「怖い不整脈」第7回フェニックス医療講座実施報告

広仁会(医学部医学科同窓会)関東甲信越支部会と広島大学関東ネットワークは今年からフェニックス医療講座を定期開催しています

病気や健康は誰もが気になる話題です。
この医療講座は、病気とは何か、病気とどう向き合ったらいいのかというテーマでの卓話を、広島大学医学部出身の医師にお願いする会です。

専門分野の最新の知識と現場のご経験をお話しいただくことで、より広く深い医療の知識と正しい問題意識を持てるようになる、そんな場になることを目指しています。

11月18日16時より、広島大学東京オフィス(東京・田町)の408号室で、埼玉県戸田市にある戸田中央総合病院で心臓血管センター内科で副部長を務める竹中創先生(95年医学部卒)においでいただき、「怖い不整脈」の演題で講座を開催しました。

心臓の専門医の話なので、重篤な事例、知っておくべきリスクも「心臓の機能が低下する」とか「心臓が止まる」といった胸回りと考えるのではないでしょうか。
ところが話はいきなり脳卒中患者の割合から始まります。

脳の血管がつまったり破れたりするのが脳卒中、そのうち、4分の3が脳の血管が詰まる脳梗塞というところまでは、ご存じの方も多いでしょう。
この脳梗塞の原因は大きく次の3つ、発生確率も3分の1ずつです。

まず悪玉コレステロールが血管の内側にたまり固くなった血管の一部が壊れて脳の血管をふさぐアテローム血栓性(脳血栓とも)。
次に高血圧により脳の細い血管が硬化して血が通わなくなるラクナ梗塞、そして心臓でできた血の塊が脳に運ばれて血管をふさぐ心原性です。

心臓の専門家が脳梗塞に警告を発する理由は、心原性の脳梗塞は突然発生し、5年生存率、社会復帰率ともに30%程度とガンよりも悪く、しかも50年前の統計と比較しても、大きな改善が見られないからです。
他のふたつの脳梗塞とは危険性の高さはまるで違うといいます。
そうした脳梗塞が起きてからは遅いから、不整脈の段階できちんと治しましょうというわけです。

不整脈にも脈が速くなる、遅くなる、不規則になるなど、さまざまな症状がありますが、脳梗塞予防の観点から警戒せねばならない不整脈は心房細動です。
心臓の筋肉が小刻みにしか動かなくなるようになって、心臓の効率が下がる症状で、その結果、心臓の中に血液が淀み血の塊ができやすくなります。
この血の塊は脳だけでなく手足に「飛ぶ」ことで血管を詰まらせることがあり(四肢塞栓)、最悪の場合、手や足の切断に至ることもあります。

心房細動の原因は加齢、高血圧などで、特に60歳を過ぎると有病率が高まることが知られています。
最初は突発的に心臓の動きが悪くなるも7日以内に正常に戻る「発作性」ですが、年5.5%の割合で慢性化していきます。

心房細動が慢性化すると、脳梗塞になる確率は3~5倍になります。
しかも、何度も起こす危険性があるのです。
心房細動に伴う胸の苦しみ、動悸などの症状は慣れてしまうこともあるのですが、脳梗塞の予防という意味で治療が必要なのです。

投薬では血をさらさらにして血の塊ができにくくするクスリ(抗凝固薬)、心臓の動きを安定的にするクスリ(抗不整脈薬)などが使われますが、クスリに耐性ができたり、他にも病気があってクスリが使えないなどのケースではカテーテル治療が行われます。
じつは竹中先生は、このカテーテル治療が専門で、経験を積むために海外に留学もしています。

心房細動で使われるカテーテル治療はアブレーションといって、血管内に挿入したカテーテルの先端を高温にして、部分的に組織を壊死させる手法です。

心臓に異常な電気信号が流れることで心房が細かく震える症状が起きます。
カテーテルアブレーションでは、その発生場所を突き止めて、そこからの信号が心臓へと入ってこないように心房の入口を線状に焼いていきます。
2回の手術で95%以上の確率で心臓の正常な脈を維持できるといいます。

この治療法は1991年に開発され1994年に日本で保険承認された新しいもので、心房細動に限らず心臓に関する研究と治療技術は日進月歩のようです。
ということは、心臓を専門にする医者でも方針はさまざまとなってしまいます。
複数の医者に診断を求めることも、必要かも知れません。

問題の根本は、心房細動自体が命に関わることがなく、日常生活も可能なために、治療をしないまま放置してしまうことです。
今回の講座の題目である「怖い」とはそういう意味です。
不整脈は健康診断で実施する心電図で見つかります。

竹中先生は、不整脈は見つかり次第、すぐに専門医のいる病院を受診すべきと重ねて強調していました。

次回は1月27日16時より、田原 信先生(1996年医学部医学科卒)にご来駕いただき、「がん」と診断されたら、どうしたらいい?」と題してご講話いただきます。
みなさま、ふるってご参加ください。

【<「がん」と診断されたら、どうしたらいい?> 第8回フェニックス医療講座】
https://www.hiroshima-u.ac.jp/tokyo/news/42588

(広島大学関東ネットワーク 代表 千野信浩)

<お問い合わせ先> 
広島大学東京オフィス                    
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