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広島大学関東ネットワーク第14回『フェニックス医療講座』実施報告

広仁会(医学部医学科同窓会)関東甲信越支部会と広島大学関東ネットワークは2017年からフェニックス医療講座を定期開催しています。

病気や健康は誰もが気になる話題です。

この医療講座は、病気とは何か、病気とどう向き合ったらいいのかというテーマでの卓話を、広島大学医学部出身の医師にお願いする会です。専門分野の最新の知識と現場のご経験をお話しいただくことで、より広く深い医療の知識と正しい問題意識を持てるようになる、そんな場になることを目指しています。

 7月6日16時より、広島大学東京オフィス(東京・田町)の408号室で、東京女子医科大学循環器小児科特任教授の中西俊雄先生(1974年医学部卒)をお迎えして「人生を決める5分間 私の経験」との演題でお話をいただきました。

中西俊雄先生(1974年医学部卒)による講演

 中西先生は広島大学医学部を卒業後、米国留学などを経て2016年まで東京女子医大で教授の要職にあり、研究と診療の最前線で心臓の病気、なかでも先天的な異常の治療を専門として、のべ1万人の患者と向き合ってきました。

 現役を一歩退いた現在は、都内のいくつかの病院で診察を続ける一方で、生まれ故郷であり医療施設の空白地帯となっていた人口500人の島根県安来市布部(ふべ)で2017年、「ドクター中西 元気クリニック」を開業。月2回、東京との間を往復しながらプライマリケアを提供しています。国内外の心臓病の子どもたちを救う「明美ちゃん基金」の医師団メンバーとして、途上国での治療に当たる活動も行っています。

 月2回の島根県での生活では診療は午前中だけで、午後は農作業を楽しみにしているといいます。中古で農業機械を買い入れ、ゆくゆくはワイン作りにも取り組みたいと考えていますが、そうした農作業の最中に事故が起こりました。

 畑仕事を終えた中西先生はトラクターを運転して農道の坂を下りていました。その日、会合の予定があったため運転の慎重さをおざなりにしてしまい、少しスピードが出すぎて、後輪が左右に振れ始めます。コントロールを失い、山の斜面に衝突。放り出された身体の上にトラクターが転倒してのしかかってきました。近隣の人家は500メートル先。幸運にも助けを求める大きな声に気がついてもらえて、助け出されます。そのままドクターヘリで病院に運ばれました。肋骨を8本折る重傷で、新聞でも報じられています(「農業高齢化、危険度増す 死亡事故率、建設業の2倍」産経新聞大阪夕刊 2016年9月26日付)。記事の中で中西先生は「助かったのは運がよかったとしかいいようがない」とコメントしています。

 生死の分かれ目の体験から、リスクとはなにか、どう対処したら良いのかを考え始めたのは、医療の現場で常にリスクと向かい合ってきた経験がベースにあったからでしょう。

 心臓病の治療、特に手術におけるリスクはヒューマンファクターが非常に多いといわれています。執刀医の技量とセンスが問われると同時に、手術に関わるスタッフもミスを起こします。思い違いを防ぐために情報の共有は不可欠です。十分に準備したつもりでも死亡事故は0.1%、重篤な合併症は0.6%前後発生しています。

 もうひとつのリスクもあります。刑事民事の訴訟です。不幸にして患者が助からなかった場合に、それが避けうるミスがあったのか不可抗力なのかが争われるケースは少なくありません。そのほかにも責任を回避しようとした医師によるカルテの改ざんが発覚することもあります。これは、状況を適切に開示、説明できなかったコミュニケーション能力不足であり、人間の弱さであり、広い意味でのヒューマンエラーなのです。

 トラクターの事故のとき、5分先の運命はわからない、世の中にはさまざまなリスクが存在することを再認識したといいます。それらは予見できるもの、想定外のリスクなどひとくくりにはできません。しかし、5分間の余裕があればリスク回避ができたのではないか、短い時間の重要性に着目します。その考え方をまとめたのが、「5分間ルール」です。

・リスクを取るかどうか決定する際、最後に5分間考える
・決められなかったら(無理に決めず)先送りする
・新しい材料が見つかったら、もう一度検討する。
 そして事故が起きたら絶対に嘘をつかない。すべての責任は自分が取る。

 日々リスクと向き合う医療現場はもちろんのことですが、仕事や家庭でも常に心がけておきたい大切な考え方です。

(広島大学関東ネットワーク 代表 千野信浩)

<お問い合わせ先>
広島大学東京オフィス
Tel 03-5440-9065  Fax 03-5440-9117
E-mail  liaison-office@office.hiroshima-u.ac.jp(@は半角に変換してください)


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