研究者マインドと管理職仕事

矢野 泉 学長(広島修道大学)

 

 2022年4月より広島修道大学の学長を務めています。これまで研究者、教育者として歩んできたつもりでしたが、近年、大学院研究科長、副学長、学長と、大学の運営に責任を持つ役割を与えられるようになりました。新聞等で開学以来「初の女性学長」という見出しを、多くの記事でつけていただきました。これまで大学教員として勤める中で、女性であることを意識したことがほとんどないため、その見出しに少し抵抗感がありました。一方で、なぜ自分が女性であることを意識せずこられたのかを振り返る機会にもなりました。同僚のサポートや家族の理解等、周囲の支えが大きいことはもちろんですが、自分自身の心構えとして再認識した点を3つご紹介します。

 ひとつは、無知の自覚です。今も学長という初めての役割を体験中であるように、世の中には自分の知らないこと、体験したことがないことが無限にあります。そのため常に学ぶ姿勢で受け止めます。先入観を持たず、客観的に自分の無知を認識することによって、新しい学び、新しい仕事に常にわくわくすることができるように思います。

 今ひとつは、与えられた仕事は極力断らないことです。若い頃は、自分の経験値が足りないこともあり、様々な仕事をこなしていくことがたいへんな時期もありましたが、1つ1つ仕事が片付く度、新たな知識や技能が身についたり、多様な人との新しい出会いがあり、それらがまた新たな仕事につながっていくきっかけになっていきます。

 そして最後は、与えられた仕事に対して、周りの誰よりもそのことについて知っていると思えるよう、時間をかけて調べたり考えたりすることです。もちろん時間と体力には限界があり、自分の中に悔いが残ることもあります。大きな仕事になればなるほど、自分だけの知識や考えでは最適解が導き出せないこともあります。そうした時であっても、自分自身が誠実に課題解決に向けて学ぶ姿勢を持ち続けることによって、同じ志をもった協力者を得られたことがこれまでも多くありました。

 これら心構えは、実は女性であることよりも、研究者であることに起因する部分が大きいのではないかと感じます。もしかしたら無意識的に「女性であることを理由とする理不尽な責めを負わないように」という負けん気が背後にあったのかもしれませんが、その有無はやはり大した問題ではありません。自分自身としっかり向き合うことができる研究者であれば、研究者としても、管理職としてもそれぞれの場所で楽しみながら働くことができるのではないでしょうか。

(2022年11月掲載)
*所属・職名等は掲載時点のものです。

 

<本学でのご経歴>

1991年3月 広島大学総合科学部 卒業
1996年3月 広島大学大学院生物圏科学研究科博士後期課程 修了[博士(農学)]
2001年4月~2002年3月 広島大学生物生産学部助教授
2002年4月~2015年3月 広島大学大学院生物圏科学研究科准教授


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