広島大学関東ネットワーク 第3回『医療講座』実施報告

広仁会(医学部医学科同窓会)関東甲信越支部会と広島大学関東ネットワークは4月1日16時より、広島大学東京オフィス(東京・田町)の408号室で第3回目の医療講座を開催しました。

病気や健康は誰もが気になる共通の話題です。この医療講座は、病気とは何か、病気とどう向き合ったらいいのかというテーマでの卓話を、広島大学医学部出身の現役医師にお願いする会です。
医学の専門知識と現場のご経験をお話しいただくことで、より広く深い医学の知識と正しい問題意識を持てるようになる、そんな場になることを目指しています。

第3回目の講師は、医療法人財団東京勤労者医療会東葛病院の下正宗先生(1984年卒)にご来駕いただき、「健診、検診、結果を生かすために~結果を読み解くための基礎知識」という演題で、健康診断を医師の立場から解説してもらいました。なんの気なく受けている健康診断にはどういう意味があるのか、病気の早期発見にどの程度の信頼性があるのかを知る機会は、実はほとんどありません。しかし、自分の身を守る健康診断を前向きに受診するための基本的な知識はとても重要です。

下先生の専門は病理専門医。といってもあまり馴染みはないかも知れません。医療の世界ではドクターズドクターとも呼ばれている、病気の有無、進行具合を判断する専門家のことです。

具体的には、胃内視鏡で「細胞をとって調べます」と内視鏡医がとった胃の組織にがんがいるかどうかを判定したり、手術の際に、執刀はそれぞれの専門医が行いますが、手術の途中で切り取った部位を別の場所で判断し手術範囲の判断をしたり、取り出された臓器を詳細に検索し手術後の化学療法が必要かどうかの情報を提供するのが病理専門医です。臓器移植の際に臓器の定着について判断するのも病理医の支援が必要です。

実は、日本には実働している病理専門医は3000人くらいということです。

下先生の話は健康診断と検診の違いからスタートします。一般人の知識は、ここすら正確性が欠落しています。法律で定められた健康診断(や任意で受診する人間ドック)は、健康であるかどうか、病気の危険因子があるかないかを統計的な判断を交えながら検索するもの。検診は特定の疾病にターゲットを絞り、早期発見から治療に繋げるものです。つまり健康診断は統計的な誤差がつきまとい、検診はターゲット以外の病気は対象にしていない。特に健康診断には限界があることを、病気の発生メカニズムや各検査の特性、検査結果の統計的な判断方法など、さまざまな観点から解説いただきました。

普段の健康管理をする上で重要なポイントとして、検査結果の数値は経年変化が重要であるので、結果の通知書は取っておくこと。動脈硬化は肥満、高血圧、脂質異常、高血糖など多くの要因が重なって起きるので、これらの結果を総合的にチェックすること。そして、結果報告で要精密検査、要治療の指摘があったら、自覚症状がなくても病院を受診すること、を挙げます。
「健康診断で見逃されやすい疾病とはどんなものがあるか」という参加者からの質問には、初期段階での自覚症状がほとんどない膵臓癌を例に挙げ、「放射線への被曝とのトレードオフではあるが」と前置きしつつ、CTなどオプションでの検査が有効だと指摘しています。

医者の立場からは恐らく言いにくいことでしょうが、健康診断は決して完全ではないという、その理由をきちんと説明されると、健康診断への向き合い方が分かります。診断の報告書で指摘される要再検査、要治療の指示は想像以上に重要だということ、オプションでの検査は何を選んだらいいのかということなどにも、それなりの知識を得ることができました。

最後に老化とは何かについて、運動・神経・感覚器の機能、精神的特徴、細胞レベルでの各器官の変化を医学的見地から解説いただきました。さまざまなものが機能低下するなかでひとつだけ、結晶性知能、つまり過去の経験を土台とする専門的個人的な能力は歳を取っても成長を続けるという医学的知見は、ちょっとだけ救いになった気がします(注:知能は流動性知能と結晶性知能に分けられ、新しい場面への適応力である流動性知能は25歳をピークとして低下していくとされている)。

次回は5月27日16時より、山科章・東京医科大学特任教授(日本循環器病予防学会理事長 1976年卒)に「急速に進む高齢化社会と心血管病の予防」と題してお話しいただきます。同窓生の気安さからか、毎回、病院ではきけない話が数多く出てきて、驚くことばかりの中身になっています。みなさま、ふるってご参加ください。

【5/27 第4回医療講座へのお誘い】
https://www.hiroshima-u.ac.jp/tokyo/news/39036

(広島大学関東ネットワーク 代表 千野信浩)


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