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広島大学関東ネットワーク第11回『フェニックス医療講座』実施報告

広仁会(医学部医学科同窓会)関東甲信越支部会と広島大学関東ネットワークは2017年からフェニックス医療講座を定期開催しています。

病気や健康は誰もが気になる話題です。

この医療講座は、病気とは何か、病気とどう向き合ったらいいのかというテーマでの卓話を、広島大学医学部出身の医師にお願いする会です。
専門分野の最新の知識と現場のご経験をお話しいただくことで、より広く深い医療の知識と正しい問題意識を持てるようになる、そんな場になることを目指しています。

9月29日16時より、広島大学東京オフィス(東京・田町)の408号室で、東京都立松沢病院 精神科部長黒田 治先生(88年医学部卒)をお迎えして「統合失調症 診断と治療、周囲の人に望まれる対処法について」との演題で講座を開催しました。

黒田 治先生(88年医学部卒)

厚生労働省の調査によると、2014年の患者総数は統合失調症などが77万人、躁鬱病を含む気分障害が112万人、53万人。足し合わせると50人に一人が精神疾患を抱えていることになります。

これらの疾患が深刻なのは、治療が長期にわたることがそのひとつです。
入院となった場合、退院までにかかる平均的な日数は精神疾患全体で(統計上は「精神および行動の障害」)292日、統合失調症に限ると546日で、他の疾病の10倍以上となっています(いずれも平成26年患者調査より)。

非常にやっかいな病気であることがわかります。

今回のテーマである統合失調症になると、家庭や社会での普通の生活が困難になり、しかも本人に病気である自覚ができない場合もあります。
家族や職場の負担も重くなるという側面を含めて、病気には真摯に向かい合う必要があります。

しかし、こと精神疾患に関してはおおっぴらに相談することがはばかられる心理的な障壁もあり、無理解や誤解も少なくないといえるでしょう。

統合失調症はまだ解明されていないことがじつに多い疾患です。
症状はさまざまで、一人ひとり種類や性質、その組み合わせが異なるだけでなく、時期によって現れる症状が違うこともあります。

その症状は3つのグループに分けられます。

陽性症状:妄想や幻覚、まとまりのない発語や行動、興奮状態
陰性症状:感情鈍麻、意欲低下、自閉性
認知機能障害:注意力や集中力を持続できない、記憶障害、意志決定の困難

こうした症状は、多くが思春期から30代半ばに発症し、過半数が陽性症状と陰性症状・認知機能障害を繰り返したり、いったん収まった症状が再発したりするので、病院での治療には限界があり、周囲の支援も必要となります。
また、生活が乱れることから平均余命が10年ほど短くなるとされます。
さらには、誰が見ても間違いのない診断につながる検査方法がまだ見つかっていません。

現状では精神科の専門医が1 妄想 2 幻覚 3 まとまりのない発語 4 まとまりのない行動や興奮状態 5 陰性状態のうち1,2,3を含む2つ以上の症状が1ヶ月以上常時続いているかどうかで診断します(DSM-5という診断基準の場合)。

原因も特定されていないといいます。

現時点では神経伝達物質(ドーパミン)の過剰によって神経が興奮しているという仮説が有力とされています。
治療も、この仮説を基に行われます。
薬物療法と心理社会的治療が主なものです。

薬物にはいくつかの種類がありますが、いずれもおもにドーパミンの働きをコントロールするものです。
心理社会的療法には個人精神療法(カウンセリング)、集団精神療法(グループディスカッション)、家族療法(家族の病気への理解を深める)、社会生活技能訓練などの精神科リハビリなどがあります。
また、重篤な場合は脳に電気的な刺激を与える無けいれん通電療法が使われる場合もあります。

いずれにしても早期発見・早期治療がなにより重要ですが、現実には完全に健康な状態に戻ることはむつかしいと黒田さんはいいます。
症状をコントロールし、再発のリスクを抑えることが「回復」であり、治療のゴールになります。

一連の治療の過程では、家族や友人の協力が必要になります。
先に触れたように、治療には時間がかかり、自分にとっては経験のない病気なので接し方が分からず、さまざまな苦労が伴うことは覚悟せねばなりません。

統合失調症の患者に接する場合、望ましいとされる対処法がいくつかあります。

・病気と本人のつらさを理解すること
・幻聴や妄想を全否定しないし、肯定もせず寄り添う
・暴力や自殺に走る予兆を見逃さず、警察などにも協力してもらって対処する
・長期間に及ぶので、自分の健康管理にも気を配る
・主治医以外の、地域の保健師などの相談相手を持つ

病気の早期発見、早期治療のためにも、日頃から病気に対する正しい知識を持っておくことが大切だというのが結論です。

最後に、いくつかの参考資料を紹介してもらいました。

「統合失調症の基礎知識 診断と治療についての説明用資料」(日本統合失調症学会による公開資料 「統合失調症」「基礎知識」で検索)
「統合失調症」(日本統合失調症学会監修 医学書院 2013年)
「統合失調症スペクトラムがよくわかる本」(糸川昌成著 講談社 2018年)
「今日の治療薬」(南江堂 2018年)

(広島大学関東ネットワーク 代表 千野信浩)

<お問い合わせ先>
広島大学東京オフィス
Tel 03-5440-9065  Fax 03-5440-9117
E-mail  liaison-office@office.hiroshima-u.ac.jp(@は半角に変換してください)


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