第1回 教育学研究科 D3 柴田 紗知さん

毎日をアクティブにポジティブに

取材日:2017年3月8日

 教育学研究科文化教育開発専攻博士課程後期3年(取材当時)の柴田紗知さんにお話しを伺いました。4月からは福山大学で助教として勤務される予定です。「誠実に、着実に、こつこつと」をモットーに、食事によって健康寿命をのばすべく研究をされています。そんな柴田さんにこれまでの研究生活についてお話ししていただきました。

博士課程後期での主な活動内容

2014年、博士課程後期進学。
2015年、未来博士3分間コンペティション2015に参加。大塚賞受賞。
2016年4~11月、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴのスクリプス研究所に留学。
2017年3月、博士課程後期修了予定。

2017年4月~福山大学に助教として勤務予定。[1]

 

 

 


[1]経歴や予定はすべて取材当時のものです。

1. 研究者を志したきっかけ

 私は食生活や家庭科教育に興味があったため、広島大学教育学部の人間生活系コースに入学しました。そして、科学的根拠のある食品成分の疾病予防について明らかにしたいと考え、食品・栄養学研究室(松原主典先生)へ入りました。高校時代、私は化学や物理はあまり得意ではなく、研究室に入った当初は十分な知識や技術を持っているとは言えませんでしたが、指導教員の松原先生の丁寧なご指導の下、一から学んでいきました。もともと松原先生のされていた研究内容に興味と関心を持ったため、研究室配属が決まった時点で、博士課程後期まで進学することを決意していました。

 現在取り組んでいる研究の内容は、「老齢疾患に対する食品・栄養成分の予防効果と作用機構の解明」です。高齢化が進む現代において、健康寿命を延ばすことは重要な課題といえます。健康寿命を縮める要因である認知症、ロコモティブシンドローム[2]、メタボリックシンドロームといった疾患に対して、食生活は重要な役割を果たします。そこで、これらの疾患に対して、食品機能成分がどのように作用するのか、またその作用機構について、細胞やマウスなどの動物を用いた実験で検討しています。最終的には、食事によってヒトの疾病を予防し健康寿命を延ばすことに貢献したいと考えています。

 

柴田さんの研究の発表資料と要旨

 


[2]「ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)とは『運動器の障害』により『要介護になる』リスクの高い状態になること」。ロコモティブシンドロームは、「『メタボリックシンドローム』や『認知症』と並び、『健康寿命の短縮』、『ねたきりや要介護状態』の3大要因のひとつ」。(日本臨床整形外科学会「ロコモティブ症候群」、http://www.jcoa.gr.jp/locomo/index.html

2. 博士課程後期での研究生活

 大学院での生活は、決まったスケジュールはなく、実験・ゼミ・ディスカッション・デスクワーク・ティーチングアシスタント・セミナーへの参加などを日々行っています。

 

 学費や生活費は、日本学生支援機構等の奨学金やティーチングアシスタントの給与で賄いました。また、アメリカ留学中の費用は「トビタテ!留学JAPAN」に支援していただきました。さらに、研究助成金や学会発表についても「公益財団法人広島大学教育研究支援財団」や「グリーウィング奨学金」等から支援していただきました。

実験中の様子(スクリプス研究所にて)

3. アカデミアという進路の選択

 研究室に配属されて以来、毎年学会に参加・発表する機会をいただきました。その一環として第1回若手研究者シーズ発表会に参加しました。また、博士課程後期2年時には、未来博士3分間コンペティション2015にも参加しました。コンペティションでは企業賞の大塚賞をいただき、大塚製薬へインターンシップに行かせていただきました。インターンシップでは、自分の研究内容について発表し、社員の方からご助言をいただくことができ、新たな視座を得ることができました。また、企業での研究の面白さについて伺い、企業への就職についても関心を持ちました。

 コンペティションの事前研修では博士課程後期に所属する様々な分野の学生と知り合い、コンペディション終了後も、情報交換や相談をできる友人を得ることができたため、参加してとてもよかったと思います。

未来博士3分間コンペティション2015 プレゼン後の様子

4. “トビタテ!留学JAPAN”でカリフォルニアへ

 2016年の4月から11月末まで、「トビタテ!留学JAPAN」を利用してアメリカ カリフォルニア州のサンディエゴにあるスクリプス研究所へ留学しました。

 留学先では、基本的に朝から夕方まで実験を行い、夜にデータ整理等していました。週1で行われるラボのセミナーに参加するとともに、毎週研究室の先生(Martin Lotz先生)と実験結果と今後の流れについてミーティングをしていただきました。Lotz先生をはじめ、研究室の皆さんは私の拙い英語を根気強く聞いて下さり、様々なご助言をくださりました。また、実験や研究以外でも皆さん気にかけてくださり、とても楽しい日々を過ごすことができました。

 サンディエゴには、日本人研究者のコミュニティーがいくつかあります。様々な分野の日本人研究者の方と話をすることができ、自身の進路や今後の人生についても考えることができました。大学院で学んでいたときは、研究室に院生はおらず、同世代の研究者と話す機会はあまりありませんでした。そのため、サンディエゴで様々な国の様々な分野の研究者と知り合い、話すことができたのは私にとって貴重な財産でした。留学まで、実家で生活をしていたため、サンディエゴでの生活が私にとってはじめての一人暮らし(ホームスティとルームシェア)でした。順風満帆の留学生活で住居についてはトラブルもあったのですが、周りの方々に助けていただき、良い思い出となりました。

海外学振(PD)で留学していた八木亜樹子さん(現 名古屋大学 助教)と。

 留学初期に参加した日本人コミュニティーのイベントで知り合った八木亜樹子さん(写真右)とは観光や小旅行を一緒にしました。研究分野は少し異なりますが、研究へ真摯に取り組む彼女の姿に大変刺激をもらいました。留学後も連絡をとりあっており、いつも元気をもらっています。

5. 家庭科を活かして

 家庭科は、文系に近い科目と思われている方も多いと思います。しかしながら、文理関係なく、非常に多くの科目や分野と関係があります。そのため、研究をはじめた当初から「科学的なアプローチで家庭科の授業をしても面白いのでは」と考えていました。そこで、ティーチングアシスタントとして調理系の授業などに参加している際に、科学的な問いかけをしてみたり、広島大学が行っている「女子高生の科学体験」では、私の研究の一部を実際に体験してもらったりするなどの活動を行いました。他にも、留学生への「和食の体験授業」を行うなどし、家庭科の長所を活かせるような活動してきました。

留学生への和食の体験授業:和食についての説明をしたのちに、実際に調理を行いました。

6. 今後の予定

 今後は、福山大学にて勤める予定です。生命工学部の生命栄養科学科という管理栄養士養成課程です。これまでとは、少し異なったフィールドですが、気持ちを新たに取り組んでいければと思います。また、研究面では、引き続き食品機能成分による疾病の予防効果や健康寿命延伸効果について検討を進め、将来的には社会に還元していきたいと思います。

 広島大学で過ごした9年間では、指導教員の松原先生をはじめ、多くの方々に大変お世話になり、充実した毎日を過ごすことができました。これからも感謝の気持ちを大切にしつつ、日々研究と教育に取り組んでまいりたいと思っています。

取材者感想

 柴田さんは本当にポジティブでよく笑う素敵な方だったので、楽しくインタビューができ、私自身が勇気づけられました。今回のインタビューは、柴田さんが非常にアクティブな方なのもあって、研究のお話だけでなく留学やインターンシップ、3分間コンペティション、シーズ発表会など盛りだくさんの内容でした。これから博士課程後期を目指す方などの参考になればと思います。最後に、快くインタビューをお受けくださり、楽しいインタビューの時間にしてくださった柴田さんにこの場を借りて改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

取材担当:総合科学研究科博士課程前期1年 木戸調


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