2024年4月24日、Zoomと対面(総合科学部K210)の同時双方向形式にて、キャリアマネジメントセミナー「シンクタンクでのキャリア形成」を開催しました。
【講 師】株式会社三菱総合研究所 山口 健太郎 氏
【参加者】51名(対面:16名、オンライン:35名)
概要
株式会社三菱総合研究所は、国内でも有数のシンクタンクです。本セミナーにご登壇された山口氏は、2000年から現在まで同社にて勤務されながら、様々な分野に関心をもち、研究活動を継続されています。今回は、「ノンアカデミックキャリアにおける研究活動について」と題し、ご講演されました。
まず、ご自身の経歴を簡単に紹介されました。修士号(工学修士)を取得後すぐに三菱総合研究所へご就職された氏は、社会人になってから博士号(博士(工学))と修士号(広報・情報学修士)を取得されています。また社会貢献の面では、文部科学省にて委員を務め、ご活躍されています。
次に、山口氏自身の「会社員 ときどき 研究」というライフキャリアをたどっていくことで、研究者マインドが社会人としての日々にどのように役立ってきたのかを、時系列に沿ってご説明されました。
学部卒業後すぐに修士課程へ進学された氏は、学生時代に執筆された論文の抜き刷りを手に三菱総合研究所の入社面接に臨まれ、同社へご就職されました。入職後は、様々なプロジェクトに関わられてきました。例えば、1999年のブタペスト宣言をふまえた「社会技術研究プロジェクト」では、自然科学と人文・社会科学の複数領域の知見を統合して新たな社会技術システムの構築に向け、多様な分野の専門家とともに業務にあたられました。また、2005年以降に携わられた食品防御の普及に関する業務では、製造工程・サプライチェーンの脆弱性評価や海外規制との調和に関する部分を担当されました。氏は、これらの業務におけるアカデミア研究者らとの協働、論文執筆などの活動をとおして、研究的な関心が芽生えたと説明されました。
その後、40代を目前に博士課程へ入学されました。きっかけとなったのは、文部科学省の「安全・安心科学技術及び社会連携委員会」の委員に就任されたことです。委員就任にあたり、ご自身の専門性を担保する学位を取得する切実性に迫られ、自身の関心に沿った研究ができる鳥取大学の博士課程に入学されました。「専門家と非専門家の関心の相違」をテーマに研究をされた氏は、5年間をかけて博士号を取得されました。
博士号取得後、氏は、博士課程での研究は、実務的な興味・関心のうち一部を扱うのみにとどまっていたと感じていました。そこで、博士課程での学びの延長戦として専門職大学院へ入学され、「公共的なイシューに関わるコミュニケーションのあり方」に関する修士論文をまとめられました。氏は、この経験をとおして、自身の考えの全体像をまとめることができるようになったと振り返られました。
2つの学位を取得された山口氏は、40代になり、学位取得に係る経験から得た専門性を活かした業務にあたることができるようになったと感じられています。様々な業務にあたるなかで「まだまだだ…」と感じられることも少なくないそうですが、実務家教員との兼職、研究・提言担当への本業の異動などにより、研究と仕事(実践)との往還をされているそうです。
最後に、ご自身のこれまでのライフキャリアを振り返るとともに、将来の予測が困難であるVUCAの時代を生きていく学生たちへメッセージを送られました。大きく、①「働きながら研究も続ける」という選択肢をキャリアプランに加えること、②「誰かのための専門性/知識」という視点にとらわれ過ぎず、前向きに割り切って研究を続けること、③リミテーションが生じることを見通したキャリアプランを考えること、の3点を学生たちにお伝えいただきました。
質疑応答では、「三菱総合研究所における研究のトレンドはどのようなものか?」「三菱総合研究所ではどのような人が活躍しているのか?」「シンクタンクで働くなかで最新の研究動向へのつながりづらくなることはないのか?」「同僚のうち、兼職をしている方はどの程度いるのか?」「博士課程や2度目の修士課程での研究関心はどのように生じたのか?」はなど、活発なやりとりがありました。
山口氏は講義の冒頭、参加者に向けて「『VUCA』の時代、あなたが仕事をする環境(周囲の状況)は、どのようなものになっていると思いますか?」という問いを投げかけられました。AIなどテクノロジーの発展、戦乱の勃発などによる社会情勢への不安により、どのような研究分野にも少なからず影響が生じているのではないでしょうか。社会の動きを敏感に察知し、シンクタンクでの業務や研究に携わられてきた山口氏のライフキャリアを参考に、今後も博士人材としてのキャリアに関する考えを深めてまいります。
(文責:人間社会科学研究科博士課程後期3年 武島千明)
【お問い合わせ先】
広島大学グローバルキャリアデザインセンター(担当 田中)
E-mail:wakateyousei(AT)office.hiroshima-u.ac.jp
*(AT)は半角の@に変換してください。
TEL:082-424-4564