ひとつの専攻からなる本研究科は、本学の理念5原則に基づき、次の方針に従って、大学院の教育課程を編成、実施しています。専攻を支える部門と21世紀科学プロジェクト群は、学際性・総合性・創造性を基盤とする総合科学的視点によって構成されており、独立していても相互に関わっています。
部門は次の3つからなります。人間科学部門は、生命科学と脳科学、人間行動研究、身体運動科学研究、人間存在論、並びに言語科学との連携を通して、人間に関係する新たな研究・教育の構築に貢献します。環境科学部門は、基礎科学的性格を持つ自然環境だけでなく、社会環境・物質環境・情報環境も巻き込んだ広義の「環境」」を対象に、環境と人間との相互作用やその歴史と現状という側面に配慮して研究・教育を進めます。文明科学部門では、「社会科学」という枠組みから離れ、総合科学部で実績を残してきた文明論、文化人類学、地域研究を一層強力に展開しつつ研究・教育を行います。
これらに対して21世紀科学プロジェクト群は、3部門に属する教員が部門や領域、文理の枠を超えて学生や他の研究機関の研究者ともチームを組み、解決の処方箋を見つけ出そうとする研究プロジェクトの総称です。同群には、複雑な現代が抱える問題から研究課題を設定し、総合的・学際的な手法によって解決の処方箋を見いだし、新しい知の領域である総合科学を構築することを目指す総合科学研究プロジェクトと、本学理念5原則の1つ「平和を希求する精神」を涵養するためのヒロシマならではの平和学の構築を目指す平和科学研究プロジェクトがあります。
本研究科に入学した学生は、3部門の中にある専門分野である11の領域、または学際的研究チームである21世紀科学プロジェクト群内のプロジェクトチームのいずれかに所属します。所属する領域やプロジェクトチームに関わらず、学生に対する研究指導は複数の教員によって行われ、副指導教員の1名以上は主指導教員とは異なる領域から参画します。このことによって、学生に対する専門的・学際的な研究指導を担保します。また、学際的・総合的な知見や技術を習得する目的から、半数近くの講義は、教員が複数で担当するオムニバス方式を取り入れています。
【博士課程前期】
博士課程前期では、「知識基盤社会」*に貢献できる人材育成を目指し、専門分野における研究能力及び専門的知識・技能だけでなく、学際的視座を養成する教育を、次のように実施します。
- 分野の異なる学生とのプロジェクト型学習である「コア科目」(必修4単位)を1年次に履修することで、学際性・総合性・創造性の基礎を共通して学び、総合科学的視点を修得します。
- 領域所属の学生は、所属領域の専門分野を重点的に学んで深化させると同時に、他領域の授業科目も履修することによって学際的視座を修得します。具体的には、主専門分野で方法論を鍛えて特別研究に取り組む力量を養成する「総合科学演習」(2単位)と、主領域の授業科目群の授業から選択必修(8単位)を履修することで、研究分野における専門性を培います。並行して、同部門や他部門の他領域の授業科目群から選択必修(4単位)、また主指導教員との協議の上で他研究科の授業科目も履修できる自由選択科目(4単位)を履修することで、学際的視座を培います。それらの集大成として、複数の教員による指導のもと修士論文(「特別研究」・8単位)を完成させることにより、学生は、研究能力や専門的知識・技能を駆使して総合科学的な視点からから事象を検証する能力を修得した証として修士(学術)の学位を得ます。
- 21世紀科学プロジェクト群所属の学生は、各プロジェクトチームの学際的研究実践への参加を通して、専門分野の研究能力を修得すると同時に、幅広い知識と学際的視座を修得します。具体的には、主専門分野で方法論を鍛えて特別研究に取り組む力量を養成する「総合科学演習」(2単位)と、主指導教員との協議の上で他研究科の授業科目も履修できる自由選択科目(16単位)を履修することで、専門性や学際的視座を培います。それらの集大成として、複数の教員による指導のもと修士論文(「特別研究」・8単位)を完成させることにより、学生は、研究能力や専門的知識・技能を駆使して総合科学的な視点からから事象を検証する能力を修得した証として修士(学術)の学位を得ます。
- 自由選択科目としてリテラシー科目(11単位)が開講されています。この科目では、他者の意見を聞き、自分の意見を表明するコミュニケーション能力や研究倫理を学ぶことができます。また、必修のコア科目(4単位)とこの科目(4単位)の履修に加えて、講演会やセミナー、シンポジウムに参加して4件(研究科主催のものを2件以上必ず含む)の報告書、あるいは学内外の研修やプロジェクトに参加して1件の報告書を提出することで、「文理融合リサーチマネージャー基礎コース修了証」が与えられます。同修了証は、文理融合型プロジェクトを推進するための基礎力があることを認めるものです。
【博士課程後期】
博士課程後期では、「知識基盤社会」*をリードする人材を育成するため、国際的な視野に立った学際的な学識を備え、当該専門分野における研究を自立して実践する能力及び高度な専門的知識・技能と共に学際性を修得する教育を、次のように実施します。
- 複数の教員による指導のもとで独創的な研究を行い博士論文として完成させる過程で、専門分野を重点的に深化させると同時に学際性を修得します。必修科目「研究演習」は、学生が所属する3部門内の領域又は21世紀科学プロジェクト群が開設する演習科目です。これを履修することで、修了要件の8単位を取得します。授業は、履修する学生に応じて日本語、英語又は日本語及び英語の併用のいずれかの方法で実施します。主指導教員は、「研究演習」を通じて博士論文作成を指導し、複数の副指導教員と協力して学生の研究指導に当たります。副指導教員数は2人以上を原則とし、他領域から少なくとも1人が副指導教員として参画します。また、副指導教員には本研究科以外の教員を充てることもできます。このように関連する専門分野からも教員が指導にあたることで、学際性・総合性の修得を目指しています。
- 博士論文は、主指導教員の指導のもとで以下の過程を経て完成されます。学生は1年次後半期に博士論文の中間発表を行い、「研究計画概要」を提出します。2年次後半期には中間発表を行って「博士論文概要」を提出します。中間発表は領域をまとめる部門ごとに行われ、21世紀科学プロジェクト群所属の学生は主指導教員の属する部門で発表します。異なる領域の教員からの質問も受けることにより、特定の研究分野に偏らない視点が涵養されます。3年次後半期には、「博士論文予備審査願」を提出し、受理されると博士論文概要・草稿を提出して予備審査を受けます。予備審査に合格すれば、学生は博士論文を提出し、公開の論文審査会を経て審査委員による論文審査を受けます。この時点までに学生には、査読制度のある学会誌に第一執筆者として少なくとも1編の学術論文が掲載されているか、もしくはそれに代わる著書が1編以上なければなりません。審査委員には、必要に応じて本研究科以外の委員を委嘱することができます。審査に合格すれば、課程修了時に学生には、当該専門分野における研究を自立して実践できる研究能力や専門的知識・技能を駆使して総合科学的な視点からから事象を検証する能力を修得した証として博士(学術)の学位が授与されます。
- 博士課程後期の学生はTAとして博士課程前期の「コア科目」の指導に当たることができます。この科目は異なる領域の博士課程前期の学生が履修していることから、TAとして指導することで、他分野の知にも関心を向け、自分の専門分野を相対化する総合科学的視点をさらに極めるとともに、高度な研究指導能力を修得することができます。このTA活動の報告書をコア科目の担当教員のコメントを添えて作成し、次の4条件のうち1つを満たすことで、文理融合型リサーチマネージャー実践コースを修了したと見なされます。これにより「文理融合型リサーチマネージャー認定証」が授与されて、プロジェクト活動において主導的役割を担うための実践的な力があることが認められます。
① 21世紀科学プロジェクト群に所属していてそのプロジェクトチームで指導的役割を果たした場合、関係する教員のコメントと証明書を添えてその活動報告書を作成・提出すること。
② 学内外における研究プロジェクトの企画立案、運営などの活動を実行し、報告書を作成・提出すること。
③ 年1度研究科で募集される学生独自プロジェクトに採用された場合、計画立案、運営などの活動を実施し、関係する教員のコメントと証明書を添えてその活動報告書を作成・提出すること。
④ 文理融合や学際性、共同プロジェクト研究に関係する内容の論文が、査読制度のある雑誌に受理されること。
博士課程前期及び博士課程後期では、グローバル時代における社会の急速な変化に対し多角的かつ学際的視点から思考し、恒久的平和を願い、また生涯において自己研鑽する姿勢を身につける教育を、それぞれの課程で科目履修や研究指導を通じて実施しています。
*中央教育審議会は、答申「我が国の高等教育の将来像」において、21世紀を「新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要度を増す、いわゆる『知識基盤社会』(knowledge-based society)」と位置づけています。