないこともしばしば。やっとまとめた研究成果を論文として投稿したら、辛辣な査読結果に意気消沈。ついでに申請していた研究費も落ちたとくれば、落胆と挫折は免れ得ません。しかし、このネガティブな感情を家庭に持ち込むわけにはいきません。気持ちのコントロールは難しいですが、やさしい(はずの)妻とかわいい子供たちの顔を思い浮かべながら、笑顔で帰宅したいと思いながら日々生活しています。
 私は自宅と職場がごく近いので、子供がまだ幼稚園児の頃は夜8~9時頃には子供と一緒に寝て、早朝家を抜け出して研究室で仕事をし、朝食時にまた自宅に戻るという生活をすることで、できるだけ子育てに関わりつつ研究時間を捻出するようにしていました。子供が小学生になった今は、習い事の送迎などはできるだけ引き受けるようにしています。習い事の待ち時間のような隙間時間に、意外と研究のアイデアが浮かぶことに気付いたのは最近のことです。一日の中で無駄な時間など無いのです。
 私の研究では野外での生物採集が必要不可欠です。そこで、家族旅行の行き先に研究対象生物が採集できそうな場所をねじ込むという涙ぐましい努力もしています。生き物が採集できれば子供たちも喜ぶし、環境教育もできているような気がしますので、良しとしています。子供たちには、「遊びの中で学問に触れる」という経験をさせてあげたいと考えています。
 

学生、若手研究者へのメッセージ

 自分が面白いと感じるモノ・コトに出会えた人は幸せだと思います。それが研究だったら、是非、突き詰めて欲しいですね。年齢や立場、時代によって、研究への向き合い方や使える時間などは変わってきます。しかし、研究を始めた頃に感じた「好き」という気持ちを忘れなければ、自分なりに納得のいく研究生活を送ることができるのではないかと思います。
 研究を続ける上で、憧れの研究者がいるのも良いですね。自分の指導教員でも良いですし、会ったことがない方でも問題ありません。研究生活は楽ではありませんが、目標となるような研究者がいると励みになりますし、なんだか楽しい気持ちになります。
 そして、一番大切なのは、研究する自分を応援してくれる家族やまわりの人たちです。たまには、ご自身のご研究内容をその人たちにお話してみてください。きっとあなたのお話を喜んで聞いてくれるでしょう。反応がいまいちだったら、、、伝え方をしっかりと研究してください。

 

                                            (2026年10月掲載)
*所属・職名等は掲載時点のものです。


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