• ホームHome
  • 東京オフィス
  • 「がん」と診断されたら、どうしたらいい 第8回フェニックス医療講座実施報告

「がん」と診断されたら、どうしたらいい 第8回フェニックス医療講座実施報告

広仁会(医学部医学科同窓会)関東甲信越支部会と広島大学関東ネットワークは今年からフェニックス医療講座を定期開催しています。
病気や健康は誰もが気になる話題です。
この医療講座は、病気とは何か、病気とどう向き合ったらいいのかというテーマでの卓話を、広島大学医学部出身の医師にお願いする会です。
専門分野の最新の知識と現場のご経験をお話しいただくことで、より広く深い医療の知識と正しい問題意識を持てるようになる、そんな場になることを目指しています。

1月27日16時より、広島大学東京オフィス(東京・田町)の408号室で、国立がん研究センター東病院で頭頸部内科長を務める田原信先生(1996年医学部卒)においでいただき、「「がん」と診断されたら、どうしたらいい」」の演題で講座を開催しました。

田原信先生(1996年医学部卒)

日本で1年間にがんと診断される罹患推計は86万例、がんで死亡する人は37万人で死因の3割近くを占めてトップ。
家族を含めれば、がんは避けて通ることができない病気だということがわかります。
一方で、5年相対生存率は6割以上、医学の発達によって死に至る病とはいえなくなっています。
だからこそ、がんとどうやって向き合ったらいいのか、知りたいこと、知っておくべきことはたくさんあります。

今回、ご登壇いただいた田原先生の主張は明解です。
診療科、医療スタッフの垣根を越えた協力体制のある病院で、納得した上で治療を受けることです。
当たり前のことのように思えますが、情報を持ち合わせず、判断能力のない患者の立場での選択は意外に難しいはずです。

健康診断や、ちょっとした症状から病院を受診してがんが疑われると、診断、治療方針の決定、そして治療、フォローアップという4段階で治療は進められることになります。

がんが疑われたら、まずは厚生労働省が指定する「がん診療連携拠点病院」を受診することだと田原先生はいいます。
全国に351病院がありますが、これらの病院はスタッフや検査機器が揃っており、診断能力が高いとされています。
指定の条件として、外科、放射線科、内科など関係する専門医が共同で治療方針決定するキャンサーボードの設置が義務づけられています。
各専門医が多角的に治療方針を検討する、このプロセスがもっとも重要です。

がんといえば、外科医による手術。
それが医師、患者ともに常識となっているかもしれません。
しかし、切除ができない症例もたくさんあります。
切り取ることができれば、がんはなくなりますが、それがベストな選択だともいえません。

特に田原先生の専門である頭頸部内科、要するにクビから上のがんの場合、外科手術が難しい事例が多いといいます。
外科的な手術によって声を失う、咀嚼や嚥下が困難になる、嗅覚や味覚、視力を失う、そして容貌が変わって人に会えない、外に出られなくなるといったさまざまな機能障害も考慮せねばなりません。

「家族と食事ができなくなってもいいのか」「外科切除にて容貌が変わることで、人前にでることをためらう」「声を失ってもいいのか」、、、即効性の高い外科手術と、身体機能を守るための別の治療、その折り合いをどこでつけるのか、これこそが患者自身が決めることであり、納得するとは、治療内容と自分の気持ちを正確に知って判断を下すことです。

放射線やクスリを使う治療を含めて、それぞれの専門家の検討の下で、患者とともに人生のための最高の選択をする、これを「患者と医療者の協働意思決定(SDM:Shred decision making)」と呼びます。
このプロセスが踏めるかどうか、患者の側からすれば、正しい情報と複数の選択肢が与えられ、納得できた上で治療を受けられるかどうか。
これががんと向き合うときの医療機関の、望ましい選択基準です。

しかし、病院もさまざまです。
がん診療連携拠点病院に指定されていても、外科医の発言力が強く、SDMが健全に行われないところもあるといいます。
「切れば治るのだから、それで何が不満なんだ」と口にする外科医はいまだに多いようです。
ブラックジャックやドクターXは、はるか時代遅れな存在なのだと知っておくべきでしょう。

田原先生は、がん治療に際して、いくつかのチェックポイントを示します。

まず担当医については、
・画像や検査結果を見せて、病状をきちんと説明しているか
・外科的治療と非外科的治療をいくつか提示しているか
・自らの治療方針に断言的な言い方をしていないか

病院については、
・チーム医療(集学的医療チーム MDT:Multidisciplinary team 各科の専門医はじめ看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士はど多くの医療スタッフによるサポート組織)が実践されているか
・診療科横断的にリーダーシップを発揮することが求められる腫瘍内科医が在籍しているか
を公開情報からチェックする

そして別の専門医の意見を聞くセカンドオピニオンを求めることも重要だといいます。
セカンドオピニオンを求めるのは主治医を信頼していないようで、なかなか勇気のいることのように思ってしまうものですが、いまどきのお医者さんは、セカンドオピニオンを受け入れるようになっています。
要らぬ気遣いは無用です。

ただし、もっとも望ましいことはがんにならないことです。
禁煙、節酒、食生活の見直し(減塩、野菜と果物を増やす、熱い飲食を避ける)、身体を動かす、適正体重の維持、この5つの習慣を実践するだけで、がんになるリスクを相当に減らせます。

まったくの余談ですが、「がん研」と聞くと、湾岸の埋め立て地で威容を誇る「がん研有明病院」を想像してしまいますが、そこは民間の医療機関。
田原先生が所属するのは国立がん研究センターの方で、「国がん」と略するのだそうです。
お間違えなきよう。

がん診療連携拠点病院リストなどの情報源
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_byoin.html

国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/index.html

次回は3月31日16時より、福田 宏嗣先生(1986年医学部医学科卒)にご来駕いただき、【心臓・血管病の予防、早期発見、そして最新心臓・血管手術】と題してご講話いただきます。
みなさま、ふるってご参加ください。

<心臓・血管病の予防、早期発見、そして最新心臓・血管手術> 第9回フェニックス医療講座
https://www.hiroshima-u.ac.jp/tokyo/news/43972

(広島大学関東ネットワーク 代表 千野信浩)

<お問い合わせ先> 
広島大学東京オフィス                    
Tel 03-5440-9065  Fax 03-5440-9117
E-mail  liaison-office@office.hiroshima-u.ac.jp(@は半角に変換してください)


up