広島大学関東ネットワーク 第4回『医療講座』実施報告

広島大学関東ネットワークと広仁会(医学部医学科同窓会)関東甲信越支部会は5月27日16時より、広島大学東京オフィス(東京・田町)の408号室で第4回目の医療講座を開催しました。

病気や健康は誰もが気になる話題です。この医療講座は、病気とは何か、病気とどう向き合ったらいいのかというテーマでの卓話を、広島大学医学部出身の現役医師にお願いする会です。
それぞれがお持ちになっている専門分野の最新の知識と現場のご経験をお話しいただくことで、より広く深い医療の知識と正しい問題意識を持てるようになる、そんな場になることを目指しています。

第4回目の講師は、広仁会関東甲信越支部長で日本循環器病予防学会理事長、この3月まで東京医科大学循環器内科主任教授を務めておられた山科章先生(1976年卒)にお願いしました。

「急速に進む高齢化社会と心血管病の予防 ~健康寿命を延ばすための生活習慣」という演題で、脳卒中や心筋梗塞など血管に起きるトラブルとその背景を中心にお話しいただきました。

山科章先生(1976年医学部医学科卒)

山科先生はまず、サザエさんに登場する波平の年齢を知っているかと問いかけます。

答えは54歳。

連載が始まった終戦直後と現在での54歳像はまるで違ったものになっていることを実感します。

それは、日本は先進国の中ではもっとも速いスピードで高齢化社会が進んでいることの裏返しでもあります。
高齢化社会を迎えて、国全体の医療費負担をいかに減らしていくのか、話の核心はここです。

次に日本人の死因を年齢階級別に分析したグラフを見せます。全年齢だとがんが28.7%、心疾患が15.2%、肺炎9.4%と、順位は見慣れたものですが、がんでの死亡者の割合は65歳をピークに減少に転じ、代わりに心疾患と肺炎(それに老衰)が急速に増えていきます。

超高齢社会において医療費をはじめ社会的な負担を増やさないためには、要支援・要介護状態の高齢者を減らす努力が重要です。

具体的には平均寿命から健康寿命(健康上の問題で日常生活に制限が発生しない期間)を引いた期間を短くするにはどうしたらいいか、伸ばすべきは平均寿命ではなく健康寿命、そういう考え方をします。最新の統計データから算出した要支援・要介護状態の期間は、男性で約9年、女性で約12年になります。

では、さらに要介護状態になった原因を探っていくと、脳卒中、心臓病、糖尿病などメタボ関連の疾患が28.4%、関節疾患や骨折・転倒などロコモ(ロコモティブシンドローム、運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態)が22.9%、認知症15.3%などが上位に上がってきます。

つまり、高齢化社会においては山科先生が専門とする心血管病の予防がなにより重要だということが分かります。ここから話は健康寿命を延ばすための生活習慣の改善に入っていきます。

メタボリックシンドロームとは腹部肥満だけでなく、中性脂肪・HDLコレステロール値、血圧、血糖値で判断される(日本内科学会、日本動脈硬化学会など8学会による合同基準)のですが、そのメタボによって動脈硬化が進み、それが心筋梗塞や脳卒中などのさまざまな組織障害を発生させて死に至る、という連鎖が起きます。
しかも、動脈硬化が引き起こす各種の疾患は突然発生します。

断崖絶壁があることを知らずに、崖っぷちに向かって歩いているようなものです。
なるたけ崖に近づかないこと、つまり動脈硬化のリスクファクターを取り除くことが健康寿命を伸ばす上で何よりも重要だと山科先生は力説します。

ではそのリスクファクターとはなにか。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満が代表的なものです。

特に高血圧症と脂質異常症の患者数はそれぞれ4,000万人以上にも上るため、厚生労働省の推計では国民の最高血圧の数値をたった1mmHg下げるだけで、我が国全体で毎年4,500人以上の脳卒中による死亡を減らすことができるとされています。

血圧が高くなくても脳卒中は起こり得ます。
発生確率が低いだけなのですが、母数が多いので患者総数は少なくありません。

それは他のファクターでも同じで、健康管理は国民全体で取り組んでいかないと、将来の医療費抑制にはつながりません。

なかでも問題は喫煙だといいます。

さまざまな健康被害が疫学調査で明らかになっていますが、先生は「タバコ1本吸うごとに14.4分寿命が短くなる」「禁煙すれば、その日から肺がんや虚血性心疾患で死亡する危険率が徐々に低下していく」「男性喫煙者の突然死の危険度は10倍」など、数多くの資料や動画(!)を提示しながら、危険性を訴えます。

要介護状態になるのかどうか、それが長いのか短いのかは、自らの健康管理によって決まる。
当たり前の結論、聞き飽きた言葉が専門医の生きた言葉を聞いて、初めて腑に落ちたという人も多かったのではないでしょうか。

「防火に勝る消火なし」。
先生が最後に締めた言葉はこれです。肝に銘じます。

次回は7月29日16時より、仲佐保先生(1980年医学部医学科卒)にご来駕いただき、「海外旅行時の予防と対処 こんな病気に気をつけろ!」と題してご講話いただきます。みなさま、ふるってご参加ください。

【7/29 第5回フェニックス医療講座へのお誘い】
https://www.hiroshima-u.ac.jp/tokyo/news/39272

(広島大学関東ネットワーク 代表 千野信浩)


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