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第6回フェニックス医療講座「<暮らしの中の看取り>準備講座 ~自分のそのときのことを考えてみる~」実施報告

広仁会(医学部医学科同窓会)関東甲信越支部会と広島大学関東ネットワークは今年からフェニックス医療講座を定期開催しています。

病気や健康は誰もが気になる話題です。

この医療講座は、病気とは何か、病気とどう向き合ったらいいのかというテーマでの卓話を、広島大学医学部出身の現役医師にお願いする会です。
専門分野の最新の知識と現場のご経験をお話しいただくことで、より広く深い医療の知識と正しい問題意識を持てるようになる、そんな場になることを目指しています。

9月30日16時より、広島大学東京オフィス(東京・田町)の408号室で、東京都小金井市にある聖ヨハネ会桜町病院ホスピスで常勤医師として活躍している大井裕子先生(1992年医学部、2000年大学院卒)においでいただき、第6回目の講座を開催しました。

医療の世界では2025年問題という言葉があるそうです。
この年、団塊の世代がすべて後期高齢者になることを指しています。
平均余命から判断すると、最期の時を迎える人、その人たちを支える人、その数がピークを迎えることになります。

しかし、死のことを考えことはあっても、どこかファンタジックな想像に止まり、死のリアルを知る機会は少ないのではないでしょうか。

たとえば、どこで死を迎えるのがいいのでしょうか。
病院でしょうか。

病院、特に大学病院などの急性期病院は治療をする場所です。
治療の効果が見込めなくなったら、退院させられます。

そうなると、長期入院をするための慢性期病院か、自宅に戻るか、終末期ケアを行うホスピスに行くことになります。

どこを選んだらいいのか、心の準備を含めて十分な知識を持ち合わせているでしょうか。

ホスピスはガンもしくはエイズでなければ入院することができないことは知られていないのではないでしょうか。
そして、「一度入ったらただ死を待つだけの場所だ」と思っている患者や医療者も多いと聞きました。
確かにそういうホスピスもあるそうですが、緩和ケアを受けることにより体調を整えてまた日常生活に戻ることも可能で、退院や残された時間に外出や外泊を楽しむ方も多いそうです。

在宅医療の体制が整っている地域、すなわち看取りまでを責任をもって引き受けてくれる医師がいる地域では、その状態で自宅に帰り最期まで過ごすことも可能だといいます。

どこで死を迎えるのか、死を看取るのか。
ギリギリになってからでは遅い、と大井先生は警告します。

死を知らない、死に方を知らない。

じつに驚くことに、それは医者も同じです。
医師は病気を治すことは学びますが、死に方は学ばないからです。
ホスピスの医師として活動している大井先生も、死についての知識は現場で学んできたのだと言います。

大切な知識のひとつに、食事の問題があります。

特にガン患者の場合、身体機能の低下は急速に訪れます。
まず、外出が負担になります。
次に入浴が困難になり、そして食欲が低下するとともに食事が困難になります。
食事ができなくなるこの時点から、体力が急速に落ちて、多くの場合、1~2ヶ月後に亡くなります。

食事は体力維持の面で重要であるとともに、「食べる楽しみがない」「食べることすらできなくなった」という気持ちになってしまい、それは人間の尊厳に関わってきます。
水を飲めなければ、言葉を発することが困難になり、それは意思表示ができなくなることを意味します。

大井先生は、スピリチュアルペインという言葉で表現しますが、身体的、精神的、社会的な苦痛とともに、緩和すべき「痛み」で、解決が難しいのがこれです。
そして「こんなことでは生きている意味がない」という諦め、絶望が死期を早めます。

しかし、病気を治す医療の考え方では、食事が誤嚥につながりそうならば、死亡原因の3位になった肺炎を避けるために食事を止めてしまいます。それが体力と気力を奪って逆に死期を早めてしまっているのです。

もし、食事ができるのであれば、食べられるようにすることがスピリチュアルペインの軽減にもつながります。
モノを食べるプロセスを分析して、その人は何が原因で食事ができなくなっているかが分かれば、できるだけ長く食事を続けさせることになるのですが、医療現場ではそれが顧みられることは少ないといいます。

口から胃に至るまでに歯科、耳鼻咽喉科、消化器内科と専門が分かれており、それを総合的に管理できる医師が少ないのがその一因です。
視力の低下、食べ物に見えない幻視なども原因になるので、専門領域はもっと広がります。
静穏な死、看取りの観点からは、なにかが間違っているようです。

大井先生は、ホスピスの医師として、多くの死に直面することで死の痛みを緩和することを学び、それを広める活動を続けてきました。
今回のフェニックス医療講座では、患者の心を尊重し、寄り添うことの難しさ、医療の限界についてさまざまな実例をもとに語っていただきました。

医師も知らない死の現実と、その看取りについてまとめた本が大井先生の近著「暮らしの中の看取り準備講座」(中外医学社)です。
死とは何かを深く考えさせられる好著です。

次回は11月18日16時より、竹中創先生(1995年医学部医学科卒)にご来駕いただき、「<怖い不整脈>~心房細動から脳梗塞になることを知っていますか?~」と題してご講話いただきます。
みなさま、ふるってご参加ください。

【2017/11/18開催・要申込 <怖い不整脈> 第7回フェニックス医療講座】
https://www.hiroshima-u.ac.jp/tokyo/news/41625

(広島大学関東ネットワーク 代表 千野信浩)


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