【2024/5/29開催報告】第1ターム キャリアマネジメントセミナー「ベンチャーの選択肢」を開催しました

2024年5月29日、Zoomと対面(総合科学部K210)の同時双方向形式にて、キャリアマネジメントセミナー「ベンチャーの選択肢」を開催しました。

【講 師】京都フュージョニアリング株式会社 長尾 昴 氏
【参加者】22名(対面:15名、オンライン:7名)

概要

核融合炉の研究開発を行っている京都フュージョニアリング株式会社は、スタートアップ企業の一つです。今回の登壇者である長尾氏は、同社の共同創業者 兼 取締役会長を務められています。

はじめに、長尾氏ご自身についてお話されました。氏は修士課程修了後、社会人としてコンサルティング系の会社に勤務されていましたが、土日も返上して熱心に働いたことで、たくさんのキャリアを積むことができたそうです。しかし、肉体的な「キツさ」を感じることも少なくなく、「自分で戦略を立てて働くことのできる民間の事業会社で働きたい」という思いが強まったとお話されました。その後、エネルギー・ソリューションに関する事業を行うベンチャー企業に転職し、新規事業の開拓に携わられることになりました。氏は、ここでも充実した日々を過ごされていたものの、会計上の問題により会社の経営権が他者に移譲されたことを契機に「他人の会社ではなく自分の会社で働きたい」という思いを抱いたとお話されました。この思いから立ち上げた「京都フュージョニアリング株式会社」にて、氏は現在までご活躍をされています。

次に、受講者へスタートアップにおけるキャリア形成の具体に関するイメージを共有するために、京都フュージョニアリング株式会社の創業経緯を事例としてお話されました。
京都大学の小西哲之氏のもつ核融合に関する技術を得ることが決定してから8か月で資金調達を行い、スピード感をもって設立された同社は、小西氏と長尾氏の共同により創業されることとなりました。フュージョンエネルギーは原理的に危険性も少なく、高レベル放射性廃棄物も生成しないため、東日本大震災を経た日本のエネルギー開発においては必要性の高いものとなり得ます。また、燃料を海水から取り出すことができるため、脱炭素社会への貢献にもつながり得る「技術」として着目もされています。同社は、これから発展が予想されるフュージョンエネルギー開発の分野において、限られた部品に特化して核融合に関する装置を生産することにより、日本の強みに立脚したビジネスモデルを確立してきています。
ここまでの話をふまえて、「起業を検討するうえで知っておくべきこと」として、現在氏が考えていることについてお話されました。氏ははじめに、このトピックに「正解はない」ことを前置きされたうえで、スタートアップでは失敗する企業が少なくない一方、事業に失敗した経営者が借金地獄に陥ることはあまりなくなってきているという現状についてお話されました。また、堅実な成長を目指す新規事業の起業とは異なり、短中期での急成長を目指すスタートアップの起業では初期の研究開発の段階で赤字が生じることも説明されました。起業をする際には、そのことを理解したうえで、かつプロに相談をし、実行に移すことが重要だとお話をされました。
加えて、起業を成功させるまでのプロセスは「落とし穴」がたくさんあることについて説明されました。CTO(最高技術責任者)やCEO(最高経営責任者)の選定など、創業前に必要な心構えに加え、資金調達や事業開発、技術開発や人集めの段階で必要な視点について、ご自身の経営者としての経験をもとにアドバイスされました。また、そのなかでも、人集めに関する重要性を強調され、「ブリリアントシャーク」「愚痴拡声器」「チャオズ」などに類するような人材もいるため、採用に際しては、注意してヒトを見極める必要があると述べられました。

質疑応答では、「様々なリスクや理不尽にもまれながらも、どのような心持ちでこれまで業務にあたってこられたのか」「氏には、周りの意見を聞き入れなかったことで成功した経験が実際にあるのか」「座禅を組むなど、普段から精神面を鍛錬するためにされていることはあるのか」「氏が、仲間集めのために意識していることは何か」など、長尾氏の経験に関心をもった質問がなされました。

長尾氏は、講義のなかでスタートアップを「平均が死ぬ世界」と表現されていました。近年、博士課程出身者のキャリア形成においても、激しい競争のなかで生き残っていく能力が求められています。そのためか共感できる点も多く、受講者たちは前のめりの姿勢でお話に耳を傾けていた点が印象的でした。今後も、博士人材としてのキャリア形成について考えを深めてまいります。

(文責:人間社会科学研究科博士課程後期3年 武島千明)

【お問い合わせ先】
広島大学グローバルキャリアデザインセンター(担当 田中)
E-mail:wakateyousei(AT)office.hiroshima-u.ac.jp
*(AT)は半角の@に変換してください。
TEL:082-424-4564


up