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広島大学関東ネットワーク第13回『フェニックス医療講座』実施報告

広仁会(医学部医学科同窓会)関東甲信越支部会と広島大学関東ネットワークは2017年からフェニックス医療講座を定期開催しています。

病気や健康は誰もが気になる話題です。

この医療講座は、病気とは何か、病気とどう向き合ったらいいのかというテーマでの卓話を、広島大学医学部出身の医師にお願いする会です。
専門分野の最新の知識と現場のご経験をお話しいただくことで、より広く深い医療の知識と正しい問題意識を持てるようになる、そんな場になることを目指しています。

 3月23日16時より、広島大学東京オフィス(東京・田町)の408号室で、埼玉県川口市保健所長の岡本浩二さん(83年医学部卒、厚生省(当時)に医系技官として入省し、一貫して医療行政に携わる)をお迎えして「医療、医療費、医療保険について」との演題でお話をいただきました。

岡本浩二さん(83年医学部卒)による講演

 海外での生活体験のある方ならお気づきかも知れませんが、日本の医療制度は利用しやすく手厚いものとして根付いています。それが当たり前のようになっているがために、日本の医療制度や医療保険制度を振り返ってみる機会は少ないかもしれません。岡本さんは、日本の現状を淡々と説明していきます。

 日本の医療制度は、国民皆保険、現物給付制度(先に医療行為が現物として提供され、費用は事後に医療機関に支払われる)、フリーアクセス(患者が自由に医療機関を選ぶことができる)と3つの特徴があります。

 たとえば皆保険制ではない米国ならば、健康保険は国民自らが用意するものになっています。無保険者が5,000万人近くいるということが折に触れて報じられています。

 かかった医療費を後から清算する現金給付ではなく、医療という現物を先に給付する制度のために、すぐに医療サービスを受けることができます。イギリスでは、まず最初に家庭医にかかることが求められますが、日本では自由に医療機関を選ぶことができます。

 こうした制度が、日本の津々浦々まで構築されていますが、地域格差が存在するのは、日本は民間の医療機関が主体なので、行政のコントロールが及ばない面があるからです。

 しかし、これからやってくる高齢化社会は、これらの制度に根本からの見直しを迫っています。65歳以上の人口はピークを迎えるとされる2042年に4,000万人。2055年には4人に1人が75歳以上となります。財政的な問題が論じられることが多いのですが、急速に高齢化が進む地域では、その数への対応も深刻です。その代表的な地域が、意外なことに東京都です。東京都が公表している予測数字をみると、2015年から2030年の間に75歳以上の人口が50万人増えるとされています。鳥取県の人口と同じくらいの数が新たに上乗せとなるのです。現在の医療制度のままでは、これだけの高齢者のケアに対応するのは難しいのは明らかです。

 そこで、日本の医療は大きく舵を切ろうとしています。岡本さんは、そのポイントを

・治す医療から治し支える医療へ
・病院完結型から地域完結型へ
・地域包括ケアへ

とまとめます。

 75歳以上の高齢者ともなると、病気を完全に治すことは難しくなります。病気とうまく付き合いながら生活を維持していくことを考えねばなりません。医療機関だけでなく、介護制度、地域の各種団体、老人向け住宅サービスなどが連携して対応していくことになります。そうなると、医療のように都道府県単位ではなく市町村(厚労省は中学校の学区単位での仕組み作りを想定しています)が主体となって高齢者のケアを計画しなくては、地域ごとの特殊性に対応できなくなります。しかし、これは市町村にとっては未経験の取り組みで、ノウハウはまだどこにもありません。

 これまで社会が経験したことがない急速な高齢化と人口減少は、医療のありかたそのものに見直しを迫っていると言っても過言ではなさそうです。

 人生100年時代とか、働けるうちはなるたけ働こうという呼びかけは、年金財政というカネの問題ばかりでなく、高齢者を支える社会の再構築への道筋を示しているものでもある、との気づきがありました。

(広島大学関東ネットワーク 代表 千野信浩)

<お問い合わせ先>
広島大学東京オフィス
Tel 03-5440-9065  Fax 03-5440-9117
E-mail  liaison-office@office.hiroshima-u.ac.jp(@は半角に変換してください)


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