大学院人間社会科学研究科経済学プログラム
教授 角谷 快彦
E-mail:ykadoya*@hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
本研究成果のポイント
2020年2月に、全国約17,000世帯を対象に行なった家計調査(※)を通じて、過去3年間の特殊詐欺被害(未遂含む)の経験の有無と、回答者の社会経済的属性を分析しました。
- あらゆる特殊詐欺の潜在的被害者のほとんどは年配者といった先入観は必ずしも正しくないことがわかりました。特殊詐欺はさまざまな詐欺の総称であるため、その脆弱性のメカニズムや対策は詐欺の種類によっても異なります。
- 一方で、金融リテラシー(※1)の高い人は特殊詐欺被害に遭いにくいことがわかりました。なかでも架空請求詐欺および融資保証金詐欺の被害リスクを大きく低減できることがわかりました。
- また、孤独感の強さは特殊詐欺全般、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金詐欺のすべての被害リスクを高めることを明らかにしました。
- ただし、「一人暮らし=強い孤独感」という図式は必ずしもあてはまらず、むしろ家族と同居している人の方が特殊詐欺被害全般、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金詐欺の被害リスクが高いこともわかりました。
(※)株式会社日経リサーチの協力を得て調査を実施。
【調査方法】インターネットによる調査(全国の20歳以上の男女を対象)
【調査時期】2020年2月20日~25日
【有効回答者数】回収数17,463のうちデータに欠損があった回答を除いた11,218を利用
概要
広島大学大学院人間社会科学研究科経済学プログラム 角谷快彦教授と京都府立医科大学の成本迅教授、秋田県立大学の渡部愉教授らの研究グループは、2020年2月に、全国約17,000世帯を対象に行なった家計調査を通じて、過去3年間の特殊詐欺被害(未遂含む)経験の有無と、ターゲットとなった個人の社会経済的属性を分析、金融リテラシーの向上と孤独感の軽減が、特殊詐欺被害リスクを低減することを明らかにしました。
発表内容
【背景】
特殊詐欺被害が件数・被害額ともに長年高止まりしています。これまで、公的機関を中心に対策を促す啓蒙活動等が全国で実施されてきましたが、注意喚起に反応する人はそもそも犯罪リスクに対する意識の高いケースが多いことから、抜本的な解決には至っていませんでした。また、この度のコロナ禍で注意喚起にとって重要な人と人との接触が制限される中、犯罪件数の増加も懸念されています。
こうした中、そもそもどのような社会経済的属性を持った人が特殊詐欺リスクに対して脆弱なのか、そして多数の犯罪の総称である「特殊詐欺」のなかで、具体的にどの種類の犯罪に脆弱なのかを検証し、被害リスクの高い属性を持つ人に必要なサポートを効率よく提供することは、犯罪被害軽減を大きく前進させる上で極めて重要です。
【研究成果の内容】
今回、広島大学の角谷教授、京都府立医科大学の成本教授、秋田県立大学の渡部教授らの研究グループは、株式会社日経リサーチの協力を得て、2020年2月に全国規模の家計調査を実施。過去3年間の、未遂を含む特殊詐欺被害の有無と回答者の社会経済的属性を分析。特殊詐欺全般と、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金詐欺といった個別の詐欺への脆弱性に対する脆弱性を持つ社会経済的属性の特定を試みました。
その結果、あらゆる特殊詐欺の潜在的被害者のほとんどは年配者等という先入観は必ずしも正しくないことがわかりました。特殊詐欺は複数の詐欺の総称であるため、その脆弱性のメカニズムや対応策は詐欺の種類によっても異なります。一方で、金融リテラシーの高い人は特殊詐欺被害全般、なかでも架空請求詐欺と融資保証金詐欺の被害リスクを大きく低減すること、孤独感の強さは多くの詐欺への脆弱性を高めることがわかりました。
一方で「一人暮らし=強い孤独感」という構図は必ずしも成り立たず、同居人の存在は詐欺被害リスクをかえって高めていること等もわかりました。
特殊詐欺被害の軽減には、特殊詐欺全般のみならず、詐欺の種類に応じた詐欺脆弱性を特定し、該当する層に対し集中的なサポートを提供することが有効です。本研究結果は、特殊詐欺被害の抜本的な軽減に科学的な示唆を提供することができました。
用語解説
(※1)金融リテラシー
国際的に利用されている、金融リテラシーの高さを問う3問の設問の正答率を用いて定量化しています。質問の内容は、複利やインフレ率等に関するものです。
論文情報
- 掲載誌: Frontiers in Psychology
- 論文タイトル: Who Is Next? A Study on Victims of Financial Fraud in Japan
- 著者名:角谷 快彦1、カン ムスタファ1、成本 迅2、渡部 諭3
1. 広島大学大学院人間社会科学研究科経済学プログラム
2. 京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学
3. 秋田県立大学総合科学教育研究センター - DOI: https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.649565